ことねと瑞稀のカオス? クッキング
ことねは食材を調理台に並べると、満足げに頷いた。
「さて、今日作るのは、カレーライスよ」
「カレーライス?!」
「やっぱりだぜ……」
「ですわ……」
私は思わず声を上げてしまった。 トマト、バナナ、チョコレート、納豆。
ーーなるほど。 でも、まだ足りないよ?
「ことね。 コーヒーの粉も入れようよ! なんか茶色っぽいし!」
「瑞稀…… 貴方、天才ね」
ことねと握手する。 私たちは最強コンビだね!
「……瑞稀。 どうしてことねは、名前呼びで私は苗字ですの……」
「ひとみ。 今は、そんなことで憤ってる場合じゃねぇよ」
ひとみが、猫の手袋でおでこを押さえながら呟いた。 その姿は、絶望した飼い猫のようで、なんだか可愛いね。 待ってて、今から美味しいランチ作るから。
ことねはバナナを剥いて、まな板の上に置いた。
「ことね? バナナって皮剥くの? ……そのままでもいいと思うけど?」
「ええ。 今回は剥くわ。 『私』が『せめてバナナは皮を剥いてよ!』って言ったから……」
「グッジョブですわ! ことね!」
「……? なんの話だ? 確かにその通りだがなぁ?」
櫻井さんが、涙を流していた。 ひとみはそんな櫻井さんに同調している。
一方、ことねは構わず、輪切りバナナを鍋に放り込んだ。
続いて、トマトを丸ごと一個、ヘタを取って鍋へ。
「ヘタ! 取るなんてもったいないよ、ことね!」
「瑞稀。 美味しい物を作るには、犠牲が必要なのよ……」
そう言って、ことねはヘタをゴミ箱に入れた。 私が必死に止めようとするも、ことねの手は止まらない。
「あれ? なんかアタイ勘違いしてたかも……」
「そうですわね。 本当に危険なのは……」
櫻井さんとひとみが、私のことを睨んできた。 どうしたんだろう?
次は納豆のパックを開けると、かき混ぜ始める。 しかし、タレとカラシをゴミ箱に捨てることね。
私は信じられない思いで、ことねに問いかけた。
「あ、ちょっと待って、それは……」
「ふふ、発酵食品は身体にいいのよ」
「タレとカラシは? もったいないよ!」
「……瑞稀。 残念だけど、味が違うの。 入れたら味が喧嘩するのよ……」
ーー喧嘩? 料理にも、バトルがあるの?
最後に、板チョコを一枚、これも丸ごと鍋に落とした。 ボチャン、という重い音がした。
「⋯⋯あとは、カレールーを入れて煮込むだけよ」
「待って、ことね。 肉とか、玉ねぎとか、他の具材は……?」
「あら。 そういえば、忘れていたわね……」
ことねは、首を傾げながら冷蔵庫を覗き込んだ。
その隙に、私は鍋の中身を確認した。 ここにコーヒーの粉を入れてっと。
ーーうん? なんか、つまらないな? もっとみんなが喜ぶ材料ないかな?
「瑞稀? お前は何をキョロキョロしているんだ!」
「ハバネロとか、ドリアンとかないの? 塩辛でもいいんだけど……」
「瑞稀? そんな物、普通の家庭にはありませんの!」
「そうなの? たくさんあるから、ありそうなんだけどな〜」
ことねが冷蔵庫から、玉ねぎとジャガイモを取り出してきた。
「これでいいかしら?」
「……ことね、塩辛とかないの?」
「塩辛? そんなの何に使うのかしら?」
「ことね! 料理は引き算じゃなくて、足し算だよ! お母さんがそう教えてくれたんだ」
お母さんの教えが、こんな形で発揮されるとは思わなかったよ。 なぜか、私は台所に立ち入り禁止だったからーー
「ないわ……」
「そうなんだ、残念……」
その後ことねは、玉ねぎを皮をめくって半分に切ると、鍋に入れた。
そしてことねは、あろうことか皮をゴミ箱へ入れたのだったーー
「ことね! 玉ねぎの皮!」
「大丈夫よ。 こうした方が美味しいの……」
「そんな! これが上流階級の料理なんだ……」
「いや、関係ないからなぁ瑞稀?」
「……瑞稀。 いい加減、お母様が泣きますわよ?」
ことねは、ジャガイモの皮剥きをしようとする。
「え! ジャガイモの皮まで剥くの!」
「ええ。 『私』が言ってたの。 『ジャガイモの芽には、毒があるからね! ちゃんと、取ろうね!』って。 あの子、前世では料理が好きだったんだって……」
「『ことね』そうだったんだ……」
鍋の中で、食材たちが、ぐつぐつと煮え始める。 立ち上る湯気は、普通のカレーの匂いがした。
「⋯⋯ねえ、瑞稀」
「うん、ことね?」
「味見、してくれる?」
ことねが、お玉で鍋の中身をすくうと、にっこりと笑って私に差し出してきた。
茶色い液体の中に、納豆の豆と、バナナの輪切りが浮いている。 チョコレートはまだ完全に溶けていないらしく、黒い塊が見える。
「……あ。 どうなんだこれ?」
「知りませんわよ!」
私は、覚悟を決めてお玉に口をつけたーー
「……どうかしら?」
「……普通だね」
「そう。 ……これなら、湊も安心してこの世界から、いなくなるわね……」
ことねの発言に、私は複雑な表情をするしかなかった。




