少女、契約を結び持って話の結びとする
また組合。
なんだか私、今日だけで二回目ね……ん、そういえばここは何時でも人がいるのね。
前回から時間を置いているのにそこに居る人間の数に、そう違いはないみたいね。
「ねぇロベールさん。ここって何時も人はこのくらい居るの?」
「そうだなぁ。ここがでかい迷宮街の中心地ってのもあるからな、基本的に一日中開いてて、休みもなしのはずだ」
「ありがとう、良く解ったわロベールさん。さてと、ベンジーはあの組合のおじさんを連れてきなさいな」
「わ、わかりましたぁ!少々お待ちくださいっ」
そそくさと走って行くベンジーを見送ってから、ポツリともらしてしまう。
「ロベールさん達にベンジーの護衛をしてもらえるならいいのだけれど」
そんな言葉も、ロベールさんには苦笑で返されてしまう。
「いや、わりいけど俺は対人とかさっぱりでなぁ」
「俺もだ」
ロベールさんに続くイアンさんに、やっぱりだめか、と吐息をつく。
ちらっとデーミックを見るも、こいつには無理ねとすぐに見切りをつける。
私というストッパーがなければ人間など塵芥としか見ないのがデーミックの階位にいる悪魔だ。
ベンジーはそこそこ気がついて便利だと私が思っていても、替えがいくらでもきくでしょうからと言いながら。
その替えを探す手間を私に押し付ける嫌がらせを全力でするだろう。
まったく、悪魔にしてももう少し素直に育てばよかったのよ、犬面なんだから。
私の視線を受けて意味ありげな笑みを返すデーミックにべーっと淑女らしからぬ返しをしていると、おじさんがやってきた。
おじさんの表情は……ちょっと迷惑そうね。
でも、まっ諦めてもらいましょう。
「なんのようかなお嬢さん」
「ええとね、ベンジーにちょっとお小遣いを上げたら、こんなに貰ったら危ない人に襲われます!っていわれてね」
「はぁ」
「護衛を出来る人を紹介して欲しいの。金貨の三、四枚くらいで嫌よね。せせこましいわ」
説明したら、なんだかおじさんが私じゃなくてロベールさん達を睨み始めちゃった。
なんでかしらね。
無意味に男同士ちらちら無言のやり取りをしていないで早くして欲しいんだけど。
そんな、少しの時間を無駄にするやりとり……というのかしらこれも……を終わらせたおじさんはため息をつきながらいったわ。
「はぁ、傭兵ギルドに紹介状を書こう。正直な所ベンジー君には組合から払われる給料があるのだから、君から金を貰う謂れは無いのだがね」
「あら、それは暗に金を渡すなといっているのかしら」
「そうだよ。君の傍にいれば簡単に金貨がもらえる。そんな噂が立てばベンジーをねたむ者、君に近づいて利用とする者、無闇に増やす事になるだろう。君が賢い人間ならば、金貨のやり取りはやめるね」
「ねぇおじさん」
「む?なんだね」
「ベンジー、買い取れないかしら」
「……人身売買は禁止だよ。そもそもベンジー君は奴隷ではない」
「ダメかしら?」
「ダメだね」
ダメ元で行ってみたら、案の定答えはノー。
あら、デーミックがなにやら悪そうな顔をしているわ。
犬歯がむき出しではしたない。
「組合長様、ここは売買ではなく引き抜きという事では如何でしょう。些少の礼金を積んで、雇用先を替える。これならよろしいのではないでしょうか」
「それは、アンジー君次第だね。君たちがまともな雇用主になれるとは思えないが」
「誓約書による契約の重要性については私からお嬢様にお教えしますので、大丈夫かと」
「え、えぇぇぇ!?そ、そんな……どうしよう……組合長ぅぅ」
「落ち着かないかベンジー君。君たちの昨日今日の行動を見た限り、どの程度の報酬が適当かなど計れるようにはみえないがね」
「どの程度が適当かはお嬢様がお決めになられます。それだけのお力がお嬢様にはオありですので」
にやりと狗口の端を吊り上げて私を見るデーミックの眼は。
ああもう、私に面倒ごとを押し付ける気だわ。
どうにかしてこの面倒を切り抜けないと、さて、そうするとどうするべきかしらね……。
なんとなく会話の流れで適当に一月金貨二十枚に適当に支払いのあまりを上げるとかいったら、面倒な事になりそうなのがわかった。
……というかデーミック、適当って適切って意味よね?
あてずっぽうで変な条件を言い出すのを期待してるんでしょうけど、そうは行かないわ。
「……よくよく考えればベンジーは私と組合の繋ぎ役にもなるのよね。それで組合から身柄を完全に引き抜くのは問題かしら」
考える時間が欲しいから、とりあえずそれっぽい事を言ってみる。
すると組合のおじさんはうむうむと頷いて笑顔になったわ。
ああ、言ってみる物ね
なんだか露骨にデーミックががっかりしてるけど、放置よ放置。
「なら、もう渡した分は今更戻されてもなんだか私が銭惜しみをしたように見えるからそのままにして……そうねぇ、私との繋ぎ役というだけで狙う奴もでるかもしれないわ。その対策に護衛を雇う費用を私の迷宮からの獲物の収益から捻出するというのはどう?」
「その辺りが落としどころでしょう。では、その旨を契約書にしてしまいましょう」
「契約書っていうのは、ええと、契約を記した本ね?」
「本ではなく羊皮紙だが、契約を文字にして記すものではあるね」
「それがないと問題なのね?」
「そうだね」
「……小切手といい契約書といい、街の人は書くのが好きね」
「地方の村でも重要な事は書いて記録を残すよ」
「なぜ?」
「残しているのと、いないのとでは法に則って暮らす上で確固たる事実という重みが違う。口約束という方法も未だに死んではいないがね」
「法ね、法は絶対的な安定を与えてくれるものかしら?書類をつくるのも、文字が書ける人間ならいくらでも事実を造れてしまう気がするのだけど」
「……絶対はないね。だが、人が生きる指針にはなる。捏造は、ね。信じるものが愚かなのか、信じさせるものが悪辣なのか」
「私はシンプルな力によるルールのほうが解りやすいわ」
「そうかね?法によって力を縛らなければ、誰もが君を恐れて豊かな暮らしも遠ざかると思うがね……街に居るものは法に従う、その大前提があるから街は君を受け入れる」
「ふうん。それなら法もいいものかもね」
「物分りが良くて助かるよ」
にこりとむさくるしい笑みを浮かべるおじさん。
きっと、その法という大前提も純粋な力の前には無力だと思うけれど……別に私は人を怖がらせたいわけじゃないのよね。
そういう苛めはどっちかっていうとデーミックの方が好きね。
あれもひれ伏す弱者を嬲るより、自分の強さを信じて疑わない類の相手を屈服させる方が好きな悪趣味男だけれど。
「それなら、契約書を書いてもらおうかしら。ベンジーにあわせてロベールさん達も見ておかしい所が無いか教えてね。信じてるから」
私の言葉に、ロベールさん達は応、と答えたのだった。
後は雑事だから語ることは無いわね。
それから後の話は、文字の勉強したり、有り余るお金で色んな人の支援者になったり、とにかく迷宮で狩りをしてポンポンうるさいレベルアップの音に悩まされたり、問題が起これば暴力で解決したり。
さして語ることのない、日常のお話だわ。
そんなところで、私とデーミックの街に出るお話はここまで。
機会があればまた会いましょう。
ばいばい。




