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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
VSことね編

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205/232

舞香の理想 ーー凛視点

 お風呂は、舞香が「一緒に入ろう!」と言ってきた。


 「だってりんちゃん、寂しそうなんだもん。 一緒に入った方が、あったかいよ」

 「……えっと、そんな訳ないでしょ!」

 「もう! そんなこと言わずに、どうぞ!」

 

 桐原家のお風呂は、私の家より少しだけ広かった。 白い湯気の中で、舞香はずっと、楽しそうに話し続けていた。 


 「あのね、みずちゃんはね、ちょっとおかしいの。 なんだか、悩んでるみたいで……」

 「⋯⋯そう、なんだ」


 ーー私にとっては、貴方もなんだけど。


 「でもね、私たちが支えてあげれば、きっと大丈夫だよ!」

 「そうよね……」


 舞香は、私の背中を、優しく流してくれた。 その手のひらは、あったかかった。


 ーー舞香は、本当に、舞香だ。


 お母さんとお父さんが見えていることを除けば、舞香は何も変わっていない。 いつもの太陽みたいな笑顔で、私の凍えた心を溶かしてくれる。


 ーーだとしたら、何が「おかしい」んだろう。


 お風呂上がり、舞香の部屋。 舞香のパジャマを借りた。 少しだけ袖が長くて、舞香の匂いがした。


 「りんちゃん、私のパジャマ似合うね!」

 「⋯⋯ありがとう」

 「ふふっ。 ねえ、寝るまで、おしゃべりしよ?」


 舞香のベッドは、シングルだった。 二人で寝るには、当然だけど少し狭い。 でも、舞香は嬉しそうに、私を引っ張り込んだ。


 お布団の中、向かい合わせ。 舞香の目が、すぐ近くにある。


 「りんちゃん」

 「⋯⋯うん」

 「私ね、りんちゃんがうちに来てくれて、すっごく嬉しい!」

 「⋯⋯私も」

 「家族みんなで、りんちゃんを迎えられて、嬉しい」

 「……」


 ーー家族みんなで。


 その言葉に、胸の奥がきゅっと痛んだ。


 舞香の家族は、舞香と、彩乃さんだけ。 なのに、舞香は「家族みんなで」と言う。


 「⋯⋯ねえ、舞香」

 「ん?」

 「舞香にとって、一番大切な人は誰?」

 「うーん⋯⋯」


 舞香は、少し考えてから、にっこり笑った。


 「お母さんと、お父さんと、お姉ちゃん。 それから、りんちゃんと、瑞稀ちゃんと、ことねちゃんと、健ちゃんと⋯⋯」

 「⋯⋯ふふっ」

 「みんな、大切! 順番なんて、つけられないよ!」

 「⋯⋯そっか」

 「りんちゃんは?」

 「⋯⋯私は」


 私は、少しだけ考えた。


 「⋯⋯舞香。 舞香が、一番大切ね」

 「⋯⋯えへへ」


 舞香は、嬉しそうに、私の手を握った。 


 「⋯⋯おやすみ、りんちゃん」

 「⋯⋯おやすみ、舞香」


 舞香の寝息は、すぐに聞こえてきた。 すうすうと、規則正しい呼吸。 穏やかな寝顔。


 ーーごめんね、舞香。


 私は、布団から抜け出した。 夜の空気は、冷たかった。


 桐原家の玄関を出て、少し歩いたところに、小さなベンチがあった。 街灯の明かりが、ぼんやりとそこを照らしている。


 彩乃は、もう、そこにいた。 薄手のカーディガンを羽織って、両手で温かい何かを持っている。 近づくと、ココアの甘い香りがした。


 「⋯⋯舞香、寝た?」

 「⋯⋯うん。 今、寝たばかり」

 「そう。 ありがとう、来てくれて」


 彩乃が、もう一つのマグカップを、私に差し出した。


 「⋯⋯飲んで。 あったまるから」

 「⋯⋯ありがとうございます」


 マグカップを受け取る。 じんわりと、手のひらに温かさが伝わってきた。


 彩乃が、ベンチの端に寄って、座る場所を空けてくれた。 私は、そっと、隣に腰を下ろした。


 しばらく、二人とも、黙っていた。 虫の声が、どこからか聞こえる。 


 彩乃が長い息を吐いた。 白い息が、街灯の光の中で、ふわりと消えていく。


 「⋯⋯凛ちゃん」

 「⋯⋯はい」

 「これから話すこと。 舞香には、絶対に言わないでね」

 「⋯⋯はい」


 彩乃は、マグカップを、両手でぎゅっと握りしめた。 その指先が、少しだけ、震えていた。


 そんな中でも、彩乃はおもむろに口を開いた。


 「……舞香はね。 あの子が描く『理想』の日々を過ごしているのよ……」

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