*これからのこと
飛行機は安定し、一同はベルトを緩めた。
「陣」
「はい」
前のシートにいるベリルが軽く指で陣を呼ぶ。
2人がけシートの窓側に移動し、陣は通路側のシートに腰を落とした。
「お前は彼らの中で唯一、柔軟に考えられる人間だ」
おもむろに発せられた言葉に若干、驚いてベリルを見つめた。
「もし私に何かあったとしても、救助などは考慮してはならない」
「え!?」
「本来、雇った者を気に懸ける必要はないのだが、彼女においてそれは通用しないだろう」
「あ!」
ベリルの言葉で絵理を一瞥する。
確かに、彼女なら「助けに行く」と言いかねない。
お嬢様であるにも関わらず、相手を大切にする。
いや、しすぎる時がある。
俺たちの性格までこの短時間で見抜いたベリルに、やはり疑問を覚えない。
傭兵とはこういうものなのだろうかと考えるが、自分は特殊な例だろうとたしなめられた。
「でも、青司が止めると思いますよ」
ベリルはその言葉に陣を一瞥し、小さく溜息を吐く。
「だろうね。私は彼に嫌われているようだ」
さして気にも留めていないような口調で、むしろ少しの笑みが口角から見て取れる。
「先入観での判断は危険を伴う」
だからお前に頼むのだ。
ベリルは静かに言い放った。
「あの」
「なんだ」
「ベリルさんはアメリカ人ですか?」
「いいや、ヨーロッパ圏だよ」
随分と広くみつもったな、どこの国の人間かは言いたくないのだろうか。
こちらも無理に訊く事はしないけど今更、、人種で打ち解けるほどには青司の頭は柔らかくもないだろうと友を思い遣った。
誰だって、この怪しさ爆発な人物に信頼を置くのは難しい気がする。
なのに、何故だろう──独特の穏やかな雰囲気に心は安心している。
エメラルドは癒しの色だ。
国によっては悪魔の色ともされているし、緑は「身を取る」という言葉からくるイメージで日本でも敬遠されていた過去がある。
そのせいで戦隊の緑は人気がなくて総数は少ないという……。いや、それはどうでもいいんだけど。
「でも、どうしてそんな話を?」
疑問に思ってふと、思い出す。
「もしかして、言ってた事に関係してます?」
厄介な相手が向こう側についたって……。
ベリルはそれに、携帯端末を操作して画面を示した。
「ミュゼフ・ロフナー。ナイト・ウォーカーだ」
そこには、40代だと思われるガタイの良い男が映し出されていた。
栗色の髪とくぼんだ茶色い目には、何か得体の知れない闇が潜んでいるようにも感じられる。
「ナイト・ウォーカー?」
「我々の間では盗賊という意味合いを持つ」
やや苦い表情を浮かべる、この人が表情を少し崩すほどには厄介だと窺えた。
しかし、どうしてか彼の物言いには違和感があった。
この人は「救助」と言った、殺されるのではなく捕まる事が大前提のように……。
「──っ」
「ベリル」
それを尋ねようとしたとき、呼ばれて立ち上がる。
陣は、一緒に搭乗してきた男の1人となにやら話し合っている姿を眺めつつ、日本に到着してからどうするんだろうと考えた。
当然だとは思うが、ベリルは絵理の家に一時的に住む事になるだろう。
むしろそうしないと意味がない、青司の反応が怖いけど。
絵理がベリルさんを雇うと言い出したとき青司はおそらく、そのことまで考えたのかもしれない。
いつかこの2人が打ち解け合う日が来るのだろうか?
いやベリルさんの方は別に警戒してる訳ではないけど、歩み寄ろうともしないんだよな。
自然の流れに任せている感はあるけれども、それで上手くいくのだろうか。
陣の心配をよそに、飛行機は日本に向かって飛んでいく。
彼らに待ち受ける危険をベリルは防ぎきれるのだろうか──!?





