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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
VSことね編

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202/236

貴方の元へ ーー凛視点

 住宅街を目的地に向かって歩いた。 私の行き先は、決まっていた。


 道中の商店街には、人通りがまったくなかった。


 ーー舞香。 彼女の顔が、真っ先に浮かんだ。 あの人懐っこい笑顔。「りんちゃん」と呼ぶ、甘ったるい声。 今、無性に会いたい。


 息を切らせて辿り着いたのは、桐原家。 私は、震える指で、チャイムを押した。


 ーーピンポーン。


 しばらくの沈黙の後、インターホンから声がした。


 「⋯⋯はい」

 「黒田凛です」

 「黒田凛って言うのね……」


 出てきたのは、桐原彩乃。 舞香の姉だった。 けれど、彼女の声音には、警戒心を感じる。


 「……何の御用かしら?」

 「⋯⋯舞香に、会いに来たの」

 「……えっと。 舞香は、忙しいの。 明日、学校で会えばいいわよ?」


 私の心臓が、きゅっと縮こまる。 ーーやっぱり、無理かな。


 でも、引き下がれない。 今日だけは、引き下がりたくない。


 「⋯⋯少しだけでいいの。 お願いします」

 「⋯⋯それは。 駄目よ……」


 彩乃が、深いため息をついた。


 「そうだ。 ……舞香はね。 調子が悪いの。 さっき、瑞稀も来たけど、断ったのよ!」

 「瑞稀も来てたのね……」


 調子が悪い。 その言葉が、胸に刺さった。 


 「⋯⋯私には、舞香しか、いないの」

 「……どうしたのよ?」

 「家に、誰もいなくて。 私、一人で⋯⋯」

 「⋯⋯あなた、何を言って」


 彩乃が、眉をひそめた。 明らかに、不審そうだ。


 駄目だ。こんなこと言っても、伝わらないわ。 その時だった。


 「お姉ちゃん? どうしたの!」

 「……!」


 僅かに聞き慣れた声がした。


 ぱたぱたと、軽やかな足音。 彩乃の背後から、舞香の声がする。


 「⋯⋯あれ? りんちゃん! こんにちは!」

 「⋯⋯ま、舞香」

 「お姉ちゃん。 なんでりんちゃんが来てるのに、教えてくれないの?」

 「⋯⋯舞香。 この子は、あなたに会いに来たそうだけれど、お断りしようと⋯⋯」

 「りんちゃん、上がって上がって!」


 ーーああ、舞香だ。 舞香の声がする。 目の奥が、じわりと熱くなった。


 「⋯⋯舞香」

 「りんちゃん? どうしたの、目が潤んでるよ?」

 「⋯⋯なんでも、ない」

 「ふふっ。 早くおいでよ!」


 あの太陽みたいな笑顔。 私の凍えた心を、すぐに溶かしてしまう、魔法みたいな笑顔。 体育大会の時のことを思い出す。


 「りんちゃんは、私の大切なお友達なの。 歓迎しないと……」

 「舞香。 ⋯⋯はぁ。 仕方ないわね」


 彩乃が、もう一度ため息をついた。


 「⋯⋯ごめんなさいね、黒田さん。 妹が、お世話になっているのに」

 「⋯⋯いえ」

 「おかしなことがあっても、舞香を嫌いにならないでね?」

 「……?」

 

 私は玄関のドアを開けて、中に入る。 玄関には舞香が待っていた。


 だけど私を見るなり、舞香は首を傾げた。


 「ねえ、りんちゃん。 どうしたの? なんだか、いつものりんちゃんと違うね。 服とか……」

 「⋯⋯舞香」

 「うん」

 「私の家に、誰もいないの……」

 「⋯⋯え?」


 舞香の表情が、ぴたりと止まった。


 「お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも⋯⋯みんな、いなくて」

 「⋯⋯」

 「でも、顔は、思い出せるの。 声も、笑い方も。 なのにいない。 いつから、いなかったのかも、わからないの……」

 「⋯⋯りんちゃん」

 「私、おかしくなったのかな⋯⋯」


 言葉にしたら、止まらなくなった。 ぽろりと、涙が頬を伝う。


 舞香は、何も言わなかった。 ただ、私の手を、強く握り直しただけだ。


 「⋯⋯りんちゃん。 とりあえず、上がって? ね?」

 「⋯⋯うん」

 「ゆっくり、お話、聞かせて。 お姉ちゃんには、私から言っておくから」


 舞香に手を引かれて、私は桐原家の中へと足を踏み入れた。


 私には、舞香がいる。 その安心感だけで、今は十分だった。


 ーーしかし、その安心は一瞬で崩れた。


 「お母さん、お父さん。 この子が凛ちゃん! 私たち親友なんだ!」

 「……えっと。 どこにいるのかしら?」

 「なに言ってるの? ここにいるでしょ!」


 舞香の声が、誰もいないリビングに響いたのだった。

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