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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
VSことね編

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暴かれる現実

 「瑞稀! これはなんですの?」


 櫻井さんの声が、心配そうなトーンを帯びていた。


 「これ、いつも持って登校していらっしゃるの?」

 「……」


 櫻井さんは、藁人形を指先でつまみ上げて、私の目をまっすぐに見た。


 私は、笑った。 なぜって? 当然、笑うつもりなんてなかった。 でも、口元が勝手に動いた。 鏡を見なくてもわかる。 今の私は、たぶん、不気味な顔をしている。


 「……ふふ」

 「瑞稀?」

 「ふふふ」


 笑いが止まらなかった。 私が何を持っていようと、何を考えていようと、私の自由のはずだよね?


 私を「汚した」三人。 昔の教室で、ショッピングモールで、そして今日、廃墟で。 

 私の身体を、私の心を、毎回土足で踏みにじった三人! 


 あいつらが、のうのうと笑って、学校生活を送っているのに、なんで私だけがこんなに毎晩眠れないんだろう? お陰で毎日寝不足だった。


 家や学校で聞かれた時、徹夜でゲームだって、いつも言い訳していた。


 ーーゲームで徹夜? そんなの嘘だよ? 本当は、毎日うなされて眠れなかったんだよ! 


 なんで私は、こんな想いをしなくちゃいけないんだろう? 許せないよね?


 だから、準備したんだ。 藁人形は、あいつらの分、三体! 五寸釘は、心臓の場所に打ち込むため。 マッチは、最後に燃やすため。


 そしてナイフは、自分を安心させるためだ。 ほら? ちゃんと意味があるでしょう?


 「……瑞稀、本気でおっしゃってまして?」

 「……え?」


 私、声に出してた? ーーどうしよう、まずい!


 櫻井さんだけには知られたくなかった、私の秘密ーー 


 どうしよう? どうすればいいのかわからないよ?


 そんな時だった。 弟が話しかけてきたーー


 「お姉ちゃん」


 その声を聴いた瞬間、私の中で何かが音を立てて戻った。 前を向くと、部屋の入り口に弟が立っていた。


 「お姉ちゃん、お風呂出たの?  僕も入っていい?」

 「うん、いいよ! 早く入っておいでよ!」

 「瑞稀? どうしましたの?」


 無邪気な、何も知らない弟の声。 その声が、私の意識を本来あるべき位置に押し戻した。


 笑いが止まる。 呼吸が整う。 心臓の鼓動が、ゆっくりと、平常に近づいていく。 そうだ。私には、この弟がいるんだよ!


 この子の前で、普通で優しい、ちょっと頼りないくらいの、お姉ちゃんでいなくちゃいけない! 


 「タオル、棚にあるからね。 今日のご飯はご馳走だよ……」


 私の声は、いつもの私の声に戻っていた。 弟が頷いて、廊下の奥へと消えていく。 その後ろ姿を見送ってから、私はゆっくりと櫻井さんの方へ向き直った。


 「櫻井さん」

 「……瑞稀?」


 私は、にっこりと笑った。 


 「ごめんなさい、変なもの見せちゃって!」

 「……瑞稀」

 「それ、偶然なんです! たまたま、バッグに入っちゃってただけで」

 「……」

 「藁人形は、ほら、家庭科の課題で。 釘とマッチは、お父さんに頼まれたお使いの帰りで。 包丁は……えーっと、お料理の練習を、放課後に友達の家でしようって話してて」


 すらすらと、嘘が出てきた。 自分でも驚くくらい、滑らかに。


 「だから、深い意味なんてないんです。 本当に。 偶然、持っていただけ」

 「……」


 私は櫻井さんを見上げて、もう一度笑ってみせた。 


 櫻井さんは黙っていた。 長い沈黙だった。


 そして、ゆっくりと、その表情が変わった。 それは、怒りだった。


 櫻井さんが、はっきりと、怒っていた。 私に対してじゃない。 でも、確かに、私に向けられた怒りだったーー


 「……瑞稀」


 低い声だった。 さっきまでの、優雅さはどこにもなかった。


 「……わたくしに、嘘をおつきになりますのね。 そんな分かりやすい嘘を」

 「えっ……」

 「結構ですわ! 瑞稀の自由ですもの。 でも私は……」


 櫻井さんの目が、私を射抜いた。


「『櫻井さん』と私を呼ぶ、貴方のその態度。 それが一番、わたくしには我慢ならないですわ!」


 私は、息を呑んだ。 


 「私はね、瑞稀。 貴方と一緒に笑い合いたいだけですわ!」

 「……櫻井さん」

 「それなのに、いつまでも他人行儀ですわ! 文化祭の前といい、今回も!」


 ナイフを、ローテーブルに置く音が、やけに響いた。


 「ねえ、瑞稀? 私、貴方のことを、それなりに本気で見ておりますのよ? 貴方にとって、私はその程度の存在ですの?」

 「あ、弟が戻ってきたから……」

 「弟ですって? いい加減にしてくださいまし!」


 弟の足音が、近づいてくる。 私の口は、開いたまま、何も言葉を紡げなかった。 

 そんな中、櫻井さんは私に告げた。


 「だいたい! 弟ってなんですの? いませんわよ! どこにも!」

 「……なに言っているの?」


 私は、彼女の発言の意味を理解したくなかったーー


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