人が消えた! ーー凛視点
舞香の家へ歩いて向かう。 夕方の住宅街を、制服姿で歩く。 すれ違う人がいないことが、なんだか落ち着かない。 どうしてだろ?
舞香の家が見えてきた。 部屋に明かりがついている。
ーーあれ? 玄関のドアが、開いている。
「舞香?」
半開きのドアの隙間から、家の中の明かりが漏れていた。 閉め忘れ? いや、こんなに開けっ放しにする?
胸騒ぎがした。 泥棒だったらどうしよう。 でも、舞香に何かあったら。
「お、お邪魔します……!」
私は意を決して、家の中に入った。 廊下を進むと、リビングから声が聞こえる。
「もう、一人で抱えなくていいよ……」
舞香の声だ。 すごく、優しい声。
「大丈夫。 昔みたいに、私に甘えてよ……」
そっと、リビングを覗き込む。
そこには、抱きしめ合う舞香と、お姉さんの彩乃さんの姿があった。 彩乃さんは舞香の肩に顔を埋めて、肩を震わせている。
ーーなんだ。 姉妹喧嘩の、仲直りか。
私は胸を撫で下ろした。 泥棒でも、事件でもなかった。 ーーそれにしても、いい場面に来ちゃったな。 声をかけるタイミングが、完全になくなってしまった。
どうしよう、一回外に出て、チャイムを鳴らし直そうかな。 そんなことを考えていた、その時だった。
「……舞香。 ありが……」
彩乃さんの体が、ふっと、薄くなった。
光の粒みたいなものが、ほどけるように宙に散って。 舞香ちゃんの腕の中から、彩乃さんが、いなくなった。
目を擦る。 何度も擦る。 でも、リビングには舞香しかいない。 さっきまで確かにそこにいた人が、跡形もなく。
「……人が、消えた? 一体なにが起こっているの?」
気づいたら、大声で叫んでいた。
舞香ちゃんが、ゆっくりとこちらを振り返る。 泣いた跡のある顔で、私を見て、きょとんとしていた。
「……りんちゃん? いつからそこに……」
「い、今! 今来たの! ドアが開いてたから、心配で……そ、それより舞香ちゃん! お姉さんが! 彩乃さんが、め、目の前で消え……!」
「……うん。 そうだね」
「そうだね!? なんでそんなに冷静なの!?」
私が部屋中をきょろきょろ見回していると、舞香ちゃんは涙を拭って、ふっと笑った。
「……ふふ。 あはは!」
「な、なんで笑うの!」
「だって、りんちゃん……。 ツッコミどころ、そこなんだもん」
舞香ちゃんは、ひとしきり笑った後、私の頭から爪先までを、まじまじと見た。
「……というか、りんちゃん。 なんで制服なの?」
「えっ?」
「だって、りんちゃん、朝、パーカーにジーンズだったでしょ! それなのに、ばっちり制服着ちゃって。 今から学校でも行くの?」
「そ、それは……その……」
うう。 まさか、ここでツッコミ返されるなんて。 顔が熱くなるのを感じながら、私は正直に白状した。
「……学校に、行こうと思って。 私も、自分の理想を見つけたくて……。 その、一人だと心細いから、舞香や瑞稀に一緒に来てもらおうと……」
「……そっか」
舞香は、驚かなかった。 ただ、少し悲しそうに目を細めた。
「……りんちゃんも、決めたんだね。 写真撮っとけば良かったな〜」
「ちょっと、瑞稀と同じこと言わないでよ! せっかく、立ち直ったのに……」
「でも、似合っていたよ? たまにでいいから、見たいな〜」
「それより! 話を逸らさないで! 彩乃さんは!? 消えたんだよ!?」
「ふふ、ごめんごめん」
舞香ちゃんは、彩乃さんが消えた場所を、そっと見つめた。 その横顔は寂しそうで、でも、どこか晴れやかでもあった。
「……りんちゃん、聞いてくれる?」
「え?」
「私と、お姉ちゃんの話。 ……ちょっと長くなるし、たぶん、すぐには信じられないと思うけど」
舞香は、私の目をまっすぐに見た。
「覚悟を決めてきたりんちゃんには、ちゃんと、話しておきたいの」
夜のリビングで、舞香は、ゆっくりと語り始めた。
ーー視える力のこと。 蓋をした、あの日のこと。 そして、お姉ちゃんの願いのことをーー




