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*強行突破

 昼近く──これから空港に向かうのだが、リビングに集まった3人は若干の驚きを表情に浮かばせた。

 黒のゆったりしたストレッチパンツに厚手の白い前開きの半袖シャツを着ているベリルに唖然する。

「あの、大丈夫なんですか?」

 肩にはショルダーホルスターと呼ばれる収納ケースを、両太ももにはレッグホルスターという収納ケースをそれぞれに装着している。

 これから戦いにでも行くような姿だ。

 これには、さすがの青司も呆れて言葉が出なかった。

 この格好で外に出れば、いかにアメリカといえど確実に通報されるだろう。

「何がだ」

 しれっと応え、長い薄手のコートを羽織る。

「ああ……それ着るからですか」

 びっくりした。

 陣は胸をなで下ろした。

 それにしたって……と、陣はベリルを眺める。

 初めの印象と、かなり変わってきているように思えた。

 なんていうのか、本性が出てきてるというか、ぶっちゃけ始めたというのか? よくは解らないが、どうもクールなだけの人という訳ではなさそうである。



 それからチェックアウトを済ませ、オレンジレッドのピックアップトラックに乗り込んだ。

 よくよく考えれば、この車も彼の見た目とは少し不釣り合いな気がしないでもない。

 やはり傭兵なのだと納得せざるを得ない部分が、たぶんに存在していた。

 運転席に乗り込んだベリルは、コートを脱いでエンジンを起動させた──相手は確実に止めに来ると踏んでいるようだが、果たしてそうなんだろうか。

「何もなければそれで良い」とは言っていたが、準備が半端無い。

 相手の数を考慮し、万全の態勢を取ったのだと理解はしていても、慣れない世界に思考がいまひとつしっかりついていかない。

 しかし、ふと思えば彼は電話のあとに行動しなかっただろうか──?

「あの」

「なんだ」

 険のない物言いで陣に聞き返す。

「誰からの電話だったんです?」

 ベリルは「よくも思い出した」というように口角をやや吊り上げ、肩をすくめた。

「情報を提供してくれる組織からね」

 俗称で「情報屋」と呼ばれているらしいが、そこから気にかかる情報を得たらしい。

「少々、厄介な相手が向こう側についた」

 それだけしか説明してくれなかったが、その相手がいつどこに現れるかは不明とのことだ。

「空港までにいくつか閑散とした場所がある」

 仕掛けてくるならそこだろう……無表情な声色の中にも、どこかしら緊張感を漂わせている。

「何かあっても車からは出るな」

 そう言われても、と陣は窓から車を見やる。

 あまり頑丈には見えない車から「絶対に出るな」という指示を受けても、それにはいささか従う気にはなれない。

「指示には従え」

 考えを読まれたのか、淡々とした言葉が返ってくる。

「私に守らせたければそうする事だ」

 おかしな物言いだが、もっともな言い分に無言で頷いた。



 しばらく走らせていると──

「!」

 前を見ていた陣の目に車が数台、横向きに並んでいるのが見えた。

 片側4車線の広い道路を目一杯に通せんぼしている。

「マジか」

 まさか本当に仕掛けてくるとは思わなかった。

 ベリルはシートベルトを緩めてコートを羽織り、ゆっくりと車を止める。

 せき止めている車の周囲にいる影は、どれも一様にお世辞にも行儀良い者たちには見えない。

「キーはかけておけ」

 車から降りつつ陣に指示を出す。

 陣は無言で頷き、後部座席から身を乗り出して鍵をかけた。

 そうして、遠巻きにピックアップトラックを眺めていた影たちは、青年が降りてきたのを確認し40代ほどの男とその部下らしき男が近づいた。

 背広を着た恰幅の良い男は、若いベリルに鼻を鳴らし顎で車を示す。

「女を渡せ」

 男の隣に立っている20代後半ほどの男は、いつでも攻撃出来るのだと知らしめるように懐に手を突っ込んでいる。

 ベリルはそれらを無言で一瞥していき、最後に眼前の男を捉えた。

「従う気はない」

「そうか」

 言ってすぐ、ポケットに忍ばせていたハンドガンをベリルに向けて引鉄ひきがねを引いた。

 軽い音と共に胸に当たりベリルが倒れ込む。

「!? マジか!?」

 あれだけ言ってて、いともあっさり──!? いや、死んでしまったのはお悔やみするけど。

 陣はこれからの事をどうしようかと思考を必死に巡らせていた。

「引きずり出せ」

 再び顎で部下に指示を出すと、男はハンドガンを手にして車に歩み寄った。

 ピクリとも動かないベリルの横を通り過ぎる。

 次の瞬間──男はガクンと激しい痛みと共につっぷした。

「なっ!?」

 それと同時に、起き上がったベリルに背広の男は驚いて目を丸くする。

「うえっ!? 生きてる?」

 陣たちも驚き、倒れている男を踏みつけにしている姿を凝視した。

「防弾ベストでも着ていたのか」

 青司がつぶやいた。

「貴様!」

 それを見た1人の男が駆け寄ると、ベリルは素早く何かを投げつけ、男が叫びを上げて立ち止まった。

 その腕には、銀に輝くナイフが深々と突き刺さっている。

 周囲にいた男たちが一斉にハンドガンやライフルを構えたが、ベリルは左手でハンドガンを抜くと、目の前の男に銃口を向けた。

「!? やめろっ、撃つな!」

 引き気味に発し両腕を肩まで上げる。

「子供相手に情けないとは思わんかね」

 薄く笑みを浮かべ、未だ足の下にいる男を力を込めて黙らせた。

「貴様、何者だ」

「知ってどうする」

 どのみち、狙うのはアメリカにいる間だけだ、日本に向かってしまえば諦めるだろうにとつぶやく。

 確かに、日本まで追いかけるほどのメリットは無い。

 躊躇う男に若干の睨みを利かせ、ベリルは車に足を向ける。

 それを見た陣は鍵を開け、乗り込んでエンジンを起動させた。

 男たちだけでなく、車内の陣たちもあっけにとられた。

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