お姉ちゃんの願い ーー舞香視点
お姉ちゃんは、笑顔で料理をしていた。 そんな時、鍋の水が私にかかって、服がびしょ濡れになってしまった。 心配する私に、お姉ちゃんはドヤ顔だった。
そして、着替えてきた。 メイド服にーー
「お姉ちゃん? どうしたの、その服⋯⋯」
「ふふ。 これが私の勝負服よ!」
お姉ちゃんは私たちに見せびらかすように、一回転した。
「お嬢様方。 もうしばらくお待ち下さいますよう、お願い申し上げます」
「お姉ちゃん? また発作が⋯⋯」
私は、お姉ちゃんの病気が治ってないことを知った。 さらに、追い打ちをかけるように、こう言った。
「ククク、我が右手が疼く⋯⋯体が熱い燃えるようだわ! 力がドンドンみなぎってくる。 私は更なる高みに登るわ!」
「⋯⋯お姉ちゃんが、完全におかしくなっちゃった。 ことねお姉ちゃんに相談しないと⋯⋯」
私は、ことねに相談した。 彼女は、真剣な声で頷いていた。
そして、次の日の夜。
「え? 二人? 私は二重人格なの? そうなの私? 答えなさいよ私! 知らない振りをしないでよ! 私!」
お姉ちゃんは、部屋の鏡に向かって吠えていた。 私はことねに連絡する。
「ことね。 またお姉ちゃんが一人でぶつぶつ言ってるの」
「もう、困るわね ⋯⋯私も説得したんだけど、彩乃が全然言うことを聞いてくれなくて。 ……多分ね今、もう一人の自分と会話しているのよ」
「この前も『右手が疼く』とか『覚醒したこれが私だ!』とか一人で騒いでて、心配だよ」
「大丈夫。 私がなんとかするから、安心して舞香」
「ありがとう! ことね!」
ことねが言うには、お姉ちゃんは二重人格者だそうだ。
その説明で私は納得した。 お姉ちゃんの奇行の理由は、それだったんだ。
理由を知った時、私は疲れてしまった。 ーーこんな時に、お母さんとお父さんが居ればいいのに。 その時、だった。
「舞香……」
「舞香……」
え? お母さんとお父さんの声がした?
ーーそして私は、霊感を取り戻した。
◇◇◇
「……それからのことは、お姉ちゃんの言う通りだよ。 私は、お母さんとお父さんの幻影を見るようになった。 ……でもね、それは絶対に悪霊が原因じゃない!」
私が大声で叫ぶと、お姉ちゃんは動揺した。
「……なんで、そうだと言い切れるの? ……舞香は覚えてないんだろうけど、アイツは最後に……」
「……覚えているよ、絶対に忘れない」
私がそう言うと、お姉ちゃんは安心した表情をした。
「……そうよね! だったら……」
「でも。 ……これは違うんだよ、お姉ちゃん!」
「何が違うって言うの、舞香!」
お姉ちゃんの声は、震えていた。
私たちには、もともと「視える」力があった。 お母さんも、おばあちゃんも、その家系に生まれた私たちも。
「お姉ちゃんは、りんちゃんに言ったよね。 舞香が視ているのは、悪霊が視せている幻影だって。 二人の仇の悪霊が、私を陶酔させて、溺れさせて、喰らおうとしてるんだって」
「そうよ! だって、そうとしか……」
「あのね、お姉ちゃん。 私、ずっと考えてたの……」
「舞香?」
私は、お姉ちゃんに事実を打ち明ける。
「私たちはね。 視えないように、蓋をしたんだよ。 あの日から……」
お姉ちゃんの肩が、びくりと跳ねた。
「……やめて、舞香」
「……理由はわからないけど。 ことねに運ばれて帰ってきたあの日、蓋が取れちゃったんだよね?」
「お願いやめて!」
お姉ちゃんの目から涙がこぼれる。 お姉ちゃんはずっと、ずっと、こわかったんだ。 だから、役者みたいに振る舞って必死に、頑張っていたんだね。
ーー私のために。 妹の私に、心配をかけまいとして。
「……お姉ちゃん」
私は、お姉ちゃんを、ぎゅっと抱きしめた。
「もう、一人で抱えなくていいよ……」
「……」
「大丈夫。 昔みたいに、私に甘えてよ……」
「舞香? ……舞香!」
お姉ちゃんが、私の肩に顔を埋めた。 私たちは、ここ数年の心の溝を埋めるように抱きしめあった。
「……舞香。 ありが……」
「お姉ちゃん? ……そっか」
お姉ちゃんが消えた。 まるで自分の想いを叶えたみたいに。
ーーお姉ちゃんは誰かに自分の気持ちをわかってもらいたかったんだよね。
その時、だった。
「……人が、消えた? 一体なにが起こっているの?」
りんちゃんが、私を見て呆然としていた。




