パラレルワールド 神子の使徒の思い ーー吉澤ひとみ視点
倉石瑞稀を利用するーーそう決めた以上、アタイはコイツのことを徹底的に調べ上げる必要があった。 アタイは神子様の復活のためなら、手段は選ばない。 利用する駒の弱点を握っておくのは、当然のことだ。
取り巻きに、倉石家のことを洗いざらい調べ上げさせた。
ーーその内容は、アタイの想像を絶する程に過酷なものだった。
倉石瑞稀には弟がいた。 いや、正確には『いた』と過去形で語るべきなのだろうな。
残された家族は壊れた。 弟のことを忘れるためなのか? それともその空白を埋めるためなのか? 両親は、瑞稀すら視界に入れず、ただひたすらに働き続けたという。
ーー最低な親だなぁ、おう? 瑞稀も瑞稀だぜ! アタイだったら、ビンタを喰らわしてやるぜ!
まあ、その甲斐があったのか、父の自営業は軌道に乗り始めたーーらしいな。
ーーらしい、と言うのは、瑞稀自身がその恩恵をほとんど受けていなかったからだ。 毎晩、誰もいない家。 帰ってこない両親。 冷えた食卓。 誰にも『おかえり』と言ってもらえない少女。
ーーふぅん! よくある話だなぁ? まあ、アタイには関係ないけどな!
そう思って報告書を読み進めたアタイは、次のページで眉をひそめた。
ーー中学三年生。 あの三人組による『暇つぶし』という名のイジメ。
報告書には、淡々と当時の事実が記されていた。 名前。 日時。 場所。 それだけで充分だった。 アタイにも、何が起きたのかは察せたぜ。
そのせいで、母親はようやく仕事を辞めた。 壊れた娘のケアのために。 ーー皮肉な話だなぁ? 壊れて初めて、母親は再び、娘の方を向いたのだ。
その甲斐あってか、瑞稀はなんとか理想学園へ入学することができた。 心機一転、新しい場所で、新しい自分でやり直そうとしたのだろう。
ーーしかし、そこで彼女を待っていたのは、神子様による『あの件』だった。
結局、瑞稀はまた引きこもった。 そのこと自体は、アタイも知っている。 なにせ、その件には我らが神子様が関わっていたのだからな。
偉大なる神子様がなさったことだ。 同情などするはずがない、ないのだーー
それでも瑞稀は、また学校に復帰した。 そして、生徒会長にまでなった。
ーー瑞稀は気づいてないが、奴には人たらしの力がある。 関わった人物は、もれなく魅了される程の。
まあ、アタイには一切効いてないからな!
しかし、黒田凛。 彼女によって、瑞稀は生徒会を追い出されてしまった、と。
そしてアタイに利用されて、神子様の生贄にされるなんてなぁ。
可哀想な、倉石瑞稀。 報告書を閉じて、アタイは天井を見上げた。
ーー別に、アタイは神子様のご帰還のためならなんでもする。 それは揺るがない。 倉石瑞稀という駒を使い潰すことに、なんの躊躇いもない。
はずだったのだがーー
「⋯⋯ちっ。 なんだよ、ムカつくぜ!」
舌打ちが漏れる。 なんだろうな、この感覚は。 胸の奥がざわつくような、妙な不快感。
ーーほんの少しだけ。 ほんの少しだけ、瑞稀に夢を見せてやってもいいんじゃないか?
それに、生贄は奴じゃなくても。 例えば、櫻井美羽でもーー
そう思ってしまった自分に、アタイは自分で驚いていた。
どうせコイツの未来は、文化祭当日でぷっつりと途切れる。
だったらせめてそれまでの間くらい、あの暗い目をした少女に、ちょっとくらい光を見せてやっても、罰は当たらないんじゃないか?
アタイは、部下に作らせた神子像に、祈りを捧げる。
神子様はきっと、反対するだろうなーー まあ、いいか。




