エミリとの決着。そしてマッシュルームヘアの美少女現る。
『……』
血と硝煙の匂いが空間を満たすように漂う。それをテンゴク人とジゴク人達は見つめている。人間と人間との血みどろの戦い。こんな強烈な意思をぶつけ合う激闘を見るのはそうそうあるもんじゃない。何せ勇者魔王と赤髪魔剣士の戦いだ。そして、このテンゴクシティーとジゴクシティーの住人の未来の為の戦い……俺はこのエミリの復讐事件に関わってしまった以上、ここで負けるわけにはいかない。近距離の爆導索の爆発の直撃で全身を血みどろにする俺とエミリは立ち上がる。
『……』
二人共、もう満身創痍だ。
死が近い状態になる以上、この戦いを見守る魔女は興奮を止める事が出来ない。そんな相棒の面を一瞬見つめ、俺は額の血を拭って目の前の赤髪魔剣士を見た。
「どうだ俺の愛は? ちっとは相思相愛ってのを理解したかエミリ? 妊娠は痛みがあるから今のお前じゃ無理だぜ?」
「妊娠、妊娠って……。はぁ……はぁ……しつこいわよオーマ。でも残りの魔力はもうぼぼ無いはず。もうすぐ小細工も出来なくなるわね。卑怯なガンマンさん」
「卑怯で結構。だがお前の心を折るにはこれだ!」
サブマシンガンをマジックウェポンで生成し、左手にサブマシンガンを持ち、右手にハンドガンを持った。バッ! とボロボロのブラックマントを投げ捨て、自分を一つの弾丸にするように特攻した! その覚悟を感じ取るエミリは自分の流れる血をブラッディーソードに還元して更に切れ味を上げた。
「やけに接近戦を仕掛けてくるわね! 以外だわ卑怯なガンマンさん!」
「お前と接近戦してれば否応無く俺の成長は見込めるからな。それに、接近戦で遅れを取ったら赤髪魔剣士の名折れだしなぁ?」
「この童貞ガンマンが!」
サブマシンガンとハンドガンの二刀流でエミリのブラッディーソードを上手く防ぎつつ、この超至近距離で激しく射撃を続ける。この狂った行動にエミリは興奮を抑えられないようだぜ。両者の凄まじい攻防戦は周囲の観客には終わらないワルツを踊っているように見えたようだ。だが、楽しいワルツもいつかは終わる。
「エミリーーーッ!」
「オーマーーーッ!」
ガンマンと魔剣士の至近距離での激闘は続く。そう、このままあえて接近戦をなるたけ仕掛けつつこのエミリに勝つのが一番だ。この復讐人の心を折る事がこの戦いの最重要ポイント。ただ勝つだけじゃこのエミリの復讐心は鎮火する事も無いからな。
「はっ!」
シュ! と残る最後のダガーをエミリの顔面に投げる! 頬をかすめるだけで顔面には当たらなかった。
「チョコザイな事してんじゃないわよ!」
「うるせータコベッドが!」
スッ……と手首を返して、持ち手の下にワイヤーを仕込んでいたダガーがエミリの後頭部に迫る!
「散れエミリ!」
「ワイヤーダガー? 細かい事をイチイチ仕掛けて鬱陶しい男ね! チェイ!」
シュ!と遠心力をつけたポニーテールの一撃で弾きやがった! この野郎……!
「ハハッ! 最高だぜエミリ! 本当に妊娠させたくなってきちまったぜ!」
「やはりそうなのね……早く勇魔金玉を斬り裂き、妊娠行為をさせられなくしてあげないとね……」
「妊娠について新しい知識を得たのかエミリ? 性教育指南書メスブックの新刊? それともメスパー自身の知識か? どうやって男が女に妊娠させるのか教えてくれよ? ……手取り足取りでな」
「ふ……ふざけるな童貞!」
「勇者魔王の下半身は社交的だ。魔のつく女以外にはな」
「き、貴様……童貞のフリをしていたのか!? そんな高度な作戦で私を妊娠させようと……」
「俺は童貞さ。だからこそ強い」
クロスレンジで勝てば、完全にエミリに勝利する。
この戦いはエミリの心を折る戦いじゃなくちゃならない。
この赤髪魔剣士の復讐心を折る戦いで勝たなくちゃ意味が無いんだ。
「ガンマンは相手の先の動きを読んで弾丸を撃つ。つまりは未来予測。それに勇者の超直感を加えればお前のZスラッシュとて完全回避出来るはずだ」
「クロスレンジでこの奥義を回避した人間は絶無。絶対的な死を前にして貴方は感覚がおかしくなり強い言葉で自分を誤魔化してるわ。今まで殺した人間達と同じね」
「Zスラッシュ。撃ってみろよ。そろそろ決着をつけようぜ」
ゼータスラッシュ。
光速の居合抜きから相手にZの一撃を入れ、首や腕や足など身体の一部を切断する技。これが赤髪剣士エミリのゼータ伝説だ。まぁ、もう俺が破った伝説であるし、今回も俺が破って勝つだけさ。
そのまま俺は地面に突き刺さるヒートソードを右手に持った。
すでにハンドガンは胸のホルスターにしまってある。
軽く素振りをして落ちたヒートソードの熱量を高める――が、
(? 左手の魔手の動きにより剣筋が安定しない? 右手まで影響してくるのか魔手の影響は?)
ここで魔手が暴走した!
魔女の魔封印式である禁呪魔法・デスインフィニットサイレンスで封印した効果が切れやがったようだぜ。テンゴクシティーから下界の状況を見る為に魔眼を使った事や、ここまでの激闘が原因だな。それはもう仕方の無い事だ。だが……。
(だが、この状態で戦いの延期なんてできねーぜ……。どうする? このままだと負けるぞ……)
民衆に混ざって戦況を見つめる魔女の瞳が何かを訴えているが、俺にはもうわからない。
ただ左手の黒く暴れ出す魔手が自我を持って蠢く不快感に負けそうだぜ。
(この最終局面で魔手が暴走とはな。ったくこんなテンプレ展開いらねーぞ!)
「どうしたの勇者魔王オーマ。顔色が悪いわよ?」
「なに、こっからお前を妊娠させるという事で緊張してるだけさ。なんせ童貞なもんでな」
「そう……ならいいわ。行くわよ。赤髪魔剣士最大最強の一撃を……」
スッ……と瞳を閉じる赤髪剣士は居合抜きの構えに出た。この局面でも完全に心が落ち着いてやがる。この落ち着きで闘争心は衰えず、技の発動と共に抑えていた感情を爆発させて技の糧となるようにしている。それを魔王の魔眼を使えない俺は赤髪ポニーテールの先を揺らす美少女の構えに関心する。
(……相変わらず隙の無い、いい構えだ)
グッ……と腰を沈めアゴを引き、左の親指で刀の鯉口を切り、その右手は本人の両眼のようにカッ! と力を発した。エミリの赤い瞳にはZの文字が浮かび上がる。
(――来る!)
瞬間、赤いZの光が流れた――。
「Zスラッシュ!」
(ダメだ!魔手が身体に痛みを与えて動けない――死ぬ――!)
すでに身体はまともな反応を出来ない状態にある。
俺は死を覚悟した――。
赤い復讐者は俺を鮮やかに通り過ぎる。
この戦いを見守る民衆の声があっ……と同時に上がり、エミリは赤い復讐の刀を鞘に納めた。スッ――と一つの物体が飛び、カランッ……という金属製の音を立てて転がった。
『……』
つまり、俺の首はまだ繋がっている。
ゴクリ……とツバを飲み、真っ二つになる魔女にもらって外せなくなった呪われた勇者冠を見る俺は、
「……勇者の額当てが無ければ即死だったな……魔女の呪いに感謝するか。でもダサい冠が消えて良かったぜ」
「今のZスラッシュは冠を飛ばしただけ? やってくれるわね勇者魔王。でも次はもう頭を守るモノは無いわ。殺す」
「確かにそうだな。だが、こっちも次で勝つさ。もう一度さっきテンゴクシティーで言った事を言う。全てを消すのは楽だ。しかし、生きて罪を償わせる方が奴等にも地獄を味あわせる事が出来て楽しいんじゃないのか?」
「一度決めた復讐は変えられない。変えたいなら私を殺すしかないわよ。もう全てが付きかけてる貴方に何が出来るのかしら?」
「魔力も体力もいらないさ。俺にはこの二つの国の民の平和を願いこれから互いを尊重して変わろうとする決意という想いがある。……お前には何があるんだ?」
「その答えは、互いの剣で語るしかないわよ」
「そうだな……なら、終わらせようぜエミリ」
今度こそ最後の対峙だ……。
全ての状況を利用して俺が勝つ!
「この建物が崩壊して荒れ果てた大地なら遠距離で仕掛けるにはもって来いだったのにね。障害物が貴方を守ってくれたでしょうに。私は地面さえあれば問題無くゼータスラッシュを放てるから問題ないけどね」
「地面さえあれば……か。こうなりゃこうするまでだ!」
バッ! と残る魔力を全て地面に叩きつけ、勢い良く空中に飛んだ!
地上だともう勝ち目は無い。
足の踏ん張りがきかない空中ならゼータスラッシュの勢いも多少なりと下がるはずだ!この空で決着をつける!
「空中に逃げても無駄よ! 足場が無くてもゼータスラッシュは放てる!」
「そんなのガッテン承知だぜ! 勇者の超直感舐めんな!」
そのまま真下を向いた俺は左手に持つヒートソードを構え、エミリを迎撃しようとする。
(どうせ自我があって俺を乗っ取りたい魔手ならば、魔手もゴミ袋のように利用してやるぜ!)
真下から迫り来る赤髪の悪魔が、全てをZに斬り裂く高速の斬撃を放つ態勢に入っていたーー。
「ゼータスラッシュ!」
シュパアァ! と黒く歪んだ腕である魔王の魔手が飛ばされたーー。その手にあったヒートソードも斬られて破壊されちまったか。
(魔王の魔手を斬られた! 流石の斬撃だぜ……しかも衝撃で右手が上がっちゃまってる!今の俺は隙だらけだな――)
左腕が舞っている状態で右手を上げてしまっている俺は次のエミリの行動に対して何も出来ない。無論、エミリはもう一度ゼータスラッシュを叩き込んで来るだろう。それを回避する術はもう俺には無い。
「最後の一撃よ!このゼータスラッシュで全てが終わる! このテンゴクとジゴクは……赤髪魔剣士エミリの復讐によって消滅する! 死ね勇者魔王オーマーーーっ!」
「誰が死ぬか! まだ俺には剣があるぜ!」
「ゼータスラッシュでヒートソードも破壊したのにどこに剣がある? 戯言を吐くのも終いよ。この最後のゼータスラッシュで――」
「俺にも魔剣はあるぜ! よく俺の右手を見てみろ!」
「そ、その魔剣は……その黒い魔剣はまさか!?」
そう、今の俺は勇者の右手に黒い魔剣を持っていた。これは魔王の力を持つ魔剣。闇の力の王である者が持つ魔剣だ。つまりは……。
「魔手を魔剣に変形させたのさ! この一撃で終わりだエミリ!」
「そんな付け焼き刃で勝てると思うな! ゼータスラッシュは世界最速!」
「御託はいい! 勝負だ!」
そして、魔王の魔剣と赤い呪いの剣がその全ての力を解放して交差する――。
「這い寄る混沌を支配せし魔王の剣よ……俺に力を貸せ! 魔手スラーーシュ!」
「呪われし血の魔剣よ……赤髪魔剣士の敵を打ち砕け! ゼータスラッシュ!」
シュパアァ! と黒と赤の閃光が大空に散り、テンゴクシティーとジゴクシティーの住人はそのまばゆい光に目を細めた。そして、黒髪の男が地面に着地し、赤髪の女は上空を血を撒き散らし舞っていた。ドスッ……とエミリのブラッディーソードがジゴクシティーを象徴するこの都市の門の上部にあったジゴクマークに突き刺さる。その間、魔王の魔剣は蠢くような声を上げて何かを訴えていた。胸元から血を流す俺は、魔剣を捨てて落下して来るエミリを受け止める為に駆ける。
「エミリ……ぐっ!」
と、敵であった女を受け止め、お姫様だっこの状態を保てずすぐに地面に下ろした。もう俺には左腕が無いからな。血まみれのエミリは俺の一撃を受けて気を失っている。
少し周囲がザワザワしているな……。
この勝負が終わったからか?
そしてこの戦いの最中スライム乳の盗賊ニートは寝てたが起きたようだ。
「ねぇオーマ! 魔剣がキノコ型になったよ! 魔剣はマッシュルーム?」
「何を寝言言ってやがるニート? 魔剣がマッシュルームなんて……本当にマッシュルーム? いや、人間の形に変化するぞ!?」
黒い魔王の魔剣はマッシュルームの形から人間の形に変化し、マッシュルームカットの緑髪の美少女へ変貌した!一体どういう事だ!?




