表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉石瑞稀と100の高校生活でやりたいこと  作者: Masa(文章力あげたい)
愛の檻編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/289

瑞稀の過去中学三年)その1

 自分の部屋で目を開けた。 ぼんやりとする頭を抱えながら、リビングへ向かう。


 テーブルには、お母さんと弟がいた。


 「おはよう⋯⋯」

 「⋯⋯」

 「⋯⋯」

 

 席につく。 そして、そこに用意してあったご飯を食べる。


 会話はない、それがいつものことだった。 ただ、弟は横でニコニコ楽しそうにしているだけだった。


 でも私は弟にも話しかけたりしない、今はそんな雰囲気ではないからだ。


 ご飯を食べて、支度をする。 今日から、中学三年生だ。


 私には、中学に上がった時から、友達がいなかった。 でも別に、いじめられていたわけではない。 話しかけられれば答えたし、グループ作業にも参加した。 ただ、休み時間に誰かと机をくっつけることもなければ、放課後に寄り道をする相手もいなかっただけだ。


 一人でいるのは、嫌いではなかった。 休み時間は机で本を読んだり勉強をした。 窓際の席で、集中している時は、教室のざわめきが遠ざかった。 


 先生たちも、私のことを「手のかからない、大人しい子」と思っていただろうね。


 学校で私はそうやって過ごした。 三年生も平穏のまま、終わるはずだった。


 しかし、三年生のクラス替えで、三人組と、同じクラスになった。


 最初の数日間、瑞稀はその三人を、視界に入れないようにしていた。 彼女たちもまた、瑞稀のことなど見ていなかった。 


 教室にはいくらでも面白い相手がいて、地味で目立たない瑞稀は、彼女たちにとって背景の一部に過ぎなかった。 


 もし、ずっとそのままだったら、私は無事に卒業できていたと思う。


 ーーでも、世の中甘くはなかったんだ。


 三人組が私を揶揄う始まりは、ただの気まぐれだったーー


 「ねえ、あの子、いつも一人じゃない?」

 「ほんとだー。 あとさ暗くない?」

 「友達いないのかな? 可哀想~」


 くすくす、という笑い声。 瑞稀は足を止めた。自分のことを言われているのか、確証はなかった。違う子のことかもしれないと思おうとした。


 「ちょっとさー、イジメよっか?」

 「いいね~」

 「賛成!」


 彼女たちの声が、軽かった。 新しいゲームを思いついた、みたいな声だった。



 その日の放課後、瑞稀の靴きの中に、画鋲が入っていた。


 それが分かった瞬間、瑞稀は、全部理解した。 あの三人が、自分を「玩具」に選んだのだと。 そして、自分には、それを拒む手段が一つもないのだと。



 いじめは、毎日少しずつ、形を変えた。


 ある日は、瑞稀の教科書の全ページに、赤ペンで小さな「死ね」が書かれていた。何百個も、米粒みたいな字で。

 ある日は、ロッカーの中身が全部、男子トイレの便器に突っ込まれていた。

 ある日は、瑞稀の上靴に、絵の具が塗りたくられていた。

 ある日は、何もされなかった。 何もされない日が、一番怖かった。


 三人組は、毎朝、新しい嫌がらせを思いつくのを楽しんでいるようだった。


 「今日は何しよっか」

 「あれいいんじゃね~」

 「いいね、やろ~」


 授業中、後ろの席から、彼女たちの囁き声が聞こえてきた。


 瑞稀は、ノートに鉛筆を走らせながら、息を殺した。 心臓の音が、自分の耳の中で、太鼓みたいに鳴っていた。


 クラスメイトたちは、見ていないフリをしていた。


 ーー誰かが、瑞稀のために怒ってくれることは、最後までなかった。


 教室で、私は完全に「見えない人間」になった。 三人にいじめられている時だけ、瑞稀は「見える」存在だった。 それ以外の時間、誰も瑞稀に話しかけなかった。 話しかけたら、自分が次の標的になる、ということを、クラス全員が知っていた。


 廊下で待ち伏せされて、肩をぶつけられて、「あ、ごめーん」と笑われる。

その繰り返しが、一日に何度もあった。 トイレで、便座に座って、ただじっと時間が過ぎるのを待った。 スカートのポケットに、四つ折りにされたメモが入っていた。


 「今日も生きてるんだ ww」


 誰の字か、見なくても分かった。 涙は出なかった。 泣くことを、いつのまにか体が忘れていた。 


 だって涙なんて、既に枯れていたからーー


 家では、瑞稀は「無」を演じた。 


 お母さんに心配をかけたくなかった。 言ったら、母の仕事の邪魔をするからだ。 ご飯の用意をしてくれるだけで感謝しなくてはいけない。


 お父さんも同じだ。 最近になって、やっと繁盛してきた所なのに、私のことで迷惑をかけられない。


 そこで私は、自分の部屋で弟と会話する。


 当然うるさくないように、小声でだ。


 または、夕食の席で瑞稀は、弟とその日あった「いいこと」を探して話した。

今日は給食の唐揚げが美味しかった、とか。

理科の実験が面白かった、とか。


 ーー全部、嘘だった。 給食は、ほとんど喉を通っていなかった。


 弟は瑞稀の話に笑顔で頷いてくれた。 お母さんもお父さんも、忙しくて家にいなかった。 

 

 私は泣きながら、ご飯を弟と一緒に食べるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ