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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
VSことね編

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ここは私の場所じゃない!

 櫻井さんの発言に固まった私。 彼女の発言を理解できない中ーー


 「瑞稀! ご飯できたわよ!」

 「……あ。 ご飯できたって……」


 階段を上がってきたお母さんの、明るい声がドアの向こうから響いた。 緊迫していた部屋の空気が、その一言で一気に弛んだ。

 

 櫻井さんは、ぴたりと口を閉じた。さっきまでの怒りが嘘のように、すっと表情を整える。 さすが、切り替えが早い!


 「嬉しいですわ! 瑞稀、行きますわよ!」

 

 ーー話し合いは、中断ということらしい。 でも、終わったわけじゃない。 櫻井さんが私に向けた視線が、そう告げていた。

 

 リビングのテーブルには、お母さんが用意したご馳走が並んでいた。 

 

 「いただきますわ!」

 「召し上がれ! たくさんあるから、遠慮しないでね!」

 「……ぁ……美味しいですわ……!」

 

 彼女の目が、輝いていた。 さっきまでの怒りに満ちた目とは、完全に別物だった。 一口ごとに、櫻井さんの頬がほころんでいく。


 「奥様、これは……これは、お店で出しても通用しますわ!」

 「あらやだ、相変わらず褒め上手ね〜 たくさん食べてちょうだい!」

 「ありがとうございますわ!」

 

 お母さんが、嬉しそうに笑った。 櫻井さんの食べっぷりが、見ていて気持ちいいのだろう。

 

 私は、その光景をぼんやり眺めていた。


 櫻井さんのこの姿は、私の知っているミウミウだった。 ご飯を美味しそうに食べる、子供みたいに目を輝かせる、私の大切なーー 


 だから、自然に口から言葉が漏れてしまった。 


 「……ミウミウ」


 口が、勝手に動いていた。 櫻井さんの箸が、ぴたりと止まった。 お椀を持つ手が震えていた。

 

 「……いま」

 「え?」

 「いま、なんとおっしゃいまして?」

 「……」

 

 櫻井さんの顔が喜びに変わっていく。 彼女の目の中に光が灯るーー

 

 「もう一度! もう一度おっしゃってくださいまし!」

 「……」

 

 櫻井さんが、お椀を置いた。 両手で頬を押さえて、にやけた口元を必死に隠そうとしていた。 隠せていなかった。

 

 次の瞬間、お箸の動きが加速した。

 

 「奥様! お代わり、頂戴できますかしら!」

 「ええ! たくさん食べてね!」

 

 お母さんが台所に走った。 櫻井さんの食べるスピードが、明らかにギアを一段上げていた。 機嫌が良くなったのが、食欲に直結している。

 

 ーーああ、やっぱり、ミウミウだ。 私の知っている彼女は、こうだった。 お腹いっぱい食べて、嬉しそうにする、それだけの普通の女の子だった。

 

 食事が終わる頃には、テーブルの上のお皿は、空になっていた。 櫻井さんは、満足そうにお茶をすすっている。 お母さんは、台所で食器を片付けながら、ニコニコしていた。 満足そうでなによりだよ。

 

 「瑞稀」

 

 櫻井さんが、湯呑みを置いた。 声のトーンが、また変わった。 

 

 「先ほどの話、続きをさせていただきますわ」

 「……」

 「藁人形のこと。 お弟さんのこと。 全部ですわ」

 

 お母さんは台所だ。 だから聞こえないだろうーー

 

 私は、ふっと笑った。 今度は、不気味な笑いじゃなかった。 普通のちょっと困ったような、苦笑いで。

 

 「ミウミウ、ごめんね。さっきのは、全部、ボケだから」

 「ボケ?」

 「……うん。ふざけてただけ。 藁人形も、ナイフも、ドッキリ。 びっくりした?」

 「……瑞稀」

 「だから弟のことも、ボケだよ? 元の世界に戻れば、ちゃんと会えるんだもん。だから、心配しないで」


 元の世界。 口にしてしまえば、案外、簡単だった。


 そう。私には、元の世界がある。 そこには弟がいて、お父さんがいて、お母さんがいてみんな、笑っている。 今のこの世界は、ちょっとした寄り道。


 だから、藁人形なんて、本当はいらない。 あいつら三人を呪う必要なんて、本当はない。 だって、元の世界に戻れば、全部、なかったことになるんだからーー


 そのために、私はこの世界から出ないと! 


 今回のことで条件がわかったんだ! 理想を叶えたら消えるーー


 私の理想は、生徒会長になること! だから、これから川端ことねと戦わないといけないんだ! 


 櫻井さんは、ことねの側近だから頼れない。 私一人だけの戦いだーー


 私は、強い意志で櫻井さんを見た。


 「……瑞稀」

 「だから、もう大丈夫。心配かけてごめんね、櫻井さん」

 「頑固ですわね! なぜ、あだ名で呼んで下さいませんの?」

 「だって、ここは私の世界じゃないから。 弟もいないし……」

 「瑞稀それは……」

 

 櫻井さんは、何かを言おうとして、口を開いた。 でも、その言葉は、出てこなかった。 代わりに響いた音はーー

 

 ガシャン。 振り返ると、お母さんが、立ち尽くしていた。 両手で口を押さえて、肩を震わせていた。 お皿の破片が、床に散らばっていた。 お母さんは、それに気づいてもいなかった。


 「お母さん?」

 「……瑞稀」

 「お母さん、どうしたの? お皿、割れちゃったよ?」

 「……」

 

 お母さんの目から、涙がこぼれていた。 ぽろぽろと、止まらない涙だった。

 

 「……元の世界って……なに……?」

 「え……?」

 「弟って……なんなの? なにを言っているの? 瑞稀!」


  お母さんが、その場に崩れ落ちた。 膝をついて、両手で顔を覆って、声を上げて泣いていた。 


 油断した! 一番聞かれてはいけない人に、聞かれてしまった。


 「瑞稀……あんた、また……また、それ言ってるの……?」

 「……!」

 「……お願いだから……もう、やめて……!」

 

 私は、動けなかった。 ーーわからない。わからないよ。


 櫻井さんが、割れた皿を片付ける。 そして、そのまま片付けに行ってしまった。

 

 二人で会話しろ。 そう言っているみたいだったーー

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