桜が咲く頃に私は
「⋯⋯き」
ーー音がする。 私、どうしたんだっけ? たしか、学校へーー
そう思った時、私は反射的に起き上がる。
「⋯⋯瑞稀? 瑞稀! 目を覚ましたのですわね!」
「⋯⋯ここは。 病院? 私は一体⋯⋯」
ミウミウが私に微笑みかける。 唖然としている私をスルーして、ミウミウは足早に出ていった。
そう思っている内に、白衣の先生やナースの人がやって来た。
「倉石瑞稀さん。 記憶はありますか?」
「⋯⋯記憶。 私はどうして、ここへ?」
私が尋ねると、白衣の先生とナースの人が顔を見合わせる。 なにかおかしな質問でもしたかな?
その後、いくつか会話のやり取りをした後、二人は出ていく。
代わりに入ってきたのは、お母さんだった。 その顔には泣いた跡があった。
「お母さん?」
「⋯⋯瑞稀」
お母さんは私の名前を言うと、抱きついてきた。 私はただただ、オドオドすることしか出来なかった。
落ち着いたお母さんから、話を聞いた私は驚いた。 私は数日どころか一か月以上も、意識不明だったそうだ。
その原因は不明。 先生によると、頭の打ちどころが悪かったのではないか? とのこと。
そして、私はどうやら、ミウミウに救助してもらったらしい。
昼頃、ミウミウが家にやって来た。 でも、私が不在だと知る。 その時に、ことねの家に行くといってたことと、昨日の件を知ったらしい。
私が学校の校庭にいると、あたりをつけてたミウミウは、私を発見したらしい。
それにしても、私の足は思ったよりも大怪我だったらしい。 そのためしばらくは、入院生活を送ることになった。
せっかく企画していた予定もキャンセルか。 悔しいなぁーー
お母さんが病室から出ていった後、一人でぼんやりと窓を見る。
目の前には桜の木があった。 まだなにも咲いていないが、きっともうすぐ咲くだろう。 その時に私は、どんな表情でその景色をみているのかなーー
数日後、桜が咲いた。 綺麗な桜は私の心を癒してくれる。
「瑞稀。 綺麗ですわね! ⋯⋯桜ってこんなに美しいものでしたのね。 私は忘れていましたわ⋯⋯」
「そうだね⋯⋯」
病室の横で一緒に見ているミウミウが呟く。 きっと彼女は去年の今頃、転校前の高校に入学したのだろう。
私は明日退院する。 両足とも怪我をしているためしばらくは車椅子だが、幸いなことにリハビリを続ければ完治するらしい。
私が目を覚ましてからも、ミウミウは毎日きてくれた。 お母さんとお父さんも毎日。 でも、他の人はこないーー
そのことをミウミウにいうと、ミウミウの目に光が消えた。
「⋯⋯瑞稀。 貴方は怪我を治すことを考えていればいいの。 ⋯⋯そして治ってからは、私のことだけを考えてくださいまし⋯⋯」
「う、うん。 わかった⋯⋯」
「よかったですわ! ご理解いただけて、嬉しいですわ!」
ーーどうしたんだろ、ミウミウ。 私はミウミウの反応に違和感を覚えた。
そして、ミウミウの反応に恐怖を覚えた私は、詳しく聞けなかった。
そんなことを思い出していると、ミウミウが私のことを覗きこんでいることに気づく。
「⋯⋯瑞稀! お外に出ましょう! 間近で見たら、綺麗ですわよ!」
「そうだね。 行こう!」
私は起き上がって、歩こうとする。 しかし、ミウミウに止められた。
「駄目ですわよ、歩いたら危ないですわ。 ⋯⋯私が抱っこしますからね」
「⋯⋯え。 うん、わかった」
だったら車椅子でいく。 その言葉は、ミウミウの顔色が曇るので止めた。
ミウミウが私を、お姫様抱っこで持ち上げた。 桜を見に行く道中、私たちのことを見る人たちがたくさんいた。 私はその度に顔を赤面させていたが、ミウミウは周りのことが気にならないのか、まったく表情が変わらない。
そして、一緒に桜を下から観る。 満開の桜。 しかし、既に散り始めていた。
ーーふと、ミウミウの顔が気になった私は、彼女を見た途端に固まる。
彼女は桜ではなく、私を濁った目で凝視していたのだ。
いつも、笑顔だったミウミウ。 私のボケにツッコむミウミウ。 ご飯を食べて笑顔のミウミウ。 そんな彼女はもう、どこにもいなかったーー
一体なにがあったのだろう。 今の私はただ、戸惑うしかなかった。
ーーそんな私に現実が突きつけられるのは、学校に復帰した初日のことだった。




