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エメラルド・ナイト~守護者たちの饗宴~  作者: 河野 る宇
◆第4章~その人物についてのいち考察
10/20

*振られたダイス

 朝──陣たちがリビングに向かうと、ベリルはすでに起きていて簡易キッチンに立っていた。

「おはよう」

「あ、おはようございます」

 小さく笑みを浮かべて発したベリルに、陣はぺこりと軽く頭を下げた。

 どうやら、朝食の準備をしているようだが、これでは傭兵というよりも母親かお手伝いさんだ。

 やっぱりこの人は傭兵の中でも特殊なんだろうな……と3人は妙な納得をした。

「ルームサービスではないのか」

 絵理は少し驚いて発した。

「そればかりではつまらんだろう」

 気分転換も兼ねているので気にするな。と、レタスをボウルに盛りつけながら応えた。

 手際よく調理していたベリルの手がふいに止まり、バックポケットから携帯端末を取り出した。

「ベリルだ──そうか、すまんが頼む」

 通話を切って思案するように宙を見つめる。

 しばらく思案して、手にしていた端末からどこかにかけ始めた。

「うむ、明日は雨だが傘は必要ない。代わりに握手を──ハイアットペントハウス」

 何かの暗号だろうか、よく解らない言葉を並べて通話を切った。

「明日って晴れだよな」

 陣は、解る部分の英語だけをようやく理解して小首をかしげる。

「ばーか」

 青司は呆れて目を据わらせた。

 部屋にいい匂いが立ちこめて、3人はダイニングテーブルの席に着く。

「食べていてくれ」

 そう発したベリルは、リビングに向かった。

 ソファに腰掛け、モバイルパソコンをいじっているようだ。

「また、食べない……」

 陣はぼそりと口の中でつぶやいた。

 オレたちのいない所で食べているのかな?

 目の前のハムエッグにフォークを立て、ベリルの背中を見やった。

「うむ、あっさりとした中に塩とコショウが上手い具合に利いておる。サラダのドレッシングも手作りか? 酸味がなかなか良いな」

 朝食でここまで頷ける人間も少ない気がするけど、確かに美味いと思う。

 向かいの絵理に呆れつつ、陣は納得しながら朝食を口に運んだ。



 する事もないので、3人はゆっくり時間をかけて食事を済ませた。

「ああ、片付けくらいはオレたちがします」

 食べ終わった事を確認したベリルが立ち上がったので、陣が制止した。

「そうか」

 再びソファに腰掛けようとしたとき、ドアベルが鳴る。

 それを待っていたのか、ベリルは躊躇いもなくドアに向かい、ドアの前で数秒ほど無言で立つとドアを開いた。

「まったく、休暇じゃなかったのかい?」

 老年の女性が、ぶつくさと大きなキャリーカートをきながら入ってきた。ダイニングにいる3人を一瞥し、リビングで立ち止まる。

「あんたが休暇を潰すのはいつものことだけどね」

 よっこいせ……とカートを倒してしゃがみ込み、バクンと開いた。

「ライフル類は持ってこなかったよ」

「それで良い」

 発して、片膝をつき中身を確認していく。

「ライフルって……もしかしてあの中身、武器?」

「武器商人のようだな」

 おおよそ別世界のような光景に、青司の言葉を漠然と捉えて呆然とした。

 ケースの中には、ハンドガンとナイフ、弾薬カートリッジがひしめくように詰め込まれている。

 それらをじっくりと眺めて、ケースからいくつか武器を手に取りテーブルに乗せていく。

「9ミリパラ弾は2ケースでいいのかい」

「うむ」

 立ち上がったベリルは、薄い長財布からカードを取り出して老女に差し出した。

 女性はそれに手に乗るサイズの機械を取り出し、差し出されたカードを滑らせる。

「それじゃ、成功を祈るよ」

「すまんな」

 玄関まで見送り、LEDテレビのそばに置いてあるギターケースを持ち上げた。

「冷蔵庫のカスタードプティングがそろそろ良いだろう。食べていてくれ」

 ダイニングにいる3人に発すると、持っているケースをリビングテーブルに乗せて開き、購入した武器を確認しながら詰めていく。

 そんな後ろ姿に絵理はゆっくりと近づいた。

 あとに続こうとした青司を止め、視線だけを一度こちらに向けて作業を続けるベリルを無言で見下ろす。

「一つ訊きたい。私が危うい時はどうすれば良いと思う」

「私かその2人かを盾にすれば良い」

「それが正しいと思っての言葉か」

「正しいかどうかは問題ではないよ」

 側にいて守れなかった彼らの痛みはいかほどか察しはつく。

「ぬ」

 その言葉に、絵理は後ろの2人を意識した。

「皆がお前を守るために全力を尽くす」

 ならば、お前のすべき事は見えているはずだ。

躊躇ためらえばそれだけ危機に陥る。瞬時に判断し、決断する時を見誤ってはならない」

 それを全て求める訳ではない。

「己のために誰かが傷つくのを嫌うのは解らんでも無いがね」

 柔らかく応え、武器を詰め終わったケースを閉じた。

「ベリル・レジデント殿」

 立ち上がった青年の名を呼び、その瞳を見つめて捉える。

「改めてそなたを雇いたい」

「!? 絵理?」

 驚いた青司が慌てて駆け寄った。

「そなたの言い値を出そう」

「何を考えているんだ?」

「なるほど、上手く考えた」

 ベリルは口角を吊り上げる。

「どうだ? 悪い話ではなかろう」

 小さな体からは不安など一切、見せず傭兵に堂々と口を開いた。

「上手い……」

 様子を見ていた陣は、ぼそりとつぶやいた。

 相手が傭兵なら、それ相応に扱えばいい。もし誰かに雇われているのだとすれば、相手よりも高い報酬を提示すればこちらに引き込める。

 それなりに渡り歩いてきたであろう相手に少女が臆することなく交渉を持ちかけている姿は、なんとも勇ましい。

「いいだろう」

 ベリルは、一度も目を逸らさない絵理を見下ろして応えた。

 それに青司は驚いて2人を交互に見やる。

「契約書は作成しておく、荷物をまとめてくれ」

「了解した」

「絵理!」

 呼び止める青司の声に、絵理はちらりと視線を送って部屋に向かった。

「あれが最良の方法だろ」

 陣は、戸惑う青司の肩にポンと手を置く。

「そうだといいけどな」

 悔しげに発し、自らも荷物をまとめに向かった。

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