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倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
VSことね編

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役目を終える者たち

 三人組が、ピクリとも動かない。 糸の切れた人形のように、跪いたまま、頭を垂れている。 


 表情だけは百面相だけど、声すらも出すことができないようだ。


 そんな状況の中、上を見上げると、心配そうな表情の櫻井さんの姿があった。


 「⋯⋯瑞稀。 大丈夫ですの?」

 「ミウ……櫻井さん⋯⋯」

 「はぁ。 まだ櫻井さんですの……」

 

 櫻井さんの声が、いつもの柔らかい響きに戻っていた。 さっきまでの、刃のような冷たさが、嘘のようだ。 彼女は私を担いだまま、ゆっくりと歩き出した。

 

 「あの⋯⋯櫻井さん? 私、自分で歩けるよ⋯⋯」

 「ダメですわ! 一緒に帰りますわよ!」

 「で、でも⋯⋯」

 「瑞稀、さっき足を震わせていましたもの。 そんな状態で歩かせるなんて、私、許せませんわよ?」

 

 断固とした声に、私は黙り込んだ。 私は今、櫻井さんに、お姫様抱っこをされているのだ。 恥ずかしくて、仕方ないよーー

 

 「あ、あの、せめておんぶに⋯⋯」

 「お姫様抱っこの方が、瑞稀のお顔が見えますもの」

 「⋯⋯」

 

 ダメだ。 私は観念して、彼女の腕の中で大人しくする。 頬が、熱い。 なんだろ? この気持ち? 彼女の腕は、思ったよりずっと、しっかりしていた。


 「ただいま帰りましたわ、お母様!」

 「あら、美羽ちゃん! おかえりなさ⋯⋯えっ!?」

 

 玄関の扉が開くなり、お母さんの素っ頓狂な声が響いた。 目を見開いて、口に手を当てている。 無理もない。 娘が、金髪のお嬢様にお姫様抱っこされて帰宅したのだから。

 

 「み、瑞稀!? ど、どうしたの!? 怪我!? 怪我なの!?」

 「お母さん、違うの! 怪我じゃなくて⋯⋯」

 

 お母さんが、慌ててエプロンの裾を握り直す。 櫻井さんは、私を抱えたまま、優雅に頭を下げた。 器用すぎる。

 

 「途中で瑞稀が少し疲れてしまわれたようで、お送りしましたの」

 「あ、あらまあ? 瑞稀ってば、運動不足なんだから……」

 

 櫻井さんが、にこり、と微笑む。 お母さんの顔が、見る見るうちに緩んでいく。 

 「よかったら夕飯食べていって! 今からご馳走作るから!」

 「あら、よろしいんですの? では、お言葉に甘えて!」

 

 二人で勝手に話を進めないで欲しい! せっかく、彼女を遠ざけたのにーー


 私は、櫻井さんの腕の中で、ジタバタした。 しかし、櫻井さんはびくともしない。 

 

 「待ってて頂戴ね! 今日はね、奮発しちゃうから! お肉お肉!」

 

 お母さんは、鼻歌交じりに台所へと消えて行った。 完全に、テンションが上がっている。

  

 私は、ため息を吐くのであった。


 ◇◇◇


 崩れかけた廃墟のコンクリートの隙間から、二つの人影が、じっと三人組を覗いていた。

 

 「⋯⋯一体ナニがおこったんだ? アイツら全然動かないぜ?」

 「……」

 

 ひとみの声は、震えていた。 彼女は、信じられないものを見たような顔をしている。

 

 「美羽は⋯⋯ナニをしやがったんだ? ナンカ声かけただけで、アイツら勝手に跪いたぜ?」

 「⋯⋯ええ」

 

 あれは、私の力よ。 正確には『私』が言っていた、だけなんだけどーー

 

 『私』が言うには、あれは原作の私が使っていた呪術。 声に魂を乗せて、相手を縛る術ーー「言霊縛り」。 私に取り憑いた悪霊『田中平八郎』の呪術のはず。

 

 私は、思わず息を呑んだ。 胸の奥で、何かが、ざわついて、止まらない。

 

 「ことね? 大丈夫か? 顔色、悪いぜ?」

 「⋯⋯大丈夫よ。 少し、考え事をね⋯⋯」

 「考え事ってなんだよ?」

 「⋯⋯いえ、なんでも」

 ひとみには、言えない。 まだ、言えない。 もう一人の私のこと、原作のこと、神子のこと⋯⋯彼女に話す訳にはいかない。 


 だって、吉澤ひとみ。 原作の彼女はこの力を使って瑞稀を洗脳して、美羽を依代に、地獄に堕ちた私の復活を狙っていたからーー

 

 「あっ、ことね! あの三人⋯⋯!」

 「……」

 

 ひとみが指差した先を見る。 跪いたままだった三人組の輪郭が、ゆらゆらと、揺らいでいる。 空間に溶けるように、砂のように、風に攫われるように。 

 

 ーーそして、消えた。 まるで、最初から、そこに居なかったかのように。

 

 「えっ!? 消えた!? 今、消えたぜ!?」

 「⋯⋯ええ」

 「なんで!? あの人たち、人間じゃなかったの!? ねえ、幽霊だったの!?」

 「⋯⋯落ち着きなさい、ひとみ」

 「落ち着けないって!」

 

 ひとみが、私の体を弄る。 そして、ハアハアと荒い息をはいて、興奮している。 怖がっているのよね? そうじゃなかったら、再教育が必要だわ。

 

 和馬が消えた。 そして三人組も、消えた。 まるで、誰かの「役目」を終えたかのように。

 

 ーーねえ、分かるでしょう? あれは、「物語の駒」よ。 誰かが、用意した駒。

 

 

 私は、ぎゅっと、自分の胸を抑えた。 心臓が、嫌な音を立てて、跳ねる。

 

 「⋯⋯帰りましょう、ひとみ」

 「ええ? こんな状況で帰るのか? 瑞稀と美羽を問い詰めようぜ?」

 「ダメよ、悪い子ね。 心配しなくても、貴方はまだ消えないわよ」

 

 ひとみの手を引いて、私は廃墟を後にした。 

 

 ーー誰だか知らないけど、私を簡単に消せるとは思わないでね?

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