アンダレスビーチ
賢者ショウセツの異空間に閉じ込められ、その時間流に流されて元の異世界に帰還すると三カ月経過していた。
相変わらずの魔力通信やレーダーを妨害するミストジャマーの森の磁場結界に翻弄されるが、俺は魔女を誘導しながら当初の目的地であるジャスティスシティーに向かっている。
(何故か超直感の力が上がってる……勇者だけの力になったからか? これなら賢者さえさがせそうだぜ。いればの話だがな)
多少の体調の感覚変化を感じつつ俺は、
「あの陰気な賢者ショウセツの野郎……まさか俺達を次元の彼方へ飛ばそうとするなんてな。俺がこの異世界の特異点なのは確かだが、俺がいなくてもテンパなど他の誰かが変化をもたらしてたはずだ。それを俺だけのせいにするのはムカつくぜ」
「でも先に仕掛けたのは私達だし、その点が気に入らないのは仕方ないかもね。でも次会う時は負けてられないわよコウハイ君」
「当然だ。次はあの陰気なツラとパイを引っ叩いてやるぜ。賢者っていう無限回廊の精神書架を持つ奴になんか負けるかよ」
今向かっているジャスティス大陸・中央都市ジャスティスシティーとは通称ミストジャマーの国。その周囲は迷いの森がある。人の失踪や自殺が多い森林だからこそ、そう呼ばれてもいる。
その森を抜けるとあるのがアンダレスビーチ。
「ここがアンダレスビーチか……」
「だね。ここが噂のアンダレスビーチ」
ジャスティスシティーの近辺にあるアンダレスビーチと呼ばれる場所にたどり着いた。
名の通り、アンダーは何もつけないビーチだ。トップレスとは間逆の恐ろしいビーチだが。流石は異世界だぜ……。
そこは森の中の海という感じの場所で、緑色の木の葉が海として潮の満ち引きをしており、茶色い木の葉は陸地のような役割をしているようだ。そして、当たり前のように水着を着た女達がワイワイとその陸地にて遊んでいた。
この国の女は魔族らしくヒツジの血が流れているようだ。下半身はヒツジの体毛でパンツのように覆われてるから下着を履くことは無い。だから上半身しか服を着ていないんだ。ヒツジの女は下半身が毛で覆われてるからはかなくても問題無いようだ。恐ろしい……。
……それでいいのか?
「今は俺もチンコが無いからアンダーレスでもいいのかな? やっぱり毛がないからダメか? アイツ等……寒くないのか? このジャスティスシティーは常に気温零度なのによ」
「あれは魔族だね。ヒツジの細胞を身体に沁みませて一体化してる人間とモンスターの混合種魔族ね」
「あれが魔族か……。見た目だけなら人間と同じみたいだな。この寒さに勝てるとはふしぎな連中だぜ」
ヒツジの血が混じる人間種・魔族。
いわゆる魔族と呼ばれる人種がこのジャスティスシティーには多いようだ。気温が常に零度の肌寒い土地ではヒツジのような温かい毛が必要で、大昔にここに暮らしていた人間達は魔法で自分の細胞にヒツジの細胞を少しずつ移植し、その血が代々受け継がれる歴史の中で具現化したのが下半身がパンツのように毛だらけの魔族という人間達だ。凄まじく……エロいな!
「毛があるから下半身を下着や水着で隠す必要は無い。確かにアンダレスビーチだ。ある意味素晴らしい光景だぜ……」
「凄まじい。ね?」
「ん? あ、あぁ。一応ちゃんと観察しとかないとなんからな。何せ魔族というのは多くない種族だからな」
「ふーん。ま、いいけど」
と、魔女は俺の視線を邪魔するような言動をしてしやがるぜ。
森の中の海岸のようなこのアンダレスビーチの魔族の女達は下半身はパンツのような毛で覆われてる為に、上半身だけブラジャーをしてビーチバレーのような事をして遊んでたり、寒いのに日光浴のような事をしてる連中もいる。魔族ってのはモンスターよりもしぶとい生き物かもな。
「それにしてもあの深い森の奥にこんな場所が広がってるとはな……水の海じゃない草の海ってやつか。粋だねぇ」
「まぁいいじゃない。ここまで来ればジャスティス王国の領地内でしょ?ならここで楽しんでればマッシュの方からやってくれかもよ……とうっ!」
「! 魔女!?」
「このアンダレスビーチでは海の格好をしなくちゃならないわよコウハイ君。出でよ!新聞紙の水着!」
バサッ! と着ていた黒のフードマントを脱ぎ捨てた魔女はその何も身につけていない肢体を、新聞紙の水着? に魔法で着替えやがった!
「コウハイ君も着替えたら?」
「俺は結構だ。そんな素肌が見える格好じゃ戦闘になった時に不便だからな」
「ほいほーい。なら私は少しばかり遊んでくるわ! んじゃね!」
そして魔女は息抜きだと言い、緑色の海である木の葉海の方へ駆けて行く。
俺はこのアンダレスビーチで遊んでいる魔族の女達を眺めていた。今は魔王の力が無いから魔眼が使えない。だからあの女達を見ても魔族という種族のデータを目視しただけじゃよくわからない状態だぜ。
「賢者ショウセツの異空間脱出で疲れた……少し寝るか」
俺は体力と魔力回復の為に仮眠を取る事にした。
すると、海岸沿いにいた女達が悲鳴を上げだした!
「あ……あれは!」
緑色の木の葉の津波が起こった!
木の葉の海で泳いでいた魔女はその緑の津波に呑まれた!
魔族の女達も一気に津波に流され、ヤバい事になりやがったぜ。
「なんつー津波だ……まさか魔女が呑みこまれるとはな。でも木の葉が金に輝いていりのは何でだ」
金色の木の葉……?
さっきまでは緑の木の葉だったぜ?
金というと……まさかテンパか!?
すると、大荒れの木の葉の海に一人の幼女が浮かんでいた。
「金髪巻き髪の幼女……間違いない! 奴はテンパだ!」
金血鬼・テンパがここにいやがった!
「パッパッパッ! もうすぐ魔女へクラスチェンジしたメスパーがこのジャスティスシティーに現れる。そこで死ぬがいい勇者オーマ!」
「テメーテンパ! 一体こんな所で何をしてやがる!?」
「お前の死を見に来たのさオーマちゃん♩」
「くっ……うおおおおおーーーっ!」
ズバーーーッ! という木の葉の津波。
海岸にいた俺も呑まれた!
ここまで津波があるのかよ……。
そしてテンパの奴は消えやがった。
「くそっ……とんだ災難だぜ。テンパがいたとなると魔女がどうなるかわからんが、いずれ戻ってくるだろ。テンパもまだまだ幼女のままじゃ戦闘しても勝てないだろうからな」
魔女はいずれ戻ってくるだろうと思い、身体についた木の葉を払って魔女が立てた新聞紙のパラソルを地面に刺して待つことにした。
じっ……と新聞紙のパラソルの下で若い魔族女達を見つめていると、黒髪ショートカット。全身迷彩タイツの少年が俺の前に立つ。やけに威圧感のある奴だ。
「貴様覗きか? 覗きは罪だぞ? 場合によっては投獄させてもらう。所属や名前を聞こうか」
「俺か? この異世界だと、勇者魔王オーマって呼ばれてるぜ?」
「貴様が勇者魔王オーマ!? わ、私はこの神聖なるジャスティスシティー所属、ジャスティス騎士団団長だ。今はこのアンダレスレスビーチにて、他国の人間が変な事をしてないか監視業務治癒だったのだ」
ジャスティス王国・ジャスティス騎士団特務隊ペルソナクルセイド団長。
王を警護する特務隊も率いているが、大元のジャスティス騎士団の団長だ。どうやら私服で潜入しているかもしれない敵を欺きつつ、他国の人間でも誰でもいる事が出来るアンダレスビーチの監視をしていた。
今は水着代わりの全身迷彩タイツを着ているが、普段は騎士の鎧を着ているようだ。この女に似合うのか?
「ジャスティス騎士団団長なら男かと思いきや女か。胸まで筋肉とは流石はジャスティス騎士団を束ねる団長さんだけあるか」
「私の事はいい。貴様が七つに分断されるラルク大陸の各大陸で都市を消滅させたり、極悪非道な事をしている勇者魔王オーマか。見た目は普通の少年だな。変凡すぎる少年だ」
「俺の事はいいさ。それよりこの辺に最近、白髪頭の生気の無い女が現れなかったか? その髪の長い女が伝説のヒューマンディクショナリーである賢者ショウセツだ」
「……! 貴様、あの伝説の賢者と出会ったのか? まさか賢者がこのジャスティス王国付近にいたとは初耳だ。この辺のミストジャマーの濃さで発見されにくい環境が気に入ったのかな?」
「そうかもな。俺と魔女は奴の世界に閉じ込められこの世界時間で三カ月間彷徨っていた。この三カ月でお前のジャスティス王国が変化した事件とかは無かったか?」
「……あったさ。そうか、やはり勇者魔王オーマ。お前があのマッシュルーム女を……」
……凄まじい憤怒の怒りをこのジャスティス騎士団団長から感じる。どうやら俺と魔女がこの世界からいなかったこの三カ月間でジャスティス王国も変化しちまってるようだな。マッシュとつぶやいたあたり、犯人はやはり魔王の魔手であるマッシュだろう。
「お前の話を聞きたい団長。どっかその辺にお茶出来る所があれば紹介してくれよ。マッシュルーム頭の事についても教えてやるぜ?」
「話を聞くのはこのジャスティス騎士団団長である私だけだ。貴様はマッシュの件を知ってる以上、これよりジャスティス王国の地下牢にて尋問させてもらう。あの突如現れ、国王の心を籠絡して自分の色にジャスティス王国を塗り替えたマッシュルーム女の罪は償ってもらわないといけないからな。勇者魔王オーマの左腕だった魔手であるマッシュの罪は貴様の罪でもあるんだ勇者魔王オーマ」
「連帯責任って奴か。まぁいいか。連れてけよ。それと、そこの茶色い木の葉の下で隠れてる緑色のキノコ。隠れてねーで出てこいよ」
俺の視線の先にある地面から突き出る緑色のマッシュルームにジャスティス騎士団団長は驚く。そして、そのマッシュルームは左右にグイングイン! と揺れながらジャンプし、その人間の姿を晒した。
「バレたら仕方ないねマッシュ! マッシュ!」
地面の茶色い木の葉から緑色のデカイマッシュルームが生えてると思いきや、それは俺の左腕の魔手が人間姿になった存在――マッシュだった。すぐに団長はそのマッシュの元に駆け寄り、
「何故ここにいるマッシュ殿下。貴女はこんな場合にいるべき人間ではない」
「勇者オーマの反応を感じたから来たの。まだ見えない繋がりがあるから、何となく相手がどこにいるからわかってしまうんだよ団長」
と、ジャスティス騎士団団長と魔王の魔女マッシュはいい争っていた。
現れるマッシュに俺は言う。
「ここでお前を見つけられたのは光栄だ。俺の左腕に戻ってもらう」
「残念ながら今の私は偵察用のキノコの分身体。なので捕まえても消えるだけだよ。マッシュ! マッシュ!」
「チッ、ならどうにもならんか。まぁいいさ。時間はある」
そして団長に言う。
「魔女はさっきの津波で消えた。捕まるのは俺だけでいいはずだぜ?」
「フン、いいだろう」
草の津波に呑まれて消える魔女は後でいいとして、俺はジャスティス騎士団団長に捕縛された。
この団長の話によると、現在のジャスティスシティーは魔王の魔手・マッシュが管理していた。そしてこの団長は国を守る為にマッシュに対抗してる感じだな。
その緑の国は平穏と安定を大義としている。
しかし、捕まえた殺人鬼などを夜に放っているのも事実。
国を脅かす悪を消す為に。
それが正義のみが存在する国ジャスティスシティーだ。
オールハイルジャスティス! という掛け声で敵を撃ち払っている騎士団。普通の人間が悪をしても、夜には消える。毒は毒を以て制するらしいな。
力の無い人間は、他人の力にすがり、自分を作り出す。だが、それは自分の可能性を消しているだけだ。すでに家畜にも劣る存在。
「他人の正義が正義となるのは、国の人間に自分が無いからだ」
「捕縛された勇者の言う事かなマッシュ!」
と、この緑色のマッシュルームカットの女は言いやがる。
「どうやらマッシュがこの国に来てから三カ月経っているようだが大陸戦争などは起こってないようだな。少なくともこの国はまだ開戦していない」
「そんな話はいいよ。牢屋で少し寝ててね勇者オーマ」
そして俺はジャスティスシティー城砦地区の地下にある牢屋に投獄された。
マッシュのこの早々の他国での活躍は明らかにテンパが関与してるな。
テンパは死の商人であった時代から各大陸の国々の商人連中に賄賂を送っていて、そいつらの助けもあり暗躍してるようだ。だからこそ、三カ月足らずの新入りでしかないマッシュが国王と対等に話せる位置にいる。
そんなこんなで、俺の魔力封じがされる特殊牢獄暮らしが始まった。魔女とも離れ離れだし……やれやれだぜ。




