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白髪の陰気美少女・賢者ショウセツ

 失った勇魔金玉と左腕の魔手を取り戻す為、ジャスティス大陸中央都市・ジャスティスシティーへ向かう俺と魔女はその道中で刺客に襲われていた。勇者魔王であるこの俺の暗殺を仕掛けてくる人物がいるミストジャマーの霧の深い森で、周囲を眺め敵の動きを索敵する。魔力通信などを妨害するミストジャマーの霧は不快なほど俺の感覚を惑わし、魔手を失い魔王の力が無い俺は魔眼も使えないからこの状況で優位に立つ事が出来ない。


(……この場所は危険だ。魔女も警戒してくれてるが、正直魔法攻撃主体の人間じゃ今の俺よりも索敵能力が高いとは思えない。勇者の力を使うのが懸命だな)


 瞬時に魔女の背中と自分の背中を合わせ、


「勇者烙印の力を解放する。安定はしないがこうも連続して殺人鬼に襲われたらやってられんからな。超直感を使ってればこの霧の中からの脱出も早くなるだろうし」


「そだね。頼んだよコウハイ君。勇者のパワーを開放する数秒間はこの頼れるセンパイにまかせときんしゃい!」


「おう! 任せたぜ美人で頼れるセンパイ!」


「ピョー!」


 と、魔女は興奮して天晴れ! と書かれた扇子で踊り出した!

 ……ちょっと上げすぎたか? まぁいい。今は時間が欲しいからな。

 俺は右手の甲に描かれた五亡星に意識を集中させる。


(開放するぞ勇者烙印……!)


 勇者の聖なる光が空間に散り、魔女は四方に意識を張り巡らせる。

 敵の動きは無いようだが、超直感に微かな反応がある……。

 また新しい殺人鬼か?

 それに意識するほど俺の超直感が嫌な反応を感じてるぜ。


「魔女、敵は少し先だ。行くぞ」


「あいよ。どうぞお先に」


「レディーファーストだ。どうぞお先に」


「レディファースト! ……いやいや、ここは勇者様に従うわ。どうぞお先に」」


『……』


 二人は顔を見合わせたままピクピクとこめかみを引きつらせつつ、微笑む。

 どうやら魔女も先には行きたくないようだ。

 ま、そりゃこんな霧の深い得体の知れない敵のいる森の中を進むのは嫌だろう。


「よし並んで歩くぞ。それならハーフ&ハーフだ」


「仕方ないね。それで行こうか。手、つなぐ?」


「つなぐかアホ」


 そんなやりとりをしつつ、俺達は霧の森の中を進む。

 今は魔眼が使えない為に、超直感に頼りつつ自分の目でミストジャマーの先を見据えて進むしかない。勇者の超直感の力を使いつつな。だが、今回の敵は不気味な感じがするぜ。一斉に襲っても来ないし、どこかに誘い込もうとしてる素振りも感じられない。まるで俺達を試しているような感覚だ……気に入らないぜ。


「……? 魔女、立ち止まれ」


 少し先の草むらの中に光が差し込んでいた。

 このはミストジャマーの霧が存在していない場所だ。よく景色が見えるぜ。


「あそこに敵がいるとは限らないし、まだ先がどこまであるかわからん。ここで一休みするか。敵が現れても面倒だしな」


「そうね。そろそろ休むのもいいかも。……けど、先客がいるようだよ?」


「……! 察しがいいな魔女。俺が先に確認してやる」


 少し開けた森の一角に素っ裸で日光浴をしてる変態がいる。白髪頭で髪は長い。胸の膨らみとしなやかな腰つきを見る限り、どうやら若い女のようだ。


(な、何でこんな場所で全裸日光浴を……?)


 あまりの隙だらけの姿にコッチがトラップに誘われてるのかのように思える。並みの奴なら相手の誘惑トラップにかかるだろうが、俺は勇者魔王だ。こんな誘惑トラップには引っかからない。すると、まるで時間が止まったように硬直する俺に魔女は耳元で言う。


「ねぇコウハイ君? 鼻から血が出てるよ? 攻撃された?」


「こ、これは鼻をこすり過ぎたからだ。花粉が飛んでるのかもな。いやー今年の花粉は怖いぜ……」


「花粉なんてないし、こすってるのは鼻だけじゃないでしょ?」


「! よ、余計な事を言うな魔女。敵は目の前にいるんだぞ? しっかり見ろよ魔女」


「コウハイ君は見すぎだけどね」


「……」


 ぐおおっ! また鼻血が出てきた……。

 俺は勇者魔王。

 こんな誘惑トラップには負けないんだぜ!

 さて、気を取り直して……。


「動くな。貴様は殺人鬼か?俺は勇者魔王オーマ。確実に敗北する相手に無駄な抵抗はしない方がいい」


 その全裸で日光浴をしてる若い白髪の女は背後を振り向いた。

 怜悧で少しキツ目の死んだような暗い瞳に薄い唇。白く張りのある胸は豊かで、くびれた腰回りはやけに陰鬱とした色気を感じてしまう。その細い指先に血のように赤い唇を当て、男を見下すようにじっ……と見つめていた。

 陰気な雰囲気がある美しい女だ……。


「……余程の自信だね勇者魔王。でも好戦的なのはどうかと思うよ……ニンニン」


「ニンニン? それがお前の名か?」


「私は賢者。三千世界の人間は私を賢者と呼ぶわね。ニンニン」


「け、賢者だと……! 賢者ショウセツがこんな所に……!?」


 ミストジャマーの森の奥に全世界の知識を網羅するヒューマンディクショナリーである賢者ショウセツがいた! そのショウセツは驚く俺達をよそ目に、素っ裸の姿から白いワンピース姿になった。一瞬、忍者装束になったのは気のせいか……?


「賢者ショウセツ……お、男じゃない……だと?」


「どう見ても女でしょ? 君は男と女の区別もつかないのかなチェリーボーイ?」


 俺は賢者は男とばかり思ってたが、白のワンピースが眩しい美少女だ。その白髪の美少女は言う。


「それに私はショウセツではなくてコユキよ。コユキ」


「……ショウセツじゃなくてコユキだと? 読み方を間違って覚えてやがったな魔女め」


「ナハハ! たまにはセンパイもミスするわよ。名前なんてどうでもいいわよ。ナハハ!」


「ナハハ! じゃねーし。まぁいいか。こうして賢者に出会えたんだしな。で、お前は大魔法とかも余裕で使えるんだよな? 軽く見せてくれよ」


「ナンセンスね。賢者は魔法じゃなく忍法を使うのよ。だからこそ賢者なの」


「に、忍法だと!? お前、まさか俺の世界の過去に行った事があるな?」


「ニンニン?」


「ごまかしてもムダだ。お前が賢者ならちょうどいい。俺は元の世界に帰還するワープゲートを開く方法が知りたい。それで安全に現代へ帰りたいんだ」


「え? 何でそんな事を教えないとならないの? 君の事なんて知らないよ」


「教えなければ意地でも聞き出すぞ。俺は勇者魔王でも魔王の因子がある存在だからな。女だからっていい気にはさせん」


 ズッ……と俺は凄んで見せた。

 ここで上下関係はハッキリさせておく必要はある。俺は現代へ帰る為ならどんな奴でもゴミ袋のように扱ってやるのさ。


「さぁ、この勇者魔王であるこの俺にワープゲートの開き方を教えろ……」


「……」


「……おい!?」


 コユキの野郎! 顔を背けて、下を向きやがった!

 ジッ……と魔女は冷たい視線を送って来る……。

 お、俺は何もしてないぞ!


「な、泣くな……賢者コユキ」


「泣いてないわ。陰気なだけよ」


「自分で言うな。散らすぞ」


「散るのは君だよ勇者魔王……」


 ニタァ……と笑うコユキである賢者ショウセツは魔法結界をこの周囲に張り巡らせた!

 ここで俺と魔女を始末するつもりか?

 と、思ってるとすでに賢者ショウセツの姿は空中に浮かんでいた。

 逃げるつもりだな。


「魔女、緊急事態だがたいした事は無い。第三オーマスーツ・ブラックアンボビウムで暴れる。魔法結界が張られた空間ごと壊してやる!」


「あいよ!」


 二人で暴れる事を察した賢者ショウセツは寒そうに豊かな胸を腕を交差しつつ支え、


「どうぞご自由に暴れて。私は寒いから隠れてるね」


「そうかよ。まぁ、すぐに見つけてワープゲートの事を吐いてもらうぜ!」


 俺と魔女のダブルアタックで賢者ショウセツの空間ごと破壊してやるぜ!

 空間を支配されてるならこれで対抗するしかない! どこまでやれるかはわからんが……これに賭ける!


ブラックアンボビウム武装装備――。


 近くの敵を始末するビームガン。

 周囲の敵を倒し、爆破しつつ牽制もかけるハイパーバズーカ。

 敵を巻き取り爆破する爆導索。

 広範囲の敵を蹴散らすミサイルポッド。

 対人兵器・フラッシュニードル。

 白兵用のハイパビームソード。

 そして虎の子である一撃必殺の威力を誇る、五メートルの砲身の大砲・ギガビームキャノン。


 そのブラックアンボビウムの外見は、両肩に大型の武装コンテナが有り、右に五メートルの砲身の大砲・ギガビームキャノンがその存在を否応無く示す。左側には魔力を貯蔵する魔力タンクがあり、魔力防御シールドを展開させるジェネレータの役割も果たしている。中央にはそれをコントロールするステイマンが存在する、黒薔薇描かれた出来た巨大な戦艦ともいえるブラックアンボビウムが姿を現した。

 その使い手ステイマンである俺は、両手を広げ、ブラックアンボビウムの存在感を知らしめる。


「……やはり魔力結界は破壊できないな。となるとショウセツ本体を叩くしかないか」


「そうね。この場所からすぐに逃げなかった事を後悔させてやりましょう! 勇者魔王と魔女のペアは無敵なんだから!」


「当然だ! こんな所でチンタラしてられん。賢者を見つけたなら次元ゲートの解放方法を聞き出してからゴミ袋のように使い倒してやるさ。とっとと出てこい賢者ショウセツ!」


「チータら? 食べたいねぇ」


「チータら違う。チンタラだ。散らすぞ! うおおおおおーーっ!」


 俺がステイマンとして両手に持つビームガンを周囲の森に向けて連射する。ズバババッ!と魔力結界内の森が消滅して行きブラックアンボビウムの上に乗る魔女が、微かに動いたであろう賢者ショウセツの反応を見つけて俺に知らせ、対人用である光の針・フラッシュニードルを射出した。ドドドド! とフラッシュニードルは地面に突き刺さるが、特に何かに当たったという気配は無い。


「……特に今の攻撃場所に誰かがいた形跡は無いわね。ショウセツの反応はあるけど捉えるのはかなり厳しいかもしれないよコウハイ君」


「ま、ここまではある程度想像通りさね。ならこの賢者ショウセツの張り巡らせた魔力結界内の空間全域に攻撃して奴の反応をあぶり出すしかねーか!」


「え? それって私達にも被害が出ない?」


「出るけど、勝つためだ。行くぞ魔女!」


「うぴょーん!」


 この魔力結界が張られた外界からの断絶空間のどこかに隠れてるであろう賢者ショウセツの姿をあぶり出して倒すために、すぐさま俺は一点狙撃型のビームガンから広域爆破型のハイパーバズーカの両手持ちに切り替え、ブラックアンボビウムに搭載されるハイパービームソードの操作を魔女に委託する。そしてブラックアンボビウムの両肩にある大型の武装コンテナから筒型のミサイルポッドを射出する。それは飛行途中でボボボボ! と四方八方にミサイルが雨あられのように飛散する。


『……』


 目を覆うほどの爆発による衝撃と、耳をつんざく騒音。ズズズ……と地響きが起こり、周囲の森の自然が爆発と炎によって蹂躙される。その衝撃の余波はその後方の大木すらなぎ倒し、吹き飛ばす。


「この存在を知らしめるショウセツは消えたか。この機体の上に乗れ魔女」


「ほいほーい。とうっ!」


「よし!行くぜ賢者ショウセツ!ギガビームキャノン!!!」


 俺は魔力と血を代価に威力を高めていく黒薔薇模様が美しいギガビームキャノンを構えさせるコントロールをし、左右を確認し、撃った! ギュオオオオオオオッ――という黒くブ厚い閃光が少し先の森を消滅させた――。これで賢者ショウセツをあぶり出してやるぜ!



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