呪禁開花
「……で。 貴方達は、どうしてここにきたのかしら?」
「あ……えっと。 それは……」
ことねが、ニヤニヤしながらソファに腰を下ろす。 ひとみも、その隣に座った。
「何の用があって、来たのよね? ……まさか、美羽とイチャイチャしに来たわけじゃないでしょ?」
「……それは」
ーー言わなきゃ。 ちゃんと、伝えなきゃ。
私は、深呼吸をする。 膝の上で、手を組み直す。
「⋯⋯あのね」
「うん」
「ミ、ミウミウが⋯⋯ ミウミウの様子が、変だったから⋯⋯」
「瑞稀?」
「⋯⋯怖くて。 まるで、偽物みたいで。 二人だけは、嫌だったの!」
言ってしまった。 部屋の空気が、止まった気がした。
「⋯⋯瑞稀?」
ミウミウの声が、震えている。 私の肩に預けていた頭が、ゆっくりと離れていく。
「⋯⋯私と、二人きりが、嫌でしたの? 本当に、偽物だと思ってましたの? 私は私。 ずっと、偽物ではないですわよ?」
「⋯⋯っ」
ーー違う! そういう意味じゃない! でも、口が動かない。 言葉が、出てこない。
「⋯⋯私、瑞稀に⋯⋯怖がられて⋯⋯」
「ミウミウ! 違うの、今は違うの! でも、さっきまでは、本当に怖くて!」
「⋯⋯」
ミウミウの肩が、小さく震えていた。 顔を、見せてくれない。 私は、何を言ってしまったんだろう。 せっかく、ミウミウって呼べたのに。 せっかく、彼女の気持ちを聞けたのに!
ーーやっぱり、私って駄目だね。
そんなことを考えていると、ミウミウが、私に抱きついてきた。
「まあ! また、瑞稀ってば『私って駄目だね』って表情をしてますわね! 瑞稀はわかりやすいですわ!」
「……ミウミウ。 偽物扱いしてごめん……」
私たちは、もう一回抱きしめ合った。
「……なあ。 お前らわざわざ、イチャイチャしに来たのかよ!」
ひとみが、私たちに茶々を入れる。 私はひとみにムッとした。
「アァ? なんだよお前ら……まるで邪魔するなって言いたいようだなぁ?」
「⋯⋯ちょっと、いいかしら?」
その時、ことねが口を開いた。 いつもの、生意気な調子じゃない。 どこか、真剣な声色だった。
「ことね?」
「貴方のあの力。 ……あれはやめなさい。 廃人になるわよ」
「⋯⋯え?」
私は、ことねの顔を見た。 彼女の目は、いつになく鋭かった。
冗談を言っている目じゃない。 脅かしているわけでもない。
ーーことねは本気で、心配している目だった。
「⋯⋯」
「とぼけないで美羽。 あの三人組を跪かせた力のことに決まってるじゃない」
「え? なんで二人とも、そのことを知っているの?」
「アタイらも、あの現場にいたんだよ!」
「なんだって!」
ことねとひとみも、あの現場にいたんだーー
あの時、無我夢中だったから。 よくわかってないけど。 ミウミウの使っていたあの力。 声を出すだけで、人を操れた力。 あれが何なのか。
どうして、ミウミウにそんなことができたのか。
聞こうと思っていたのに、忘れてたよ!
「⋯⋯ミウミウ。 あれって、なに?」
「⋯⋯」
「教えて。 ちゃんと、知りたいの!」
「⋯⋯はぁ」
ことねが、深いため息をついた。 代わりに答えるつもりのようだ。
「詳しい仕組みは、私も知らないわよ。 知ってたのは『私』。 ただね……」
「うん」
「あれは、命を削る力。 使えば使うほど、貴方の何かが、削れていくの。 体か、心か、魂か⋯⋯それは、わからないけれど」
「⋯⋯」
「だから、二度と使っちゃダメ。 わかった?」
「……」
ことねの言葉が、ずしんと、胸に落ちる。
ーー命を削る、力。
頭の中に、あの時の記憶が蘇る。 ミウミウが声を出した途端に、アイツらは、跪き。 アイツらの煩い口も、一言で閉じた。
ーー欲しい。 私の中で、消えない。 想いが、静かに燃えていた。
元の世界に戻ったら、あの力でアイツらを屈服させてやる!
私が跪かせて! 謝らせて! そして、呪い殺すーー
そのためなら、命が削れたって構わないよ。
「⋯⋯ミウミウ?」
「⋯⋯」
「ねえ、聞いてる? 返事しなさいよ」
「⋯⋯あの力は、あの日、開花したのですわ……」
「あの日?」
「……そう。 瑞稀が病院送りになった次の日。 ……学校でみんなが、瑞稀のことを忘れたあの日……」
ーー深い絶望とともに、授かったんですの。
そう、ミウミウは言った。




