*異国の地
目的は「文化の違いを知る」であるから、感心してくれるのは構わない。
しかし、テンション上がって挙動不審になるのは勘弁してほしい。
実質は住んでみない事には解らないのだが、観光でも充分に異国文化を感じる事の出来る場所も数多く存在する。
そのうちの1つは──
「そっちには行くな」
「え?」
スーパーを出て歩いていると、青司が手で脇道を示した。
「あっちは危険だ」
その言葉に2人は首をかしげた。
2人にはその道の違いがまったくわからない。だが、観光客は決して踏み入れてはならない場所というものがすぐそこに存在するのだ。
別の州に住んでいた青司だが、その危険な香りは絶対に見逃さない。
平和なようでいて、それはただの仮面に過ぎない。気を許せば牙を剥く、どこか油断のできない国──青司はそう認識している。
アメリカでの生活は、青司にとって苦痛でしかなかった。拭いようのない人種の壁は、いつでも青司を責め立てる。
そういう環境が悪かったと言えば簡単だが、そんなことで自分を慰めたくはない。
誰にも負けないようにしてきた、これからだってそうしていくつもりだ。
「青司、どうした?」
「!?」
絵理に呼ばれてハッとする。
いつの間にか思いにふけっていた。情けない、と表情を苦くして目を眇める。
「次はどこに行きたいですか?」
話題を変えるように2人に尋ねた。
「うむ、公共の施設にも行ってみたいと思うぞ」
「そうだな、どんな風に違うか見てみたいよ」
「それならどこがいいかな」
道の脇で思案すると、何やら絵理の視線がどこかに向いている。
その視線の先に目を移して青司は、
「ああ……」と、小さく声を上げた。そこにあったのは、ホットドッグを売っているワゴン。
黒人が無愛想に、無骨な手でそれを手際よく作っていた。
お腹が空いている訳ではないだろう。ただ興味があるというだけなのは、青司も陣も解っていた。
「買ってくるよ」
青司が発し、2人はその背中を見送った。
絵理にも、ある程度の英語力はあるものの、古めかしい日本語と同様に英語も古めかしいものがあるため、こういう場では遠慮してもらっている。
出来るだけ目立つ事は避けたいというのが主な理由だ。
陣は、やり取りしている青司を見つめ空を映すビル群の窓ガラスに目を移していく。
肌に伝わる空気は日本のそれとは違い、やはりどこかしらの拒絶心を感じさせる。住み慣れた場所ではないせいもあるだろう。
しかしそれでも時折、向けられる視線はあまり気持ちの良いものとは言えなかった。
これはどう考えても、異国の地という意識がそうさせている。
なんの感情もなく視線が合う事もあるというのに、それすらも何かしらの思いが込められているのだと錯覚してしまう。
「まったく」
戻ってきた青司が不機嫌な顔でつぶやいた。
「なんだ、また間違われたのか?」
呆れて陣は肩をすくめる。
中性的な整った顔立ちの青司は、よく女性と間違われる事があった。欧米人には日本人の顔の区別も難しいと思われるが、そのせいで余計に間違われているのかもしれない。
顔立ちが中性的だというだけで、その言動はしっかりと男である。にも関わらず、やはり顔で判断されるのは世の常だ。
食べながら歩くという事に、絵理はどこかしらの新鮮味を感じながら図書館に向かう。
緊張して入った図書館は日本とさしたる変わりはなく少々、拍子抜けだった2人だがその広さには感嘆した。
「土地が有り余ってるだけあって広いな」
「うむ、これだけあると読了にどれほどかかるのか」
陣の声に感心しつつ応えるが、若干の違和感ある返答に目を据わらせる。
「いや、誰も全部読まねえって」
「読んではみたいな」
陣は2人ほど本の虫ではないため、本の数と広さに驚きはすれど全て読みたいとは少しも思わない。
よく歩き回った一同はホテルに戻り、それぞれの部屋で着替えを済ませた。
着替え終わると2人は部屋を出て、絵理のいる部屋の扉をノックする。青司は絵理の婚約者といってもまだ若い、陣が同じ部屋にさせるほど甘くは無い。
もちろん、2人だって自分たちの年齢やその他もろもろは理解しているので、部屋が別れている事に文句を言うつもりはなかった。
3人は昼間に買ったお菓子を持ち寄って、夜のひとときを堪能した──





