*そのうちのひとり
陣たちと別れた絵理は、ベリルのいるベッドルームに向かった。
ルームとはいっても、そこにドアは無く、入り組むように配置されて通常は見えないようになっている。
「たのもう」
古めかしく口を開き、遠慮無く足を踏み入れた。
「なんだ」
突然の訪問に驚きつつ応える。
着替えの最中らしく、上半身は裸だった。
「どうした」
ぴたりと動きを止めた絵理に眉をひそめる。
「ぬ、すまぬ。ローマ彫刻のような美しさに見とれてしまった」
洗練されて引き締まった筋肉は程よく盛り上がり、無駄がまるでない。人の体とは、これほどまでに美しいラインを描けるものなのかと感嘆する。
美術館に置いていても、違和感なく眺められそうだ。
「そうか」
いちいち言い回しが古めかしくて、ベリルは口角を吊り上げる。
自身もジジ臭いとはよく言われるが、ここまでではない。
「何の用だね」
聞き返し、着替えを続けた。
よく見ると、ベッドの上には拳銃が革の収納ケース──ホルスターに3丁ほどが投げ置かれていた。
種類までは解らないが、そのうちの1つはリボルバー銃だというくらいは理解出来る。
オートマティックとどう違うのかまではさすがに解らない。
まず腰の後ろに2丁のハンドガンを装着し、黒の半袖シャツを着込む。密着するタイプのとても薄そうな素材だが、丈夫そうに感じられた。
さらには、左脇に1丁を装着し半袖の前開きシャツを羽織る。足首までは確認出来ないが、青司の言った通りの武装だ。
手際よく済ませると、ベッドに腰掛けて絵理の言葉を待った。
「青司がそなたに疑念を抱くのは、至当だと思うのだ」
ベリルは絵理の言葉に若干、眉をひそめ笑みを浮かべた。
「元々、世話焼きなのだよ」
16歳の少女の口から至当などという言葉が出てくるのには、苦笑いを浮かべる他はない。
「私は傭兵というものを知らぬ」
つぶやくように発すると、側にある椅子に腰掛けるように促され、絵理は素直に従った。
「同じに考えるのは危険だろうね」
足を組み、静かに応えたベリルを怪訝な表情で見やった。
「私は特殊だといえる」
傭兵は本来、雇われて動く兵士だ。
そこにはただビジネスが存在し、自ら動くという事はほとんどない。
ベリルはフリーの傭兵だが、多くの情報網を有している。
そのため常に、何かしらの情報が流れてくるのだ。
「休暇中は控えてもらえるが、切迫した情報は気になってね」
「もしや、休暇中に聞き及んだのか」
「そうでなければ別の者をよこしていた。デマならそれで良い」
「そなたと我らに面識は無いだろうに」
「知り合いでなければ気を揉んではならんのかね」
そう言われてしまえば何も言えない。
「それだけの余裕が私にあったと思えば良い」
柔らかに応えられるが何を考えているのか、その瞳の奥までは覗かせてはもらえなかった──
まだ納得出来ないといった少女の背中を見送りつつ、ベリルは小さく溜息を漏らす。
それぞれに個性的な者たちだが、彼はそもそも少年や少女の扱いには慣れていない。
ひとまず、度胸だけは据わっているという事は確認出来た。
さて、どこまで伏せていられるかだ……小さく唸り、武器の手入れを始めた。





