カモがネギを背負って来た ーー桐原彩乃視点
外は雪が降る休日の家。 私は料理雑誌を読んでいた。 眼下に映るのは、綺麗にトッピングされた食事。 そして、それを作るためのレシピだった。
ーーだいたいのレシピは記録したわ。 後は材料と食べてくれる人ね。 そうは言っても、簡単には現れないけど。
そう思っていると、部屋に舞香がやって来た。 舞香は、私が料理雑誌を読んでいるのを見て、ニコニコしていた。
「お姉ちゃん。 今から、ミウミウが家に来るって! お泊まりさせてもいい?」
「⋯⋯へえ。 それはいいですね」
「⋯⋯お姉ちゃん?」
私の発言やリアクションが疑問なのか、舞香は私を不安な表情で見つめる。
ーー櫻井美羽。 原作で彼女の存在は確認されなかった、と思い込んでいた。
エピローグで、私達は川端ことねの母、川端雫の養子になる。 そこには、専属のメイドがいた。 川端ことねが死んだ後に、私達は川端家に移住して暮らすことになるが、そのメイドが櫻井美羽だったの。
その性格は寡黙、常に敬語と言う設定で、あくまで私達の専属メイドというキャラを貫いていた。 同学年であり、二年生からはクラスメイトになるにも関わらず。
しかし、現実は違った。 イレギュラーが起きて、櫻井美羽は一年生の時点に、転校生という形で現れた。
その原因は川端ことねであることは間違いない。 彼女の話を長々と語ると、長文小説が出来てしまうので割愛するわね。
話を戻して、私が言いたいのは櫻井美羽のことよ。 櫻井美羽の初対面での雰囲気は、まさに原作再現だった。 自己紹介で自分の名前だけしか言わずに、川端ことねの近くに座る彼女。
その姿はメイドと言うより、側近みたいだったわね。 そこで当時の私は思ったの、彼女は一体誰だ? 原作には存在しないわよ、と。
そうこれが、私と櫻井美羽との出会ーー
「お姉ちゃん!」
「はう!」
私が回想していると、舞香が大声で呼びかけて来た。 舞香はジト目で私を正面から見ている。
「また、自分の世界に入っていたでしょ? ミウミウが来たよ?」
「ごきげんよう、こんにちはですわね!」
「こんにちは、美羽」
目の前にいるのは、満面の笑みの犬みたいな少女ーー櫻井美羽だ。
なぜ犬なのかというと、いつも私が作る料理を美味しそうに食べる時の話。
待て、ヨシ、いい子。 などというと、毎回反応するからだ。 ついにはワンワン吠え出す始末。
気になってた舞香が、美羽に理由を聴くと、どうやら実家でジョセフと言う名前の犬を飼っているらしく、いつも一緒に真似をしているのだそうよ。
そんな美羽の後ろを見ると、巨大なバックを担いでいた。 中に入っているのは、なにかしら?
そう思っていると、ミウミウが自慢気に胸をはって説明を始める。
「ふふ。 これは私が買った食材ですの。 これから、私が料理を作りますので、待っているのだわ」
「わあ。 ミウミウの手料理、美味しそう!」
「⋯⋯貴方が作るですって?」
美羽が作る? 私の戦場である台所に入って? そんなの許す訳ないじゃない!
私は呑気にバックを下ろし、袖捲りを始めた美羽に、体当たりをする。
しかし、美羽の体格が強いのかまったく動かず、私達は抱き合う形になった。
美羽は、私に不思議そうな表情を見せてくる。
ーー美羽ってば。 抱きつかれた相手が、私じゃなくて瑞稀だったら、赤面してたでしょうね。 私には恋愛的興味無しかぁ。 嫉妬しちゃうな、瑞稀じゃなくて美羽にね。
私は美羽から距離を取り、指を指す。
「え? どうしたんですの、彩乃?」
「ここは私の戦場。 貴方はただ、私の作る美味しい食事を食べていればいいの! 美羽はあそこへハウス!」
「ワン、ワン」
私の指示に、犬化した美羽が従う。 そして、舞香も座っているテーブルに一緒に座るのであった。
ーーあれ? 二人が仲良く一緒に座っている所を見ると、とても嬉しい。
原作でもご飯の場面があったけど、美羽が調理担当だったわね。
ーーそして、頑なに同じテーブルに座ることはなかったそうだ。 そして、そのことに舞香が悲しんでいた、というシーンがあった。
原作ではあり得ない光景を目にして、口元が緩む私だった。




