*それぞれの感じ方
「絵理」
「青司か、どうした」
あてがわれているベッドルームに戻ると丁度、青司が尋ねてきた。
少年は、無言で見上げる少女をじっと見つめる。その瞳は、言い出す言葉を選んでいるようにも思えた。
「絵理はどう思う」
「ベリル殿の事か」
無言で頷かれ、絵理は視線を泳がせて思案した。
青司はこの国の事をある程度、知っている。
危険な部分を考えるとき、「自分が守らなければならない」という、気負いにも似た感情があるのだろう。
それ故に、部外者であるベリルを警戒しているのは解るが、いささか過剰であるとも思えた。
あの、独特の探れないエメラルドの瞳がそうさせるのだろうか。
「私は、ベリル殿は信用出来ると思う」
それに青司は苦い表情を浮かべた。
「青司は何が気に入らないのだ」
「何もかもだよ」
傭兵は慈善事業じゃないんだ、手当たり次第に人助けをするなんてあり得ない。
「本人も自身は特殊だと申しておった」
「会いに行ったのか?」
青司の目が険しくなる。
「知るにはそれが一番であろう」
「どうして俺か陣を連れて行かなかった。1人で行くなんて」
語気を荒げ、悔しげに視線を外した。
「すまぬ。一対一で話したかったのだ」
素直に謝罪する絵理に溜息を吐きつつ、何事も無かった事に安堵して優しく抱きしめる。
「絵理に何かあったら、俺は生きていけない」
それは青司をよく知る絵理にとって、とても重たい言葉だ。
最愛の妹を亡くし、その哀しみは幾ばくか計り知れない。彼にとっては、最も心の通じ合った血縁だったのだ。
絵理は目を閉じ、青司の腕の温もりを噛みしめた。
「何をしているんですか?」
リビングでウイスキーを傾けているベリルに陣が尋ねる。
ソファに腰掛け静かにグラスを傾けている青年は、間接照明で神秘性を増しているようで若干の近寄りがたさを感じた。
「今後について考えていた」
陣を一瞥し、リビングテーブルに乗せられているモバイルパソコンを見下ろす。
足を組む仕草が様になっているが、やはり傭兵というイメージとはほど遠い。
「空港に向かうんですよね?」
「相手が黙っているかどうかだな」
少し低くなった青年の声に眉を寄せた。
「やっぱり、止めに来ますかね」
「そう考えるのが妥当だろう」
それを聞きながら隣に腰を落とす。
「なんだね」
確認するように眺める陣に視線を合わせず、険のない物言いで尋ねた。
「銃とか沢山持ってるのかなと」
「青司にでも聞いたか」
帰ってきた言葉に驚きつつも目を細くした。
「相手のことはよく調べるんですか?」
「ある程度はね」
何も知らないのでは守れない事もある……彼がそう言えば、なんとなく納得してしまうのだから不思議だ。
軍に所属している者が青司の親戚にいて、そこから容易に想像が付く。
「オレたちにはそれが出来ない」
あなたのことを調べたくても、今のオレたちにはそれが出来ない。
多少、探るような眼差しで発すると、ベリルはそれに小さく笑みを浮かべた。
「何を言った処で信用には値しないと思うがね」
結局は受け止める側の意識でしかない。
「じゃあ、どうするんです?」
「行動で示す他はない」
「それは、まあそうでしょうけど」
だからって、何も言わないのも問題な気がするんだけどな。
「私は元々、あまり会話は得意ではなくてね」
陣の考えを読み取ったのか、付け加えるように口を開いた。
「そんな風には感じませんけど」
「それならそれで良い」
言って、ブランデーを取りにキッチンに立ち上がる。
今までで一番解りにくい相手だな……と、その背中を見つめながら考えた。
大抵の人間には、その人の触れてはならない心の部分、「NGワード」が存在する。これの無い人間はほぼいないと言っていいと思う。
しかし、このベリルという人にはそれが見あたらない。隠すのが上手いのか、本当に無いのか──それすらも計りかね、陣は複雑な表情を浮かべた。





