幻覚を認めない私たち
舞香の声が、リビングの中に響いた。 舞香自身も、私たちに聞かせるつもりはなかったんだろう。
ーーしかし、ここにいる全員の耳に聞こえてしまった
「瑞稀?」
「……」
彩乃が、驚きの表情で私を見てくる。 私は、何も言えなかった。
しばらくの沈黙の後、諦めた彩乃は舞香に尋ねた。
「舞香? 瑞稀が一緒ってどういう意味?」
「……そのままの意味だよ、お姉ちゃん。 みずちゃんも、私と同じ。 ……幻想に縋りたいだけなんだ……」
ーー幻想だって? 舞香? 一体、何言っているの?
「……マイマイ」
「……ミウミウ」
ミウミウが、舞香の手にそっと手を重ねた。 さっきまでの怒鳴っていた時とは、まるで違う雰囲気。
「舞香。 いないと認めたこと。 覚悟がいたことだと思いますわ」
「……うん」
ーーずるい。 そんな言い方。
私が反論できないでいると、舞香がゆっくりと立ち上がった。
「……ねえ、みずちゃん」
舞香は、私に向けて語りかけた。
「お母さんとお父さんは……本当はいないの……だから」
「……なに言っているの舞香? いるよ? ほらここに……」
私はリビングの席に向けて、指を指す。 返事はない。
舞香は、その場所を一瞥した。 しかし、その後私をジッと見つめてきた。
「……みずちゃん。 そこに、お母さんやお父さんは、いないんだ……」
舞香の声は震えていた。
「……ずっと昔にね。 私がまだ小さい時にね……」
「……」
「……幻だったんだ、ずっと私に見えていたのは……」
「……舞香」
私は、彼女の名前を呟くことしかできない。
ーーなんで? 舞香は、私と一緒だったはずなのに。
「……だから。 縋るのは、やめよう。 私が一緒だから……」
舞香の目から、涙がこぼれた。 そして、私の手を握ろうとしてくる。
「……なんで? 私は認めないよ? 認めないから!」
「瑞稀? 瑞稀!」
私は、舞香の手から逃げるように、リビングを出て、そのまま家を後にした。
◇◇◇ 舞香視点
「瑞稀……どうして? 今すぐに、追いかけないと……」
「ミウミウ待って!」
私は、ミウミウを呼び止めた。 ミウミウは、私のことを見つめてくれた。
「……みずちゃんわね。 本当は、わかっているの」
「え? ……わかっている、ですの。 それなら、どうして……」
私は、ミウミウの手を握った。 この気持ち、伝わって!
「みずちゃんの話を聞いてあげて。 彼女はまだ、心の整理ができていないだけなの。 ずっと、一人で抱え込んでいたと思うの。 だから……」
私も、ミウミウを見つめる。 彼女は大きく頷いた後、リビングを後にした。
そして、リビングに残ったのは、私とお姉ちゃんだった。
「……舞香」
「お姉ちゃん。 私、怒っているんだけど」
「え? な、なんでよ?」
お姉ちゃんは、私の発言に驚いている。
「お姉ちゃんも、私と変わらない。 ……いや、私以上にタチが悪いよ。 わかっているよね? お姉ちゃんも幻覚を見ているんだよ?」
「……私が? そんなわけないでしょ?」




