*走れ
次の日──およそ一週間を見込んでいる旅行だが、行き帰りを入れての日数のため絵理は朝から出かけようと支度を急いだ。
キングサイズのベットは、昨日の疲れをすっかり消し去ってくれた。
まだ若い彼ら3人には少々、贅沢なホテルとも思えるが、見知らぬ異国の地で安全を確保するための最善の措置だといえる。
青司と陣だけならまだしも、絵理がいるのだ。青司に至っては絵理の事を考えると、このホテルでも安心していない。
大事な婚約者なのだ、当然といえば当然ではある。
「行くぞ」
「そんなに急ぐなよ」
陣が呆れて口を開く。
何もかもが新鮮で楽しいのは解る。しかし、急いでもいい事は何もない。
「何を言う。朝の通勤風景を見逃してはならん」
「ああ……そういうこと」
なんとなく納得し、青司とともに絵理を挟んで外に出た。
清々しい朝にスーツを着込んだ人々が行き交う──テレビではよく見た風景が眼前に拡がり、絵理は目を細めた。
日本とは全体的に異なるサイズだが、朝は朝なのだと実感する。
これがド田舎だったらまた違っていたのかもしれないが、目的としてはこれで正しい。
「!」
そんな光景を見ていた陣がふと、こちらを見ている白人男性に気がついた。
日本人の子供が3人もいて珍しいのだろうか、なかなか視線を外さない。よく見ると、暗いスーツを着た男が4人ほどこちらを見ているではないか。
「おい、なんか変だ」
陣が発したと同時に青司も気がついた。
「走れ」
青司はつぶやいて絵理の背中を促す──男たちが向かってくる反対の方向に駆けると、それを見た数人がスーツの懐に手を突っ込んで歩みを速くした。
「おいっ、まさか撃ってきたりとかは無いよな!?」
走りながら青司に問いかける。
「ここは日本じゃない」
淡々と答えられた言葉に陣は冷や汗を垂らした。
そんな陣の耳に軽い破裂音が届き、足下のアスファルトに何かが弾かれる。
「撃ってきた!? マジかよ!」
「伏せて!」
近くに駐めてあった黄色いタクシーに身を隠す。
「警察は!?」
「ここは日本じゃないんだよ」
繰り返されて表情が引きつった。
来ないのか? 日本みたいにすぐは来ないってことなのか!?
そこかしこに歩いていた人々は、いつの間にか1人の姿も見えず浴びせられる銃弾に逃げる事も出来ない。





