覚醒は突然に ーー桐原彩乃視点
私は目の前にある食材に目を見開く。 美羽が買って来た食材は、どれも高級品だったからだ。
いつもは、私と舞香で購入した材料で、調理したご飯を美羽が食べていたが、今日は勝手が違う。 これは生半端な態度ではいられないわねーー
まずは、下ごしらえから。 野菜を洗い、皮剥きをする。
我が家のキッチンは、食卓から丸見えーーつまり、二人が私の調理を真剣に見ていた。
材料を切り終わり、調理器具を用意しようとしたところでハプニング。
鍋の水が私にかかって、服がびしょ濡れになってしまった。 セーターから、ズボンまで、満遍なく濡れてしまう。
二人が慌てるが、私は大丈夫だと安心させる。
さて、用意が出来て、しばらくは待機の時間が出来た。
その間に、私は衣装に着替えた。
さっきまでのカジュアルなパンツスタイルから一変。 私はなんでもない雰囲気でキッチンに舞い戻って来た。
ーーしかし、二人はツッコまずにはいられないようね。
「彩乃! その姿はなんですの?」
「お姉ちゃん? どうしたの、その服⋯⋯」
「ふふ。 これが私の勝負服よ!」
私は二人に見せびらかすように、一回転する。 黒のスカートがはためいて、中が見えそうになる。 白いエプロンも同様だ。
そう、私はメイドになったのだ。 でも、格好だけだと、印象が薄いわね。
ーー口調も変えようかしら?
「お嬢様方。 もうしばらくお待ち下さいますよう、お願い申し上げます」
「彩乃! 完璧にメイドさんですわね」
「お姉ちゃん? また発作が⋯⋯」
うん、これで完璧ね。 さすが私だわーー
そう言っている間に、調理完了。
食卓へ運ぶと、ミウミウの目がキラキラ光る。
「凄いのだわ! 彩乃が進化したのだわ!」
「⋯⋯ううん。 いいのかな、これ?」
「お嬢様方、お待たせいたしました。 私の腕によりを掛けて作った食事でございます。 まずこちらは⋯⋯」
私が説明するとますます、ミウミウが喜ぶ。 私が、ヨシ! と合図を出すと、ミウミウは意気揚々と発言するのだった。
「新たな世界へひた走るのですわ!」
「ミウミウ凄い! しっかり噛んでいるのに、食材が消えてくよ!」
「ふふ、これが必殺! ミウミウハリケーンですわ! 食べ物が私と言う名の物体に吸い込まれていきますの!」
「わあ! あんなにたくさんあったのに! お姉ちゃんおかわり持って来て!」
「はい! ただいま! すぐに美味しいご飯を提供いたします!」
「⋯⋯彩乃。 私のスピードについてこれるかしら?」
「食事を食べていただくことが私の喜び! お嬢様! 私は負けません! 料理人の誇りにかけても!」
高鳴る鼓動は、私の包丁を鋭くさせる。
一方、美羽はここにやって来た理由について、談笑を始めた。
「ところでなんでミウミウは家に泊まりに来たの?」
「家族で団欒しているところに私はいられませんわ。 それよりもお泊まりの許可をいただけて嬉しいですわ!」
「当然じゃん! 私たち、親友だもん!」
「舞香!」
「お嬢様方の感動の抱擁⋯⋯ 私、思わず涙が溢れてしまいます」
二人はお互いに抱きしめ合っていた。
ーー家族団欒か、いいなぁ。 私は、記憶の中にいる両親を思い出していた。
二人が生きていた頃は、こうやって楽しく過ごしていたっけ。 懐かしい思い出で、私の体がポカポカして来た。
でも、ポカポカしすぎじゃない? まさかーー
こ、これは。 原作でもあった覚醒の合図に違いないわ!
駄目、体から溢れて来るわ! 私の波動が止められないーー
私は思わず、心の声が漏れてしまう。
「ククク、我が右手が疼く⋯⋯体が熱い燃えるようだわ! 力がドンドンみなぎってくる。 私は更なる高みに登るわ!」
「彩乃。 とんでもない気迫ですわね⋯⋯」
「⋯⋯お姉ちゃんが、完全におかしくなっちゃった。 ことねお姉ちゃんに相談しないと⋯⋯」
私は料理人としての腕前を覚醒させた。
ーーでも、一言だけいいかしら?
なぜ料理の腕なの! 世界のヒロインとして覚醒しなさいよ!




