*一転、攻防戦
「え、夜に?」と陣が応える。
ベリルは3人を集めてこれからの事を説明した。
「侵入口は裏口からやや離れた場所だろう。囮を数人ほど目立つ方法で侵入させ近づく計画だと推測している」
「我々はどこにいればよいのだ」
「居間にでも」
発して人差し指を下に向ける。
「カタがつくまでなるべく動かないで欲しい」
それに皮肉を言おうとした青司だが、前回の事が脳裏を過ぎり押し黙った。陣をそれを見つめ、険しい表情を浮かべる。
今までは、なんだかんだで楽しかったけれど──絵理が狙われている事実が消えていた訳じゃない。
のどかな雰囲気は一転して緊張感を漂わせ、陣たちに覆い被さってきた。
「例の装備はしないんですか?」
青司の声にハッとする。
少年が言っているのはアメリカでの武装の事だろう、ようやく見つけた皮肉なようだ。
「捕まるのは勘弁したい」
「そうではなかろう」
笑って応えたベリルに絵理は静かに割り込んだ。
「武器を持たぬのは、我々の誰かが傷を負う事を避けるため。そうであろう?」
青司と陣はその言葉に絵理とベリルを交互に見やった。
ベリルはよくも解ったというように一度、瞼を閉じて口元に笑みを浮かべる。
「奴からの攻撃に備えなければならん」
私の攻撃をも考慮するのは面倒なのでね。
一方に集中するために飛び道具を持たない戦法に青司は眉を寄せた。それは、自らは傷を負う覚悟を持つという事だ。
さすがの青司もここまでくると、どう皮肉を並べていいものか解らない。本当はベリルを信じたい気持ちはある。
だが、やはり他人を信用出来ない心が先に立ってしまう。それほどに彼は虐げられてきたのかもしれない。
別の場所──屋敷の敷地内で黒い影がうごめいていた。こういった屋敷は床下が広く空いている。
「……」
影は周囲の気配を探り、床下へと身をかがめる。
数歩ゆっくりと踏み入ったとき、クシャリと何かを踏みつぶした音がして視線を降ろすと、そこには潰れた生卵……。
どうやら踏みつぶしてしまったらしく、男だと思われる影は眉をひそめた。そもそもどうしてこんな処に生卵があるのかが解らない。
若干、気分を害したが侵入を続けるべく床下を進んでいく。
すると今度は妙なものを踏んだようで、再び足下を見やる──そこにはケチャップの水たまり。
「……っ」
男はますます困惑してしばらく思案するように動かなかった。
居間──
「あまり食べ物は粗末にしたくないのだがね」
「え?」
ぼそりとつぶやいたベリルに陣は首をかしげた。
「なんでもない」
発して視線を外す。
効果的なブービートラップの設置には慎重を来す、とりわけこういう場所でのトラップにベリルは何を選んだか……。
ブービートラップとは、booby。つまり「まぬけ罠」という言葉から、油断した相手がひっかかるような簡単な罠の事だ。
アレにかかるであろう男にベリルは口の端を吊り上げた。体に害はなくとも、精神的にはかなりの負担を強いられる事になるだろう。
「……」
陣はとぼけたベリルの横顔をじっと見つめる。
執事の佐伯からベリルが頼んでいたものを聞いていたのだが、タイミング的に見ても罠に使うものだという事は予想出来た。
しかし、あれを罠に使おうという考えが凄い。
ただ置くだけじゃあ意味がないのは彼から聞いて理解はしている。ということは、あれらを適切な位置に設置しているという事だ。
あんな罠にかかったらオレなら凹みまくるかもしれないし、罠を張った相手に怒り狂うかもしれない。





