ミストジャマーに潜む殺人鬼
ラルク大陸の七つの大国の一つ・霧の大陸ジャスティス大陸。
全てのレーダーなどの通信魔法を遮断する霧のミストジャマーに包まれた大陸だ。現在勇者である俺と魔女はジゴク大陸の国境を越えてその地に足を踏み入れていた。
現代に帰還出来る安全なワープゲートを生み出す技を持つ異世界の賢者・ショウセツがいる可能性と、この俺の秘宝中の秘宝。勇者と魔王の魔力が詰まった勇魔金玉を使って本物の魔女へとクラスチェンジする半魔女メスパーを追跡する為に歩いている。この大陸は森のような自然はあまり多くないが、その代わり霧のミストジャマーがある為に一寸先は闇ならぬ一寸先は霧……としか言いようの無い状況が続いている。
今の俺は魔王の魔手が無い為に義手をつけている。魔王の魔手であったマッシュというマッシュルームカットの毒キノコのような美少女は俺の身体を乗っ取る為にいつか仕掛けて来るのは確実だから、まずは自分の金玉というかチンコごと奪われたからチンコを回収するのが先だ!
(つーか、何で金玉に魔力が溜まるんだがわからん……金玉に溜まるのは別のモノのはずなんだがな……)
と、未だに疑問が解決しない俺は魔女と共に旅人が迷わないように建てられた中央に剣で十字が描かれるマジックフラッグを頼りに歩いている。このマジックフラッグという旗は、中央都市のジャスティスシティーの十字軍の旗であるようだ。そしてこのマジックフラッグにイタズラをして違う所に立てても必ず建てられた場所に戻るという代物のようだな。
「便利な道先案内人だなこのマジックフラッグは。これがあれば中央都市まではこのミストジャマーの濃霧の中でも迷わないで済むぜ」
「このマジックフラッグは存在するけど存在しない幻覚魔法の高位系で作られているからね。だから燃やしても、壊しても、何をしても建てられた場所にまた旗をなびかせるの。この国も他国からの物資の流通が無いと困るから、このマジックフラッグは絶対不可欠なモノだからね」
「今の俺は魔王の魔眼が使えないからレーダーが使えない状況じゃ索敵も出来ないからな。勇者の超直感に頼るしかない。けど、超直感も周囲数メートルが限度だから遠くの敵はわからない。歩きつつも二人で警戒を続けないとならん。一週間以上テンジゴクシティーで休んでたから、もうあの新しい国で起きた事件の事も他の大陸には知れ渡ってるだろうしな。自分の技を最高だと思う危険な敵が襲って来る可能性はある」
「そだね。まぁ、今は勇者のパワーしか使えなくても何とかなるでしょ。この頼れるセンパイがいる限りね!」
「本当に頼んだぞセンパイ。……今の俺を助けられるのは、センパイだけなんだからな」
と、魔女の手を取り瞳を見つめて言う。
カアァァ……と赤くなる魔女はピャー! と両手を上げて変な踊りをしながら歩いて行く。
「コウハイ君は私が守るよ! コウハイ君を助けられるのは私だけだから!えっへん!」
(よし、これで魔女は当分の間は頑張るだろう。後は俺も無茶な戦闘は出来ないから無理をしないようにしないとな……戦闘の途中でマジックウェポンを生成出来なくなったらアウトだからな)
勇者魔王のオンリースキル・マジックウェポンで現代兵器やオーマスーツが生成出来なくなる可能性も考えて動かないとならない。勇者魔王の不安定な力が生み出したマジックウェポンは、安定した勇者のパワーだけでどこまで生成出来るかは現時点ではわからないからな。すると、前方から人影がぬっ……と現れた。すぐさま俺達は敵と思い警戒レベルを上げた。
(……敵か?)
次第に大きな影が映り、馬の足音が聞こえ得る。
「……荷物馬車か。となると商人だな。どうやら敵ではないようだぜ。一応、警戒レベルを下げていいだろう」
「商人ならこの先に何があるか聞いてみるのもいいんじゃない?お腹空いてきたよね。非常食系はなんか美味しくないし、ちゃんとしたものが食べたいよね?」
「お前……どんな状況でも花より団子だな。まぁ、魔女らしいが」
せめて、もう少し警戒しててもらいたいもんだ。この商人が本当に商人かなんてまだわからないんだからな……。
警戒しつつ商人達と接していると、その商人達は本物の商人のようだった。
露骨に出していた俺の殺気に毛ほども反応しないからな。
俺は商人にレアアイテムの時計仕掛けのリンゴをプレゼントした。これは異世界の方位磁石の中でも最高位の代物で、物理的にも魔力の影響を受ける事なく正確な方向を示してくれる方位磁石だ。俺には魔女がいるからコレが無くても問題はないからな。
(さて、これで良い情報をもらえるはずだ。この霧の中での出会いは大切にしないとな……)
そして、商人達からこの先を真っ直ぐ行けばジャスティスシティーに到着するらしい。徒歩だと早くても五日ほどの距離。その途中に街があり、そこで休息を取っていくと七日はかかるようだな。このミストジャマーの霧が晴れない以上、飛んで行くのは厳しい。七日かけて徒歩で行くのがベストな選択か……。
「情報提供ありがとう。お前達も道中気をつけてな」
「おうよ。ただ、この辺りは神隠しがあるというから気をつけろよ。コッチも荷物の中の食料をやられている。見えないモンスターがいる可能性がある。二人での旅なら機動力を活かして早めにジャスティスシティーに到着した方がいいぞ。じゃあな少年」
「おう。最近はこのラルク大陸全土での事件も頻発してる。あんた等も気をつけろよ」
そして俺と魔女は歩き出し、深い森に入った。
さっきの商人も言ってたが神隠しなんて物騒な話だぜ。
今の左腕とチンコが無い状態じゃ無駄な戦闘はしたくないからな……。
「魔女、そろそろ弁当でも食うか? 肉弁当をな」
「そーね。食べようか」
ふと、気配を感じてハンドガンを首から下を包み込むブラックマントの中で取り出した。
不意に魔女が新聞紙のステッキからビームを森の中に撃ち込む。
瞬間――緑のマントを着た物体が高速で動いた!
「動きが遅いぞ――ザコが」
冷静にハンドガンの銃口を敵の心臓に向け、奇襲をかけて来た男を返り討ちにしてやった。一応、過去に恨みを持たれた相手かを確認する為に顔を確認する。明らかに変化する俺の顔に、魔女は気付いた。
「コイツの顔は見覚えがある……ビンゴブックに載ってる連続殺人鬼のドロンボだ。何でコイツがこんな人気のない所にいるんだ……?」
「コウハイ君がそんな顔をするなんてこのドロンボってのは因縁の相手なのかな?」
「いや、ドロンボはテンパのいたゴールド大陸の殺人鬼だ。それに俺との直接の接点はビンゴブックに載ってるという事以外は無い。わざわざ自分が活躍してた大陸を離れているのが考えられない。殺人鬼という奴等はあまり遠くの場所へは行かないもんなんだがな……」
「つまり、何か事情があってこのドロンボはこの大陸に来た。そして、殺人鬼としてこの大陸でも生きていてコウハイに殺された」
「あぁ。だが何故コイツがこんな所にいるかが謎だ。このラルク大陸は七分割されたどの大陸も広大だ……わざわざこんな霧に包まれた殺人を行いにくい場所にいる意味がわからない……」
「それがこのジャスティス大陸に関する何かだとすると、この謎を解決するのがこのジャスティス大陸の中央都市であるジャスティスシティーを攻略する上で役に立つかもね。半魔女メスパーとテンパはジャスティスシティーに隠れているはずだから」
「そうだな。奴等はジャスティスシティーの裏で暗躍してるのは確実だろ。じゃなきゃこんな他者を受け入れない国にいられるはずはないからな。このラルク大陸の変化にかこつけて、大陸全土に戦争を仕掛けるような事を国王などに勧めてるはずだ。ゴールド大陸やテンゴク大陸に侵攻するには今がチャンスだからな」
俺達はこの霧の中で誰かに見られているような不安感を感じつつも歩き出す。
すると、また敵が奇襲をかけて来た。
ズババババッ! 俺達の背後から魔力の反応もロクに無く無数の氷の矢が飛び、それを回避すると俺の目の前に赤いツナギを着たショートソードを悪鬼のように構えた男が迫る。キンッ! という金属音を上げて交差し、ショートソードの一撃を防いだハンドガンで数発射撃した。その弾丸は回避されるが、魔女の新聞紙のステッキから放たれるビームが男の右胸を貫く。
「あら、心臓に当たらなかったわね。コウハイ君に負けてるわ」
「ぐぎゃあ! やりやがったな!」
魔女の台詞が微妙に気になるが、俺はこの敵の分析をした。
「それはコッチの台詞だアホが。一撃目は魔力の反応がほぼ無かった事を考えると、あらかじめ地面に仕掛けた時間差魔法。そしてその隙をつき相手を斬殺する戦法……お前は血塗れのゲイルだな?」
「な、何故わかる!? しかも俺の必殺コンボを回避するなんて……」
「お前の赤いツナギはビンゴブックと同じだ。そして必殺のやり方は俺からすればヌルいんだよ。時間差魔法は魔力の発生が突然起こる。俺のレベルになれば、そんな唐突に魔力が発生すれば時間差魔法ってのがすぐにわかるんだよ」
「ぐっ! ならばこの女を始末して――」
この周囲の地形を知り尽くすゲイルは木々を利用して飛び、魔女の背後に迫る。そして魔力で硬質化したロープで魔女の身体を縛り上げた。魔女の左肩にもたれかかるように構えたゲイルを俺は冷ややかな目で見ていた。そして縛り上げられた魔女はうー! と身体に巻きつくロープから脱しようともがいていた。
「ねぇ? 手のロープを離してくれるコウハイ君?」
「魔女。自分でほどけよ」
「仕方ないな……でも、快感かも」
「犯罪者とはいえ人の死を喜ぶとは不謹慎だぞ」
「だって私は人の死を喜ぶ魔女ですもの」
ペロリ……と魔女は自分の唇を舐めた。
そう、ゲイルはすでに魔女の新聞紙の剣で心臓を刺されて死んでいた。背後に迫った瞬間、魔女は新聞紙の剣を後方に向けていたんだ。
にしても……。
「また殺人鬼だ。ビンゴブックに乗ってる奴が連続して現れるのは有り得ない。殺人鬼が同じテリトリーで仕事をするのは互いに許せないはずだ」
「なら誰かに強制されてるとか?」
「強制? 殺人鬼に殺人を強制するだと? そんな馬鹿げた話が……」
「あると思うよ。この大陸は霧に隠れた国。真実は霧の中かもしれないわ」
「となると、これは他国からの侵入者を殺害する為に放たれていた殺人鬼。おそらくこのジャスティスシティーで拘束され絶対服従の何かをされた殺人鬼。こりゃ、相当ロクでもない国を目指しているようだぞ俺達は……」
この霧の深い森の中で、明らかに殺意を持った誰かが俺達を狙ってやがるぜ……。まさかもう魔女にクラスチェンジしたメスパーの刺客か?それとも魔王の魔手であるマッシュの罠?
何はともあれ、この霧の森を支配している奴はチョットヤバい敵だな……。




