私が今やりたいことは……
お母さんが、泣いている。 声を上げて、子どもみたいに、泣いている。
私は、立ち尽くしていた。何を言えばいいのか、わからなかった。
この話は、絶対にお母さんに聞かれてはいけなかったのに、油断してたよ。
「……瑞稀、こっちに来て、座って」
お母さんが、震える手で、ソファを指した。私は、ふらふらとそこに座った。
お母さんも、隣に腰を下ろした。涙でぐちゃぐちゃになった顔が、私を見ている。
「ねえ、瑞稀。もう一度、聞かせて」
「……」
「元の世界って、なに? 弟って、誰のこと?」
「……お母さん、それは」
「ごまかさないで!」
お母さんの声が、低くなった。いつも優しいお母さんからは、想像もつかない声だった。
「ごまかさないで! お願いだから!」
「……」
「瑞稀、中学生の時もそうだったじゃない! 『弟』ってなに? ……瑞稀、護はもういないのよ……」
護? マモル? ーー誰それ?
「……お母さん、いま、なんて?」
「えっ……?」
「護って誰?」
お母さんが、ぴたりと泣き止んだ。私の顔を、まじまじと見つめていた。
「……覚えて、ないの?」
「……」
「……瑞稀。 中学三年生の時に、学校に行けなくなって……それで突然、弟が呪いが何かって言い出して……部屋の中で変なことを……」
私の頭の中が、真っ白になっていた。
「お母さん、それは……」
「半年よ、半年。 あんたずっと、おかしかった。 それでやっと……やっと、元に戻ってくれて……」
お母さんの手が、私の頬に触れた。冷たい手だった。
「理想学園に入って、瑞稀が本当に楽しそうで……美羽ちゃんや舞香ちゃんが家に来ていた時、お母さん、どれだけ嬉しかったか……」
「……」
「なのに。 なんで、また! どうしてなのよ、瑞稀!」
ーー違う。 違うよ、お母さん!
なんで、お母さんは、こんなに泣いているの?
「お母さん……」
私の声が、震えていた。
「私……お母さんを、傷つけるつもりなんて、なかった。 ただ……ただ、ちょっと、混乱してて」
「……」
私は、お母さんの手を、両手で握った。 震えているのがわかった。
「私、ここにいるよ……」
「……瑞稀?」
「お母さんの娘の、瑞稀だよ。 もう大丈夫。 問題なんてどこにもないよ!」
「……本当かしら? また、瑞稀が変になったらって思うと私……」
お母さんの目から、また、涙がこぼれた。 今度は、さっきまでの嗚咽じゃなかった。静かな、ほっとしたような、涙だった。
ーーそっか、だからこの世界にお母さんは、存在するんだね。
きっと、お母さんは後悔してたんだ。 仕事ばっかりで、私の様子に気づかなかったことを。
ーーなら、今の私のやりたいことは一つ。
78、三人組に復讐する
79、お母さんを安心させる




