テンジゴクシティーの誕生と奪われる勇魔金玉
「何だ……コイツは?」
異様な主張をする緑のマッシュルームカットに大きい瞳。身体は薄いがツンと上を向く乳房にキノコ型のおへそ。そして長く研ぎ澄まされた刀のように美しい美脚――これが魔王の魔手の正体のようだぜ……。そのマッシュルームカットの少女は憮然とした表情の後にキノコ型の髪をグイングイン振り乱し言う。
「私は魔王の魔手であるマッシュルームカットのマッシュだよ! いずれ力を蓄えてから勇者魔王の身体を乗っ取ってやるわ。覚悟されたし! マッシュ! マッシュ!」
『!?』
その場の全員は呆気に取られた。
だが俺はこの魔王の魔手であるマッシュに問わないとならない事が山ほどある!
「待てマッシュ! お前はここから逃げるのか!? 何故俺をすぐに乗っ取らない?今はチャンスだぞ!?」
「その手には乗らないよ。オーマのどんの強さは魔手であるこの私が生で知ってるからね。もっと一つの生命体としてパワーを上げてからじゃないと身体は乗っ取らないよ。じゃーね!マッシュ! マッシュ!」
そして魔王の魔手マッシュは荒れ果てた建物の中をシュン! シュン! と高速で移動して何処かへ消えた……。凄まじいやつだ。これだけボロボロの俺を攻め立てず、確実に俺の身体を奪うパワーを身につけてから奪うとは。慢心というものがねーなんて、流石は魔王の魔手か?
「チッ……これで当分は左腕無しか。こりゃどっかで義手でもつけないとダメか?やってられねーぜ全く……」
って言ってる場合じゃねーな。
この中で疲れてないのは盗賊ニートだけだ。
ならコイツをゴミ袋のように利用してやるぜ!偶然にも落ちてたポテチ袋をニートに投げた!
「ポテチやるから追いかけろニート!」
「あいよ!……ボリボリ。美味い! これでパワー回復……ん? 眠いな……くかー……」
『寝たー!?』
と、俺を含めたこのテンゴクシティーとジゴクシティーの衝突した廃墟にいる全ての人間が同じセリフで突っ込んだ!ニートはポテチ食わせたら寝てしまった……役に立たんニートだ! クソが!
「まぁもう魔手のマッシュは諦めとくか。いずれまたマッシュは現れるからな。それより今は、このテンゴクとジゴク事件の決着の方が先だ」
と、魔女に乾いた笑みで微笑んだ。
すると、魔女はピースサインで応えてくれた。それだけで俺の胸の中の重みは軽くなる。
(ありがとよ魔女……)
そして、一つの事件の解決は持ち越しとなったが、これまでの事件の決着はついている。
その事件の発端となる赤髪魔剣士はフラフラ……とよろめきながらも自分の足で立つ。
「敗北……ね。まさかこの天地消滅作戦が不完全に終わり、私までもが敗北するなんて……勇者魔王オーマ。貴方は強い男だったわ。負けを認める」
「お前は剣で倒さないと、納得しないだろう? だから最後は剣での勝負に出たのさ」
「この赤髪魔剣士の異名も持つ私に剣で勝つなんて、凄い事だわ。貴方は剣士としてもやっていけるわよ」
「そりゃどーも」
完全に敗北を認めるエミリは乾いた笑みで俺を見ていた。とうとうこの激闘と天地消滅作戦が終わったのか……とテンゴクとジゴクの民衆は安堵の表情を浮かべている。そして復讐をやめる赤髪魔剣士の少女は血の魔剣・ブラッディーソードを俺に渡した。
「さぁ、その血にまみれた呪いの剣で私の首をはねるといい。このテンゴクとジゴクの人間達は私を許せないだろうからね。断罪者として生きてきた私の最後は、勇者魔王に断罪されて終わるのよ。ここから天と地の平和が始まる」
「ま、そうだな。そこまで言うなら死んでもらうか。この事件で少なくとも百人以上は犠牲になってるし、建物や土地の被害も凄まじい……許される罪では無い」
「やれ、勇者魔王オーマ。貴様に処女を散らさせてやれなかったのは後悔だが、どうやら魔女という相方がいるようだからね。魔女に妊娠させてあげなさいな……」
「残念ながら魔女は子を宿せない身体なんだ。それが魔の源である女の体質」
「そうなの……まぁ、それなら他の女に頼む事ね。メスパーはムリだろうから盗賊ニートとでも関係を持てばいいわ。彼女はポテチさえあれば何とかなるでしょ……」
「俺の童貞の話はいい。赤髪魔剣士エミリ。勇者魔王オーマの名においてお前を断罪するーー!」
俺は何の躊躇も無くブラッディーソードを振った。ザシュ……! と一つの首が飛ぶ。まるで蹴られたボールのように弧を描いて飛ぶ首に民衆は見とれる。そしてその首は魔女の足元に転がった。それを足で踏みつける魔女は無表情で言う。
「これは現テンゴク王の首ね。そして次のテンゴク王は誰なのかしら?王位継承したテンゴク人には、こんな事をしてもムダというのをわからせる必要が多いにあるわねコウハイ君」
「そうだな。だからこそエミリを殺そうとした民衆に紛れる現テンゴク王の首を飛ばしたんだが、まだこの民衆の中にも天と地の改革を望まない者がいるようだな。悪の根源が消えるとなればまた元の鞘に戻ろうとする根性は気に入らんな。散らしてやるから前に出ろ」
『……』
と、こうなると出てこないのは人間の本質だ。俺はここでこの民衆に対しての個人的な怒りをぶつけなきゃならんよーだな。
「いつまでも同じ世界でいられると思うなよ?世の中は絶えず変わる。変わらなきゃならないのに変わらない人間は、次の時代の人間の邪魔だ」
ハンドガンのトリガーを三回引いて、三人のテンゴク人を殺した。その理由すらわからぬ愚民共にわざわざ理由を話さないとならんようだ。人の死を感じて興奮してる魔女と、俺に怯える民衆のギャップが少しウザいな。
「今殺したのは明らかにエミリを殺そうと前に出てきてて、武器を持っている奴。俺の勇者の感覚はお前達のくだらん行動なんかお見通しなんだよ。そしてジゴク王。よく動いたな。落ちてた木の棒でエミリを殺そうと動いたテンゴク人を殴った行動は認めてやるよ」
「これはエミリに今、死なれては困るからだ……生きて……罪を償ってもらわないとならんからな。それだけだ」
「ま、今更親子として暮らすのは無理だろうが父親の行動としては間違いじゃねーからいいさ。さて、エミリ。お前はこのジゴク王をどうしたいんだ? そこのケジメはつけろよ」
その俺の言葉に反応し、エミリとジゴク王は初めて親子として見つめ合う。これは、この二つの国が新しい始まりをする上で大事な事だぜ。
「……ケジメもなにも、もう復讐心なんてないわよ。血を浴びすぎた人生にいい加減疲れたわ。それは戦った貴方が一番わかるはずよ。それに私は赤髪魔剣士エミリ。憎しみの血から生み出された魔剣士。私に親なんていないわ」
「……そうか。確かにそうだな。それが赤髪魔剣士か……」
「でもこの天地消滅作戦の償いとして、テンゴクとジゴクの新しいテンジゴクシティーの誕生になら力を貸すわ。それが赤髪魔剣士エミリ、最後の復讐よ」
「最後の復讐……か。ならば赤髪魔剣士エミリ。このジゴク王の指揮の元、お主の力を新たな国の誕生の力として貸してくれ」
「えぇ、任せておきなさい。ジゴク王」
こうして、赤髪魔剣士エミリは新たなる国・テンゴクシティーとジゴクシティーが融合した国・テンジゴクシティーの誕生に力を貸すと宣言した。一年に一度のテンゴクフェスティバルの始まりの日がこんか惨事になってしまったが、過去の悪い慣習から抜け出した事で人々の笑みは心の底から笑う笑みになっていた。そして、いつの間にか赤髪の少女とジゴクシティーの王は、さも当たり前のように微笑み合っていた。まるで親子のように――。
「これにて一件落着か。人をゴミ袋のように使うのも、楽じゃないな」
俺とエミリの決闘からすでに一時間ほどが経ち、テンゴクシティーとジゴクシティーの民は崩壊した街の復興に動き出していた。俺は激闘続きの身体を魔女の手当てなどで回復してもらい、崩壊した家屋の材料を集めた簡易ベッドで横になっていた。流石に今日は疲れたぜ……テンゴクシティーとジゴクシティーに別れた事で魔女の援護があまり受けられなかったからな。だが最後には敵であった半魔女となるメスパーの力さえゴミ袋のように利用した。
「……あれ? そういえばメスパーはどこ行った? アイツも今回は役に立ったからな。テンゴクシティーの落下阻止には役に立った。そしてこれからゴミ袋のように利用してやるぜ」
今、魔女は今夜どこで泊まるかの場所探しに行っている。出来れば雨風がしのげる洞窟がいいが、この新都市になるテンジゴクシティーの住人達と廃墟の中で寝るのも悪くはないか……。
すでにこの近辺には盗賊ニートも金血鬼テンパもいない。
おそらくこのドサクサの間にこの中央都市から逃げたんだろ。
「いつか捕まえてやるさ。いつかな……」
「えぇ掴んでやりますよ。必ず掴みます」
「え? 捕まえる……って、メスパー!」
「そうですニャーン」
瞬時に立ち上がろうとするが何故か立ち上がれない。
フラフラっとしつつも立ち上がるが身体の軸が無いようでバランスがとれない状態だ。
体力の消耗の問題か?
(いや違うな。まともに動けないのは確かだ。これはもしや――)
ふと、無くなる左腕を見つめ呟いた。
「魔手だ……この平衡感覚の無さは魔手を失ったせいだ……」
「そうですわ。だからこそ、今が貴方の金玉をいただくチャンスですの」
ククク……と悪意を秘めた笑みを浮かべ迫り来るメスパーは魔法を俺にかけようとしていた。
「? 幻覚魔法……マズイ!」
平衡感覚の無さに気を取られていて幻覚魔法をくらってしまう!
このままだと幻覚と戦う最中に勇魔金玉を奪われちまうぜ!
(このままだとマズイ! 勇者の超直感よ……この幻覚の解除点を教えろ!)
勇者の超直感の力がこの幻覚魔法の解除点を教えてくれる。
「ここか! 幻覚解除!」
意識を眉間に集中させメスパーの幻覚から脱した。
しかし――。
「幻覚を解除する前に麻酔魔法をかけておきました。なので動けませんよ。それでは勇魔金玉をいただきます」
「……! やめろ!」
「……さぁ、私が魔女へクラスチェンジする為に勇者魔王の秘宝・勇魔金玉を二つ共パックンチョしますわ……」
「や……や……やめろーーーっ!」
ガラス細工を扱うような優しく艶めいた表情でメスパーは俺の腰のバックパックから黒いゴミ袋を取り出し、俺と自分自身を包むように隠した。そして、暗闇の中で俺はズボンのベルトを外され、黒のボクサーブリーフまでも一気に降ろされた。ニタァ……とようやく手に入る勇者魔王の魔力を持つ金の秘宝・勇魔金玉。ヘソを舌で円を描くように舐めると、勇魔金玉がカチッ……という変な音がした。その俺だけが持つ秘宝に、餌を与える瞬間の猫のように輝かせるメスパーは、痛覚の無い俺の勇魔金玉を魔法で容赦無く剥ぎ取り、またボクサーブリーフとズボンをはかせてベルトをしめた。
(……く、屈辱だ……)
メスパーの長い黒髪の甘い匂いを感じると同時に、俺はあまりのショックで気を失ってしまった。そして――。
「……メ、メスパー……」
「あ、目覚めたコウハイ君? やけにうなされたけど何かあった?」
目覚めると、相棒の魔女の膝に頭を乗せて寝ていた。
メスパーはどこに……?夢……か?
と、股間をまさぐったが、そこには勇魔金玉どころかチンコそのものが無かった!
とうとう、俺はメスパーに勇者と魔王の膨大な魔力を秘めていた秘宝・勇魔金玉を奪われてしまったんだ!




