侵入! ゴールドキャッスル!
ブラックゴミ袋が死の商人テンパのゴールドキャッスル内を動いては止まり、動いては止まる。二つの目の穴の空いたゴミ袋で移動するのは俺、勇者魔王オーマだ。今は十八番のステルス侵入にてテンパのゴールドキャッスル内を攻め、体力も魔力も今のまま残して金髪悪女テンパの首を取るのが目標だ。
と、そんな事を思ってると通路の先から黄色い制服の魔術師の群れが現れた。
そして、完璧なゴミ袋でしかない俺の姿を見破れないアホ共は言う。
「何だ。ゴミ袋か」
「もうゴミの収集の時間は過ぎてるのにな。ってく、勇者魔王と魔女が正門から攻めてきたせいで皆、混乱してやがるな」
「だな。俺達も早く警備に着くぞ。正門からこのゴールドキャッスル入口までで奴等を始末する。テンパ様の手は汚させない」
と、その男は鼻炎なのかテッシュで鼻をかんで俺が中にいるゴミ袋を開けて捨てた。
(……野郎)
去り行く魔術師達をゴミ袋から見つめ、俺は周囲の気配を伺う。
こんな感じでたまにゴミを捨てられるのは日常茶飯事だ。
(――が、捨てたヤツは殺す)
マジックウェポンで生成した吹き矢にて、その魔術師の首筋に毒針を吹いた。
2cmと短い毒針は首筋に命中し、一時間もしないうちに死ぬだろう。
その前に、魔女のブラックアンボビウムに始末されるだろうがな。
(そう、あのまま魔女の奴が活躍してくれれば、俺が影のように動きが取れるぜ……頑張れよ魔女。いや、今はステイレディか)
ゴミ袋姿になる俺は、ズダダダダッ! とまるでモンスターのスライムが高速で移動したように移動する。通路の角、角とゴミ袋が置いてあってもおかしくない場所を選びつつ、俺はテンパのいるゴールドキャッスル最上階を目指す。すると、最上階へ通じる大きな階段の前に二人の魔術師がいた。俺は二人の視界に入らないギリギリまで接近し、雑談をしている二人の話を聞く。
「勇者魔王と魔女が侵入したらしくて外は大騒ぎのようだな。でも、バカ真面目にこのゴールドキャッスルの正面から侵入したから、もうじきこの騒動も終わるだろ。いくら凄い存在が二人で攻めて来ようとも、テンパ様はそれを凌駕する宝玉の力があるからな」
「確かにそうだな。勇者と魔王が合体した力を持つガキなんて相反する能力が不安定過ぎて魔法もロクに使えないと聞くぞ。スペルガンなんてモノを持っていても、特殊な弾丸には限りがあるし奴の世界の銃を使うしかないようだからな。どちらも弾切れになれば俺達でも倒せるんじゃないか?」
「確かにな。魔女に関してはテンパ様が幽閉してた時もあるから、勇者魔王のガキさえ魔力切れになれば俺達でも確保出来そうだな。そうしたら、俺もお前もテンパ親衛隊として毎晩どんちゃん騒ぎが出来るぞ!」
「はっ! 最高だな! って、今は外の連中が勇者魔王の体力を減らしてくれてるから、中に侵入したら俺達が仕留めてやるかね」
「そうだな。出来れば、の話だが」
「? 何かお前声が変だぞ? やけに若い声……!勇者魔王!?」
「この死んだ男と、あの世でどんちゃん騒ぎをしろ」
勇者魔王であるこの俺を倒すくだらん話をする二人の魔術師をダガーで屠る。ったく、くだらん殺しだ。
そして、次の階層でも出くわした敵にはゴミ袋のまま待機し、背中を見せた途端に襲いかかり敵を静かに殺した。やはり、この作戦はいい。弾丸を使わないから無駄な魔力も消費しないし、刃物で敵を一撃で殺す技の訓練にもなる。声を上げさせぬまま敵を一撃で殺す技術は、練習に練習を重ねるしかないからな。人間の肉を切り、骨を断ち、殺害する生々しい感触には慣れては来たが気持ちのいいもんじゃない。だが、相手を殺すにはこちらも痛みを伴わないと人としての心が死ぬ。
相手を殺す以上は、いつか殺される覚悟がないなら殺しなどはするべきじゃない。
「そうだろ警備兵?」
「勇者魔王!? どこから侵入した――!」
「正門から堂々とな。それにまだ倒れるなよ。お前の死体を隠す場所が無いから立っててくれないと少しの間は困るぜ」
「ぐっ……まさか刃物の使い方までマスターしてるとはな。遠距離攻撃が基本と聞いてたからステルスで現れ、こう攻撃されるとは思わなかった……」
「テンパまでたどり着くまでバレなければいい作戦だ。魔女の奴が俺のダミーと共にいるからな。ってもう死んでるか」
死体になる相手の腰に差したダガーを引き抜いた。敵の魔術師の胸に、俺の腰にあるショートソードを突き刺し、立っている風にする事で、あくまでも生きて警備をしている感じにしてやった。
(もうすぐテンパのいる最上階のはず。確実にステルス侵入したまま奇襲をかけて宝玉を奪い、奴を散らしてやるさ)
俺の魔力と体力を保たせる為に、ゴールドキャッスル入口で戦う魔女が生み出した新聞紙で存在する勇者魔王のフェイク人形がバレるのも時間の問題だろう。ステルスしてサイレントキルをしつつも、阿修羅のように急がないとならん。
その後も魔術師達が駆けていくのを見送る俺は、何故か魔術師の一人と目が合った。いや、たまたま目を空けてる部分にその魔術師の視線が来ただけだな。まだ俺のステルスはバレてないし、バレないし!
と、そんな自信満々の俺のプライドを壊す言葉が空間に響く。
「そのゴミ袋だ!そのゴミ袋の中に勇者魔王がいるぞ!」
「!」
その目が合った魔術師は俺の黒いゴミ袋を指差して仲間の魔術師に伝えた! そして俺は一気に十数人いる魔術師達と戦闘するはめになった。
つーか、何でもうバレた!?
俺のステルス移動は完璧だったはず!
仕方なくゴミ袋をパージする俺は自分の姿を衆目に晒す。
メッチャ不機嫌な顔で。まさに魔王の面構えだ。
「……何故俺のステルスがバレた?返答次第では全身を死なない程度に弾丸で蜂の巣にしてから、全ての神経をダガーで切断し、動けぬダルマにしてこの世界に永遠に飾ってやるからな」
その異様な悪意と殺気に一瞬たじろぐ魔術師達の一人が言う。
「残念ながら正門で暴れてる魔女がゲロったのさ。黒いゴミ袋でステルス移動してるのが勇者魔王オーマだってな。確かに、ここにゴミ袋があるのはおかしい話だ。所詮、孤独な魔女なんて信じるからこうなるんだよ」
「確かにそうだな。お前の話は一理ある」
「やけに聞き分けのいいガキだな。一つの都市を十万近い被害を起こして消滅させた勇者魔王の割には聞き分けがいい」
「あの都市で死んだのは五万だ。今はその話はいい。お前の言う通り信じれば裏切られ、逆に裏切れば信じられなくなる。だからこそ俺は信じる人間だけは信じる。最後の勝利者になれば全ての裏切りなど、ゴミ袋の欠片ほどもない痛みだ」
相手にバレないようにマントの中からハンドガンを撃つ。この方法はかなり役に立つ殺し方だ。魔術師は攻撃に関しては魔法詠唱の時間があると思ってるからな。ハンドガンのような速攻は奴等にとって鬼門だ。
「……死んでない? そのシールドは何だ?」
俺は話してる魔術師が死んでない事と、手に構えた白い冷気を放つシールドが気になった。それがハンドガンの弾丸を防いだんだろう。そして、その魔術師は前衛の全員が冷気のシールドを構えるのを見てから言う。
「氷のシールド。フリーズシールドだ。これならお前の銃でさえも簡単に防げる。もうお前の豆鉄砲に恐れる事などないのさ。そして、後衛の魔術師がお前を倒す!」
「なるほど、二段媒介ならぬ二段構えか。いい考えだ。褒めてつかわすぞ」
「偉そうな口を叩くなガキが! 死ねぇー!」
右手の甲の勇者烙印の五亡星が光り輝く。
勇者の力の一つ。光の防護壁・ライトシールドで敵の攻撃を防いだ。
その絶対防壁に対し、知識があるらしい敵は言う。
「その技は疲れるはずだ。いつまでも使える技じゃない」
「そうだ。だから俺は火炎でお前達を散らしてやる」
「このフリーズシールドは多少の火炎など効かん! 大魔法マグマドラグーンなら簡単にやられるが、勇者魔王にはそんな魔法は使えない。故に勇者魔王はここで死ぬ!」
そんな言葉を無視して魔術師達の前に一瞬で立つ。
「そんなシールドなど、無意味だ。散れ」
ズブオオオオッ! と人の視界を殺す範囲の炎が魔術師達を襲う。敵の前衛の魔術師達は自慢のフリーズシールドを一斉に構える。
「効かないぞ。この程度の火炎などいつまでも浴びなければこのフリーズシールドは溶けない。そして、連続魔などの高等技術は魔法をロクに使えないお前には出来ない芸当だ」
ハハハハッ! と魔術師達は笑う。
俺もニヤリ……と笑いつつ、目の前で吐き出し続ける火炎を見つめる。そう、俺はとあるマジックウェポンでひたすら炎を吐き出してるんだ。目の前のフリーズシールドの先にある炎が消えない事を不審に思う魔術師は、自慢のフリーズシールドが少しづつ溶け出している事に焦りを感じ出し、
「……? おい勇者魔王。何をしている? 何故火炎魔法がこんなに長く続くんだ?何かのアイテムでも使ったか?」
「このマジックウェポンは火炎放射器と言ってな。火炎放射器はいつまでも炎を出すのさ。俺の魔力が尽きるまでな」
完全に火炎放射器の終わらぬ悪意に翻弄される魔術師達は全身を震わせながら言葉を交わす。
「な! 何だと!? フ、フリーズシールドが溶けてるぞ?どうする?」
「どうするもこうするもねぇよ! 魔力全開でフリーズシールドを展開させて、後衛の仲間の魔法で倒すしかないだろ!」
「安心しろ! 後衛のメンバーはすでに疾風魔法を詠唱してる。見えない刃で勇者魔王の首を飛ばしてやるさ……」
そして、最後の抵抗をする魔術師達は悲鳴と絶叫という抵抗のみをして火炎の中で倒れて行く。無言でトリガーを押し、火炎を放つ俺は火炎放射器でこの場の魔術師全てを焼き殺した。
そして、外の魔女はこんな感じで俺のゴミ袋ステルスをゲロったらしい。
※
すでにゴールドキャッスル正門で暴れていた魔女は、俺の託した拠点防衛用機動兵器・ブラックアンボビウムも破壊され、千近い黄色の制服の魔術師達に取り囲まれ白旗を上げていた。例えばの話じゃなくマジで白旗を上げてる所が憎らしい魔女だ。
「ちょ! タンマ! タンマ!ここに勇者魔王はいないって! この勇者魔王は新聞紙のフェイク人形よ。残念ながらここにいるのは美少女魔女だけです! 天晴れ!」
と、新聞紙の扇子で天晴れ! ポーズをして敵兵の攻撃を止めさせていたようだ……。
「あのアホ魔女!やってくれるじゃねーか! 今度会ったらド派手に散らしてやるぜ!」
そんなこんなで、魔女の敵兵釘付け作戦が失敗した事により、数多の魔術師と戦いつつ俺は死の商人・テンパの元へと駆ける。
魔女め……テンパの後は貴様を散らしてやるんだからな! 覚悟してろ!