*さながらに
「どうするのだ」
「解らない。警察が来るまで粘れるか……」
こんな時にも冷静でいられる絵理と青司に半ば呆れつつ、こんなドラマみたいな展開はお断りだと心に泣きが入る。
青司はアメリカに住んでいたから、多少の免疫があるのかもしれない。
絵理は絵理で財閥の令嬢という立場に、それなりの度胸を持っている。何もないのは陣だけだ。
いや、オレだって多少の度胸は持ち合わせているつもりだ。しかし、これはどう見ても無理。
あれから5分は経っているが、警察が現れる気配は1ミリも感じられない。
万事休すか!?
「持っていろ」
「え?」
聞き慣れない声に視線を上げると、見知らぬ影が120㎝ほどの大きな縦長の四角いケースを陣の腕に落とした。
「うわっ!?」
慌てて力を込める。
エレキギターを入れるケースだろうか、質の良い肌触りに気持ちを落ち着けるも突然、現れた影に再び目を向けた。
この間わずか数秒程度だが、その影はオートマティック拳銃を何も盾にせず堂々と構えて引鉄を引いていた。
あまりの唐突な登場に、3人はその人物を眺めているしかなかった。
向こうに視線を移すと何人か当てられたらしく、姿が見えない。
「開けろ、中身には触れるな」
「あ、はい。!?」
指示されるままギターケースを開き、陣はギョッとした。
驚く間もなく、その人物は中身を手にして引鉄を引く──大きな音と細かなものが幾つもぶつかる音がして、陣たちは呆然とした。
相手は、ショットガンを使われてさすがに少々パニック状態に陥っている様子だ。
日本人ではなさそうな人物は、「ついてこい」とあごで示す。
金髪のショートヘアという事だけはかろうじて判断出来るが、それ以外を把握させてくれる状況ではなかった。
後を追うと路地裏に足を向けられて3人は若干、躊躇ったものの、ここにいても最悪な事に変わりはないと意識を切り替えた。
背中だけでは、その人物の事は細身で小柄だとしか解らない。
映画さながらの登場に泡を食ったが一体、何者なのだろうか?
よくよく考えると、路地裏まで誘い込まれている可能性だってある。
あのまま警察を待っていた方がまだ安全だったかもしれないと、陣は顔を青ざめた。
おそらく、青司も同じ気持ちなんだろう。背中に伝わる気配がやや、ピリピリしている。もし、この人物が敵なら2人で絵理を守らなければ。
狭い路地を抜けると突然、広い場所に出た──昼近い陽差しの眩しさに思わず目を細める。
どうやら駐車場らしく、目の前の背中はいくつか駐まっている車のオレンジレッドのピックアップトラックに向かっていた。
「待たれよ」
絵理の声に立ち止まる。
陣はそこでようやく気がついた。絵理は英語で呼び止めたが、この人物はそれまで日本語で話していた事に──
「助けてくれたのだな、かたじけない」
未だ振り向かない人物に歩み寄る。
陣も青司もそれに戸惑ったが、相手も警戒されている事に気がついているのだろうか、動きが緩慢だ。
先ほどの機敏な動きとのギャップで、おかしな感覚を覚える。絵理との身長差から、相手は174㎝くらいだと窺えた。
背後からでも解る上品な物腰に、どんな人物なのだろうと期待が膨らむ。
振り返り、見下ろす顔立ちに絵理は目が離せないでいた。
それは、息を呑むほど整った容姿に見事とも言える印象的なエメラルド色の瞳をした青年──思わず見とれてしまったが、壮麗さの中にある鋭さに青司と陣は我に返った。
「何か気になるか」
未だ見つめ続ける少女に、青年は眉をひそめる。
「ぬ、すまぬ。そなたがあまりに美しい故、つい見とれてしまった」
よく通る声は日本語で発し、絵理もそれに応える。
大抵は絵理の言葉遣いにまず何かしらの反応があってもいいはずなのに、その青年はさしたる関心を示さず陣たちを一瞥した。
「追っ手が近づいている」
そう言って車に促す。
「あんたが味方だという確証も無い」
青司は半ば睨み付けるように発し、陣はそれに冷や冷やした。彼の容姿も女性と間違われるほどだが、どうしてだか喧嘩腰の口調なのだ。
「私の仕事を増やしたいならそれでも構わんが」
相手も負けてない、というか無表情で返している。
「何をしておる。そなたらも早く乗れ」
口を開きかけた青司だったが、すでに乗り込んでいる絵理を見て唖然とした。
「やばそうだったらオレたちで守ればいいだけだろ」
陣は笑顔で青司の背中をポンと叩いた。
「そんな悠長な事を言ってられないのがアメリカなんだよ」
吐き捨てるように発して、絵理の隣に乗り込む。
大きめのピックアップトラックは、後部座席に3人でも充分なスペースがあり、青年が左の運転席に乗り込んでいる間にシートベルトを締めた。
青年は乗り込みつつシートベルトを締めてエンジンを起動させる。
ゆっくりと進む車が大通りにさしかかると、見覚えのある男たち数人がうろついていた。
まさか車に乗っているとは考えていないのだろう、横を通り過ぎてもまったく気がつかない。





