テンゴクフェスティバル前夜祭の夜
テンゴクフェスティバル前夜祭が花火の打ち上げと共に始まった。
ジゴク王が言っていた通り、メインイベントの一つである武道大会の予選が開催される前夜祭だ。予選大会でも上位に勝ち残った者には商品も出る大会だからここで良い武具や装備、宝石や魔法書を手に入れようとしてる連中もいる。俺と魔女は人混みの中を歩きつつ、武道大会予選会場近くにあるジゴク警備兵が多くいる場所で立ち止まった。そこには、この武道大会予選で勝ち抜いた上位者に与えられる商品などが並んでいるからだ。そこには目玉の一つとして魔法銃スペルガンの弾丸が置かれていた。
「確かにスペルガンの弾丸があるな。アレは俺がいただく」
「ま、当然だよね。アレはスペルガンが無いと撃てない弾丸だし、スペルガンそのものはこの世界においても希少な武器なんだからね」
「このザコ共を早く蹴散らして俺があの弾丸を……」
「ん? どうしたのコウハイ君?」
魔女が俺の異変に気付き、手を握って来る。別に気分が悪いというわけでもないが、何か俺の感覚を刺激する何かがこの周囲のどこかにはあるようだ……。
(何か嫌な感覚……いや、俺の何かを刺激する感覚を感じる……一体何だ……?)
瞬間、人ごみに盗賊ニートの姿を発見した。
超巨乳にスク水だからすぐにわかるぜ。
アイツは猫とじゃれにきたわけじゃなくて、この予選に参加するつもりだな。
という事は、ここには何かがあるって事か?
「ねぇコウハイ君。気分が悪いなら私が予選に参加してスペルガンの弾丸だけ奪いに行こうか? 前夜祭とは言えこの周囲にはエミリやメスパーもウロウロしてる可能性があるから体調は回復させとかないとマズイわよ。売れば金になるあの弾丸を欲してる人間はコレクターを含めて多いからね」
「確かにアレは売れば金になる。結局、買うのは俺になるから勝ち取った方がいいな。やってやるさ」
「でも……」
「体調は問題無いんだ。一つ確認する事がある。人の流れが無い端へ行こう」
俺達は武道大会予選商品を飾ってある場所が見える人通りから、人の少ない道の端に寄る。
根本的に明日の武道大会には参加しないが、予選だけには出る必要がある。スペルガンの弾丸は必要なモノだからな。これからの戦いでムダな魔力を使わなわず、魔力が無い時の切り札にもなる重要なモノだ。
それ以上に――。
(あの商品棚の下段のヘンテコな壺の中に核のキーがある。もしもの時に作ったキーだ。それに盗賊ニートの野郎……アイツは俺を付け狙う盗賊だったからな。おそらく、核を作った洞窟に俺の痕跡を探す為に訪れて発見した。そしてキーをどこかで無くして結局はあの壷の中に入ったようだな。どうりでエミリやメスパーからキーの反応が無いわけだぜ。そして、盗賊ニートがこの武道大会予選に参加してる理由もわかった)
左目の魔眼を使い、ヘンテコな価値のあるんだから無いんだか……いや、あるんだろうが俺にはわからん。とにかく、そのヘンテコ壺の中身を魔眼で確認するが、やはりあの中には確実に核のキーがある。さっきの感覚は俺自身の魔力の感覚だな。起動キーがあれば魔力の供給に手こずらすに済む。それは俺がいつでも核を使える事が出来る代物だったが、多少なりとも俺の魔力を宿すメスパーも核のキーを使えるという事だからな。
「参加エントリーするぞ魔女。お前は敵が動いてこないか周囲を索敵しててくれ。俺が予選を勝ち抜いてまず、商品をゲットするぜ」
「オッケー。とっとと弾丸ゲットして、明日の為に肉をたらふく食べましょう!」
「食い過ぎで動けないなんて事になるなよ魔女」
「し、失礼ね! そんな事はあるわけ……」
「お前ならある。腹八分目な?」
「はひ?」
落ち込む魔女だが仕方ない。
明日は敵が大々的にテンゴクフェスティバルの混乱に乗じて動く。俺達は勝たないとならないからな。体調管理は当たり前の事だ。
「なぁ? パンテよ?」
「あらん? 気づいていたのオーマちゃん?」
すると、俺達の前に金髪巻き髪幼女が現れる。コイツは死にぞこなった死の商人テンパの残骸である金髪幼女パンテ。いちいち名前を変えてるのがウゼーが俺はテンパと呼ぶ。メンドクセーからな。
「……にしても、とことん邪魔をするかテンパ。俺への復讐ならもっと力を増してからした方がいいじゃないか? まともに戦えば今のお前じゃ俺には勝てないぜ? まぁ、また宝玉のような力を手にしても勝つのは俺だがな」
「今度は私も一人で全てを行ってるわけじゃないし、根本的に核弾頭を使用するのはエミリの役目だからね。あくまで今回の私はこれからの目的ににおけるサポートでしかないのよ。パッパッパツ!」
「……まさか、エミリ一派の第三の仲間はお前かテンパ? お前が俺のファナティクバズーカで飛ばしたメスパーを回収した……」
「犯人よん♪」
「目障りな復讐者だ。散れ」
「復讐をするかしないかはわからないわん。ただ、核弾丸アトミックフレイヤは気になるから赤髪魔剣士エミリの復讐に協力してるだけよ。私もこの武道大会の予選に参加するから当たったらお手柔らかにね♪」
「知るか。永遠に散れ」
フフ……と幼女らしくない妖艶な笑みを浮かべパンテことテンパは去る。魔女はテンパを警戒して尾行しようとするが俺が止める。今の目的は力と組織を失ったテンパじゃねーからな。
「テンパは今はいい。今はただのエミリの協力者という飼い犬だ。それにマジメにテンパが戦って本戦に出場しても俺は本戦には出ないからな。予選で当たらないと戦う事なんて無いさ」
「そうだね。今の敵はテンパじゃない。テンパはこの事件の全てが終わってから完全に始末すればいい。感情に任せて危うく大局を見失う所だったわ。ありがとうコウハイ君」
「気にすんな。とっとと予選を終わらして、ジゴク王の別荘で夕食の肉をくらいに帰るぞ」
「おー!」
そんなこんなで人ごみの道を歩いていると魔法剣士のコスプレイベントが行われていた。
武道大会に参加できない女達は、コスプレをする事で観客を沸かせているようだぜ。
その最中、一人の赤髪の侍装束の少女が俺の少し先を通り過ぎる。
「……! あれは赤髪魔剣士エミリ?」
「コウハイ君?」
魔女の言葉も耳に入らない俺は、弾かれた弾丸のように人ごみをかきわけてその赤髪女に接近する。奴は俺に気づいていない、そして俺は奴の背後を取ってる。これは俺の運の良さの勝ちだな――。そして、俺の右手がエミリの左肩をつかむ。
「よぅ、赤髪野郎」
「?」
「……! す、すまん。人違いだ」
後ろから見てると似てたが、顔を見たら別人だった。
顔が普通すぎて美少女じゃなかったんだ。
(違う? エミリじゃない。くそっ……焦ってるな俺は……)
ここはコスプレ会場だったな。
赤髪魔剣士として有名なエミリのコスプレをする女もいるのを忘れてたぜ。
実際この会場にエミリがいる可能性はあるが、コスプレの女が多くいて誰かわからない。そんな風に探してる間に本物に堂々とすれ違っている事に俺は気づいてなかった。
赤髪はそのままだがサラシで胸を潰していて、胸の大きさが違う事で騙されていたんだ。
まぁ、それは今の話じゃないから置いておく。
「……テンゴクフェスティバルでエミリは必ず動く。そこを叩くしかないか」
すると魔女も人ごみをかきわけて俺に合流した。
「どうしたのコウハイ君? もしかしてエミリ発見した?」
「いや、人違いだったぜ。今は俺達もこのイベントを楽しもう。全てはテンゴクフェスティバルでケリをつけてやるぜ」
そして、改めて周囲を見渡すとこの周辺の武具を売ってる店を見ると驚きすら感じる。
俺が助言して作らせたテンパが製造した刀がすでに流通してやがるな。
やはり日本刀の切れ味はこの異世界のソードよりも凄まじいようだ。
両刃じゃないから安全性も高いのも気に入る奴が多いようだぜ。
そして周囲を見渡していた魔女が掘り出し物の勇者の冠を射的でゲットした。
なんかスゲー昔のRPGで勇者がしてた冠だ。
ハッキリ言ってダセー……。
俺はいらねーな。
「はい、勇者の冠。プレゼントしてあげるわ」
「は? 別にこの勇者冠はいらんぞ? 俺はこんなテンプレな装備をするつもりは無い。今の時代の勇者はスタイリッシュじゃなきゃダメなんだ。プレゼントするなら人が喜びそうなモノにしろ魔女。散らすぞ?」
「まぁまぁそう言わないで、頭にかぶせてみればいいよ。コレちゃちに見えるけど防御力は結構高いよ。よく見ると魔法防御もされてるし。意外な掘り出し物かもね」
「ちょ、やめろ。あーもー、かぶるのは一回だけだぞ? 防御力よりも俺は目為重視だからな。いいな?」
「うん。……確かにまるで似合ってないね。面白いほど似合ってないよ」
「だろ? だから言ったじゃないか。俺にはこんな勇者冠なんていら……? いら? いろ? は、外れない?」
「ほへ?」
何と! この魔女が手に入れた勇者冠は呪われて外せない物だった!
だから防御力が高くても誰も所有しなかったんだ!
ポコポコと魔女の頭を殴り、この怒りぶつける!
「バカ魔女アホ魔女クソ魔女! これ呪われてんじゃねーかよ! しかもお前の魔の呪いの力も加わってて呪解魔法でも解除出来ないぞ? どうしてくれるんだ!」
「イタタ! まぁ落ち着きなさいなコウハイ君。確かに運悪く呪われた冠に私の魔の力も加わってしまったようだけど、数日我慢すれば自然に外れるよ。意図的に私が呪いをかけた物じゃないからね。それとバカ魔女アホ魔女美魔女って最後は褒めてない? 落としてから褒めるなんてコウハイ君も女の子を落とすテク実につけたねぇ……フフフ」
「ん? バカ魔女アホ魔女美魔女? じゃえねー! 最後はクソ魔女だボケー!」
「うきゃー! 助けてーーーっ! ぴゃー!」
「散れ! 散れ! ド派手に散れ!」
少しの間、勇者魔王と魔女の再度の決戦が開始された!
周辺の人間達は場外乱闘してる奴らがいると集まりだし、俺達を見物してやがったようだ。
そんなこんなで、勇者魔王と魔女の存在がジゴクシティー中に明るみになっちまった。
おのれ魔女め……この呪われた勇者冠の恨みはまだ消えてないからな!
そして、予期せぬテンパの予選参加に不快感を感じつつも、俺達は選手登録場の列に並んだ。
武道大会予選会場には多くの男が集まっている。他国からの出場者も多く、稀に男装した女が混じってるが特に強そうなのはいないな。おそらく未来の夫探し、仲間探しとかを含めた売名行為だろう。この予選はあくまで素手での戦いだ。魔力や武器を使わず基本的な体術だけで勝つには女は一苦労だろうからな。テンゴクフェスティバル三日後から始まる本戦への出場権を勝ち取る為にみんなは並んでるが、俺は武道大会なんて興味が無い。どうせそんな大会なんて俺が優勝に決まってるからな。さっきの魔女との乱闘見てたなら俺とは戦いたくないはずだから無駄な戦闘がなくて多少は楽にはなるかな?
「……にしても、ゴチャゴチャと人が多くてウザいな。どいつもこいつもザコそうだぜ」
「ザコはお前だガキが。この斧使いオノーン様の前に並ぶだけでも罪だぜ」
と、武道大会本戦への出場権が欲しいプロレスラーのパンツを履いて斧を持ってる暑苦しいオッサンが言う。お前はカンダタか。
「斧使いオノーン? 知らん。つまらん。散れ」
「このオノーン様を知らんのか? 山賊十人殺しの腕を持つ俺も知らんとはモグリのガキが。お前なんぞ一捻りだ。恥をかくまえに帰って母親のオッパイでも飲んでろ」
「そういう事を言う奴ほど弱いのはこの世のテンプレ」
「んだとガキ……」
「ガキーンってか? むしろチーン……か。どうでもいいな」
と、俺は男の股間を蹴り上げてから武器の斧をへし折り唖然とする群衆を振り返りもせず悠々と予選会場選手控え室へ向かう。首から下を覆い隠すブラックマントを脱ぎ、俺は魔女に基本武装の全てを預けた。
サブマシンガンやダイナマイとなど見た事の無い武器を目にして、目ざとい奴は俺が噂の勇者魔王だと気付いたようだ。そんな奴等は特に何もして来ずに黙って自分のコンディションを整えている。俺の持ち物をバックに入れて預かる魔女は、
「じゃ、あのテンパと当たってもやり過ぎないようにね。派手に戦うと武道大会が今日で終わっちゃうだろうから」
「わかってるさ。強過ぎる存在は恐怖の対象としてしか見られない事が当たり前にあるからな」
そして俺は魔女と別れる。
予選会場控え室では、自分の出番がまだかまだかとウズウズしてる連中が多くいるな。
その中の一人が俺だ。
「……さて、後は番号を呼ばれるだけか。早く呼ばれねーな。……! そうだ。呼ばれた奴を倒して武舞台に上がればいいんだ。そうしよう!」
とりあえず俺は次の番号で呼ばれた男を倒して、番号札を奪い武舞台に上がる。名前が違う登録だが、本戦には出ないからどうでもいいだろ。この男には本戦への出場権をやるから今回の件はチャラにしてもらおう。予選に呼ばれた水色の髪の中世的な顔立ちの男の背後に立ち、倒してロッカーの中に押し込んでおいた。
(これでよし。にしても、痩せてるクセにやけにブヨブヨした身体の男だったな。まぁ、着痩せしてるのかもな。それより、一気に試合を終わらせて予選で優勝してやるさ)
そして何回かの戦いと、相手の棄権もありとうとう決勝になった。
なんと決勝の相手は金髪の幼女魔剣士パンテ。
つまりは金髪巻き髪美女のテンパだ。
テンゴクフェスティバルの余興として戦うにはいい相手かもな。
女が参戦できないのにも関わらず、堂々と姿を晒してるのもどーかと思うが。
観客席の方の魔女は心配そうな顔で武舞台に立つ俺を見つめてやがるぜ。
(エミリとの戦いのトレーニングとしてはいいだろう。しかも、ここで勝つ商品はスペルガンの弾丸だ。派手に戦う事になってもここで負けるわけにはいかん)
そして、俺の目的を邪魔をするテンパはまた俺と戦える喜びに打ち震えていた。
「パッパッパッ。こんな短期間でオーマちゃんとまた闘えて嬉しいわ。これで身体のなまりもなくなりそうね。お互い、楽しいお祭りは楽しまないとね♪」
「お前は吸血鬼ならぬ金を吸い込む金血鬼だったな。だから多くの金が動くテングクフェスティバルが楽しみなのか? それにお前も核のキーを狙ってやがるのか? 教えろよ?」
「そうねぇ。一応エミリとの契約としてソレも含まれてるけど核のキーなんて見た事も無いし探すのも辛いわよ。それにメスパーが明日までに上手く起動させる事が出来るだろうから特に探す気は無いわ。私は今を楽しみたいのよ。パッパッパッ!」
「なら明日のテンゴクフェスティバルは最高のイベントだな。果てしなく金が動くイベントだ。その時お前は何をするんだ? 人の金と運と欲を吸い込む金血鬼が」
「そうよ。私は人の金と運と欲を吸い込む金血鬼。だから勇者魔王の金も運もチンもここで終わりよん」
「お前が金血鬼かどうかなんてどうでもいい。俺はお前を散らす」




