*誰の記念
御剣 絵理、草薙 陣、叢雲 青司の3人はアメリカ合衆国のニューヨーク州に来ていた。
陣の大学入学を記念しての旅行だったはずだが、ニューヨークと決めたのは青司である。
当初、青司の住んでいたデラウェア州に行きたいと絵理が提案したのだが、青司にはあまりいい思い出がないのか、青司が嫌がった。
御剣 絵理──御剣財閥、現当主である御剣 兼定の娘だ。
まさに可憐な花というに相応しい16歳の乙女である。
肩ほどの黒髪は、少女の性格を物語るように切りそろえられていて、美しい艶を帯びていた。
「ここがアメリカのニューヨークという所か。うむ、やはり日本とは異なる文化だ」
口調に若干の違和感を覚えるが、財閥の娘だと思えばなんとなく納得はいくだろう。
叢雲 青司──その風貌は一見すると、中性的な面持ちの美形。しかし中身は外見と違い、舐めてかかると痛い目に遭う。
やや日本人離れした面持ちにモデル並みの体型は、黒髪ショートヘアの長身美女と間違われてもおかしくはない。
絵理と同じ16歳で、陣にはとても悔しいかな、絵里と青司は婚約関係にある。陣とは一時、絵理を奪い合った仲だが、今ではこの状態が落ち着いている。
草薙 陣──絵理の専属執事。茶色がかったミディアムショートは、彼の整った顔立ちをより良く映えさせている。
現在、未だバイト執事。大学を卒業したのちに正式な執事として雇われる予定だ。
という訳で、18歳になり大学入学を無事に果たした陣を祝うべく計画された旅行のはずが、どうしてか絵理の異国文化を知る旅行にすり替わっていた。
「皆、どっしりとした体格をしているのだな」
「そこはもうぶっちゃけ、デブが多いって言ってもいいんじゃないの」
絵理のオブラートに包んだ物言いに多少呆れつつ、陣が発する。
青司がそれに、ハスキーな声で返した。
「解ってないな。率の多い方優先だ」
つまりデブの方が多いって言いたいのか……冗談なのか皮肉なのか、たぶん両方だ。と、陣は眉を寄せて小さく溜息を吐き出した。
そうして、ゆっくりと見渡す──欧米人に抱いていた印象と青司から聞いていた言葉の通り、みんなデカイ。横だけじゃなくて縦にもデカイ。
高いビルと人混み、色んな人々が行き交う中で、どこかしら地味に伝わるのは人種の壁だ。
日本はせいぜい「英語で話しかけられたらどうしよう」という焦り程度だが、ここでは何か暗黙の了解よろしくな雰囲気がある。
いくらアメリカで住んでいた青司がいるとはいえ、やはり3人で歩くのは緊張する。
ボディガードを付ける予定もあったのだが、それでは意味がないと絵理が断った。
一番、必要とされる人間が断るって、意味がわからない……陣は思ったが、強面の男が周りにいたら逆に狙われるかもと今更ながらに考えた。
日本人(アジア系)は幼く見られがちだと聞いているが、オレたちも年齢より低く見られているのだろうか?
それにしても、大陸だけあって何もかもが大きくて広い気がした。
ニューヨーク州──アメリカ合衆国大西洋岸中部にあり、本土アメリカ合衆国では、北東部地域に位置する州である。
州都はオールバニ市だが、3人はニューヨーク市に来ている。日陰は多少の肌寒さを感じるが、3月のニューヨーク市は温室効果ガスの影響も相まって比較的温かい。
「おお!? これは牛乳か?」
大きいスーパーに足を踏み入れた絵理は、ガロンサイズの牛乳に目を丸くする。
「棚が高ぇ……」
身長178㎝の陣は頭上の品を見上げた。
そんな2人の様子を、さしたる関心もなく青司は見つめていた。しかし、これ以上の好奇心はここにいる人々に返って不信感を抱かれかねない。
青司はその前に2人を制止するべく、様子を窺っているのだ。





