*刃の先-やいばのさき-
ミュゼフはベリルの手を振り解こうとするが、がっちりとハンドガンを掴まれていて顔をしかめた。
小さく舌打ちをして左手にナイフを持つ。
ベリルがそれを見逃すはずもなく、男の手を一瞥すると素早くしゃがみ込み足払いをかました。
「うっ!?」
体勢を整える暇もなく倒れ込む。
転がった男に膝をお見舞いしようとしたベリルだが、一歩遅くグイと姿勢をずらし畳に膝を打ち付ける。
今度はベリルがそれに舌打ちをして2人は同時に立ち上がり睨み合った。
「彼らを傷つけたとして、その後の自身を想像出来るはずだ」
「──っだからどうした」
再度、突きつけられる言葉に男は眉を寄せた。
本来なら殺してしまえばそれで終わりだ。しかし、相手は不死である。その怒りを冷ます事なく常にミュゼフを追い続けるだろう。
「捕らえてしまえばなんでもない」
不敵に言い放ちベリルに負けじと視線を鋭くした。
「不死の相手をどうやって捕まえる気なんだあいつ」
「あ」
眉を寄せてつぶやいた青司の言葉に陣がふと思い出す。
「確か麻酔は効くとか言ってた」
「ぬ、それではあやつ……」
絵理が危惧した通り、3人が顔を向けると男の手には先ほどとは違う形状のハンドガンが握られていた。
武器の種類など解らない陣と絵理だが、ベリルに対抗するものだという事は理解できた。
数メートルの距離に互いがいる。この距離で外れることはほぼ無い。
しかし、
「!? なっ──」
男が引鉄を引きベリルの姿を追うその目には、エメラルドの輝きが閃光のように自分に迫ってくる光景だった。
引鉄を絞る様子で判断して避けたのか!? 動くのが早ければ銃口はその動きに合わせて麻酔が放たれていたし、遅ければもちろん麻酔はベリルに命中していた。
ギリギリまで待つとは、なんという判断力と素早い動きだ!
「……っう」
驚くミュゼフの鼻先に銀色に輝くアーミーナイフの切っ先が突きつけられる。
「まだやるかね」
冷たく無表情な瞳にゾクリとし、肩まで両手を挙げて銃を落とした。
手足を拘束され、畳の上にへたり込んでいる男をベリルと陣たちは見下ろす。
「どうするんです?」
腕を組んで青司が尋ねた。
「さてね」
思案するようにベリルは発し、奪った武器を詰め込んでいるバックパックを肩にかけ直す。
相手は素人じゃない、そう簡単に口を割るとも思えなかった。
「こちらは陽動も兼ねていたのでね。そろそろ連絡が来るだろう」
ベリルの言葉のすぐあと、パンツのバックボケットが震えた。小刻みに着信を知らせる端末を取り出し耳に当てる。
「ベリルだ──うむ、そうか。すまんな」
通話を切ったあと、また数秒ほど震えて届いたメールを確認する。
「絵理」
「うむ」
「上屋 宗平という人物に心当たりは」
「ぬ、上屋? 以前、パーティに出席した時にいた記憶がある」
確か貿易関係の会社を持っていた。
「父上はあまり好まないタイプの人物だったため、私が受け継ぐまでに関係を切ろうと考えていると聞いた」
「それを何げに悟られたか、御剣財閥の失墜を謀ったか」
「うぬ」
ベリルの言葉に眉を寄せる。
「そちらは私の方から兼定氏に報告しておこう」
「頼まれてくれるか」
「私の説明はそちらで頼む」
「心得た」
そんな2人の会話を陣と青司は食い入るように見つめていた。
どこの時代劇なんだ──いまは一体、何時代なんだろうかと考えさせられてしまう絵理とベリルの口調に、2人の口元にはじわりと笑みが浮かんでいた。
「彼についてはこちらに一任してもらいたい」
「うむ」
頷いた絵理に端末を取り出し、どこかにかけ始める。
──1時間ほどして、
「ちーっす! お邪魔します」
「よう、お前も色々と大変だねぇ」
「とりあえず確保出来たな」
「お疲れさーん」
見知らぬ男たちが口々にベリルと言葉を交わし、ミュゼフを連れて去っていった。
「そなたには助けられた。かたじけない」
「こちらもそれなりの報酬は頂いている」
発しながら、外していた装備を装着していく。
「そなたは──いや、良い」
突いて出かけた言葉を飲み込んだ。
「あえて尋ねるものでもないな」
そんな絵理にベリルは優しく微笑んだ。





