欠けたナニカ
夜の暗闇、月の光が照らす部屋の中、川端ことねは制服姿のまま鏡の前にいました。
鏡に映る彼女の表情には、笑顔はなく冷徹な瞳が世界を睨んでいるようでした。
そんな彼女に近づき、様子を不思議に思いながらも、一人の男性が優しく話しかけました。
「⋯⋯ことね、ご飯できたぞ。 風呂入る前に食べるか?」
「⋯⋯むう」
そんな彼の態度が気に入らないのか、ことねは苛立たしげに鏡に映る彼を睨みつけます。
「貴方はいつから私に意見を言える存在になったの? 貴方は私の駒なんだから、黙ってなさいよ! ⋯⋯ねえ、そうでしょう? 高坂湊!」
「⋯⋯ん? どうしたんだことね? 今川先生の説教で疲れたのか? ほら、今日はことねが好きなカレーライスだぞ!」
そう言うと、静かに部屋から出て行く高坂湊。 彼が去る間も、川端ことねの視線は鏡から動きません。
「始まるわ、私の戦いが。 ⋯⋯そう、私の晩御飯が⋯⋯」
ことねは、痛む足をひきずりながら、リビングへ向かうのでした。
なぜなら、彼女は先程まで、正座で説教を受けていたからです。
リビングに着いたことねは、カレーを食べます。 美味しいカレーが、彼女の心を癒すのでした。
しかし、勢いよく掬ったカレーのルーが、ことねの制服を汚してしまいました。
「おいおい、ことね。 慌てすぎだって! 服にカレーがついたぞ?」
「ことね! アタイがお拭きします!」
すると突然、メイド姿のひとみが現れました。
ひとみは、息を荒げながらことねに近づいてきました。
「ハア〜 今から、アタイが⋯⋯ハア〜」
「⋯⋯パス。 風呂に入ってくるわ⋯⋯」
「そうなのか。 ⋯⋯ひとみ、お前はことねの洗濯物を洗えよ?」
「はい! かしこまりました! ⋯⋯ささ、ことね様! こちらへ⋯⋯」
「ひとみ? ちゃんと、湊の発言聞いてたかしら⋯⋯」
二人は仲良く、お風呂場へ向かうのでした。
その後、リビングにはツヤツヤした表情のことねと、やつれたひとみが戻ってきました。 二人とも部屋着姿に着替えていました。
「⋯⋯さあ、ひとみ。 ご飯の時間よ? 私が食べさせてあげるわ」
「こ、ことね! アタイは自分で食べられます〜」
「駄目よ? ⋯⋯だって貴方は、湊の言うことを聞かない悪い子なんだから⋯⋯」
どうやらひとみは、湊の指示を無視して、行動したようですね。
湊は食器を洗いながら、二人の様子をのんびりと見つめているのでした。
でも、彼はこの状況に違和感を覚えていました。 もっと、調理する量が多くなかったか? そもそも、誰かが足りないようなーー
しかし、湊にはその違和感の正体がわかりませんでした。
◇◇◇
黒田凛は、自分の部屋で勉強をしていました。
しかし、無事に目標の高校に進学できたのに、心がモヤモヤしていました。
誰かの存在を忘れたような、記憶にぽっかりと穴が開いた気分。
しかし、それはなんだったのか、彼女にはわかりませんでした。




