あれ? デジャヴ?
ご飯を食べ終わった後、ことねが湊を見て囁く。
「……湊。 安心して、私は大丈夫だから」
「……ことね」
「みんないる。 私、ひとりじゃないから」
ことねが湊を説得している。 湊とことねは、なぜか涙を流していた。
けれど、嗚咽は漏れてない。 代わりに、湊がふっと笑った。
ーー泣きながら笑う。 その顔を見ていたら、違和感を覚えた。
「……そう。 そうだよな」
「ええ」
「ごめんな、ことね。 急に、泣いて悪かった……」
「いいえ。 私もよ。 ……悲しいのは私も同じなんだから」
「ことね……」
湊は少し、考えるように目を伏せた。
「……なあ、ことね」
「ええ」
「あのカレーはそういう意味だよな?」
「……」
「俺がいなくても、大丈夫って言いたいんだよな……」
「……ええ」
湊の目が、まっすぐ、ことねを見ていた。 湊は、たぶんわかっている。
その上で、聞かないでおいてくれようとしている。
「……ええ。 その通りよ」
「いいんだ。 ことねがいい子なのは、俺が一番、知ってるから」
「……」
「ただ、な」
湊が、ゆっくり息を吸った。
「俺な。 ずっと、後悔してたんだ……」
「……」
「俺は言い訳をしていた。 お前には料理できないからと……」
「……」
「俺がいないと駄目だって、勝手に思っていた……」
「……」
「気づいた時には、ことね。 お前の料理は壊滅的だった。 もちろん、ずっと心配してたんだ。 信じてくれ、ことね!」
「……」
湊の声が、震えていた。
「……一年前ぐらいだったかな。 俺が帰ってきたら、お前がカレーを作っていた……結果は大惨事だったな。 それから、俺はお前の台所入りを禁じた」
「……湊」
湊の手が、ことねの手を、握り返した。 今度は湊のほうが、強く握っていた。
ーーえっと。 私たちは何を見ているのかなぁ?
「数ヶ月経って。 ある日、突然ことねが、カレーライスの作り方教えて、って。 言ったのを覚えているか?」
「……覚えているわよ」
「俺さ。 その時台所で、泣いちゃって……ことねの前じゃ、泣けないから、トイレに駆け込んで、声を殺して泣いたんだぜ……」
「……」
「……ことねが、俺に料理の作り方を聞いてくるなんてな。 神様ありがとうってな……」
「ありましたわね! 私、湊のカレーに夢中で、深く考えてませんでしたわ!」
櫻井さんが、空気を読まないトーンで発言した。
ーーけれど、みんなは無視をした。 あ、櫻井さんが拗ねた!
私は、当時の光景が、見える気がした。 台所で、泣いている湊。トイレで、声を殺している湊。
「湊、ごめんなさい……」
「謝るな! いいんだ。 いいんだぜことね!」
湊が、ことねを引き寄せた。 湊の胸に、顔が埋まった。
「……俺はな。 その時思ったんだ。 お前が料理を作れる未来を……」
「……ええ」
「そして俺は、ことねの手料理を食べるんだって……」
「……ええ」
「もしことねが、完食できない程の料理を作ったら、またアドバイスしよって! できるまで、俺は絶対にお前から離れないって!」
「……」
湊の手が、ことねの背中を、ゆっくり撫でた。
「美羽が、家に来てくれた時本当に嬉しかったぜ!」
「……」
「家がにぎやかになってな……食費は倍増したけどな」
「……ええ」
「ひとみも、きたな。 コイツ。 礼儀正しくて、しっかりしてて。 ことねのこと、すごく大事にしてくれてるのがわかったぜ」
「……ええ」
真剣な話し合いの中、櫻井さんとひとみが頷いていた。
ーーうん。 この時間なんなのかな? デジャヴを覚えるんだけどーー




