サプライズは失敗する時もある ーー川端ことね視点
場所は駅の改札口前。 私はお母さんが出て来るのを待っていたーー
お母さんとは、電話でいつも話しているし、なんなら最近会ってもいたが、私だけで会うのは初めてである。
ーー文化祭にも来てたんだよね? お母さんが瑞稀とサプライズで計画していたらしいが、私は『私』の最後の日のために湊と、過ごす選択を選んだ。
そのため会っていない。 私はズボンの中にある、スマホを取り出して時間を確認する。 バクバクと心臓の鼓動を感じる。 緊張しているのは明白だった。
そこで私は、目を閉じて俯く。 すると、肩を優しく叩かれた。 頭を上げて目を開けると、お母さんの満面の笑みがあったーー
その笑みに釣られて、私まで笑ってしまう。 なんだ私って、案外大丈夫なんだ。
しばらくお互いに笑った後、お母さんが優しい口調で話し掛けてくる。
「ことね⋯⋯ 直接会うのは久しぶりね。 元気かしら?」
「ええ。 元気だよ」
「あれれ? どうしたのかしら? ⋯⋯なにか変ね」
「⋯⋯変ってなにが? 私は普通だよ」
「なんと言うか⋯⋯!がないって言う感じかな?」
「なにそれ? ⋯⋯よくわからないよ」
お母さんの鋭い指摘に、私は何とも言えない表情で、誤摩化すしかなかった。
そんなこんなで、仲良く家に帰って来た私たち。 玄関の前には湊が立っていた。
お母さんの顔を見ると頭を下げる。 それを見たお母さんは、興奮した様子で口を開いた。
「ふう。 久しぶりの実家!」
「奥様。 おかえりなさいませ」
「湊くん! まったくもう、立派になって!」
「奥様は相変わらずの美人ですね」
「あら! そうかしら⋯⋯。 ふふ、私もこれからよね」
湊とお母さんが、楽しく談笑している。 嫉妬してしまって、私のほっぺが膨らんでしまう。 そのままの状態で、牽制するようにお母さんに言葉を放つ。
「お母さん。 湊は私のだから。 渡さないよ」
「あれ? ことね? ⋯⋯なんだか最近別人みたい」
お母さんに別人だと言われてしまった。 ーーその通りなので反論出来ない。 私のお母さんへの会話担当は『私』だったからだ。 もちろん、私がちゃんと答えを出していたわよ? でも「『電話したら?』って言ったのは『私』だったんだし、会話ぐらい代わりにしてよ」って思ったから、こうなっただけでーー
私はお母さんの顔を見て、はっきりと言うことにした。
「うん。 『私』が居なくなったからね」
「ことねの中にもう一人のことねが?」
事実を伝えると、お母さんはしばらく考え込んでしまった。 私と湊は顔を見合わせる。 「俺は用意しておくから」そう言い残して、家に入って行った。
私がお母さんの顔を眺めていると、しみじみとした表情に変わっていく。 なにを考えているのかしら?
私は『私』について、お母さんに言っておくことにした。
「『私』はいつもお母さんのことを気にしてたんだ。 いつも『会えないなら電話して! それだけでも、いつも一緒にいる気分になるよ!』って心の中で叫ぶの。 『私』がいなかったら、お母さんに電話をしなかったな⋯⋯」
「そうだったの⋯⋯気づかなかったわ。 たしかに、私もことねに電話を自分からかけるつもりなかったから。 ⋯⋯私達、似た者同士ね」
私とお母さんは二人して笑った。 なんだか、不思議な気分ね。
その時、お母さんが思い出したかのように提案を口にした。
「だったら、その『私』にお礼しなくちゃ⋯⋯あ。 ⋯⋯そうか、居なくなったんだよねその子。 ⋯⋯しまった、手遅れかな」
「そうだね。 でも、『私』が聴いていたら喜んだと思うよ」
私たちは空を見上げた。 寒空の中、日差しが私たちを包んでいた。




