属性変化と統承への影響
「……ずいぶんと、楽しそうでいらっしゃいますわね」
ため息をつきながら入ってきたのはアウローラである。
「レイネシア様を大鷲館までお送りしてきました。ですが、ひとまず今日はこちらにいていただけますか。……ウィルフォード様も、少々動揺されているようですので」
「……そうよね」
「あの、ローラはどこまで聞きました?」
アウローラが眉根を寄せる。
「レイネシア様が、ウィルフォード様を天の医師に診せることに反対していること。……レイネシア様は、ウィルフォード様の属性が天属性に変わったと判断していた、というところまでです」
「アウローラ殿は、知らなかったの?」
「知りませんでした。統承二位の属性が消えた、それだけで、隠さねばならない重要事項と思っていましたし」
そう言って、アウローラは唇を噛む。ふう、とヒルデガルドがため息をつく。
「これは私の想像だけど、ファビアン殿もご存じないのではないかしらね。……いえ、気付いていないことになっているというか」
「どういうことですか?」
フィルが首を傾げると、ヒルデガルドは肩をすくめた。
「天属性の子を届けずに匿うというのが、天神殿にとってどういう扱いになるのかわからないけど。もしそれを神殿から咎められたとき、ファビアン殿に類が及んでは困るもの。今、統承持ちは一人きりでしょう?」
アウローラがうつむいた。
「……アウローラ殿。あなたはそろそろ身を引いたほうがいいんじゃないかしら。今ならまだ、ウィルがレイネシア様を呼んだのでその取次をした、というだけだわ。……この先は領主殿と、下手すると天の不興を買うわよ」
フィルはハッと息を飲んだ。ヴァレリスと、恐らくセイレアも承知の上で隠していること。それにファビアンが気付いてないことになっている、というのは、次代の領主がこの問題から距離を置いたほうがいいという判断だろう。それはアウローラにも言えることのはず。不用意に巻き込むわけには――。
「いいえ」
はっきりと、アウローラは言った。
「私は、知ってしまいましたもの。それに、ウィルフォード様をこのままにしておくわけにはいきません。時期を見計らう必要はあるにしても、ちゃんと天のお方に診ていただかなくては」
「でも、トゥーレに連れて行かれちゃうって……」
フィルの戸惑いに、アウローラが首を振る。
「私は、ウィルフォード様の健康状態が心配なのです。天属性として生まれた赤ん坊が天神殿に行くのは、健康上の問題があるからです。今、ウィルフォード様はお元気ですが、それでもこの先に何があるかわからない。……それに、魔術が使えないまま風領の片隅で隠されて生きていくことを、ウィルフォード様が望むとも思えません」
「領主様方の意向は? あなたは次代の領主夫人でしょう?」
ヒルデガルドの問いに、アウローラは深いため息をついた。
「どちらにしろ、ウィルフォード様が統承を外れる事になれば、ファビアン様には早急に子を持つことが求められます。……恐らく、私ではなく成人している風の純属性の女性が領主夫人になるでしょう」
「はぁ!?」
フィルは思わず声を上げた。
「え、いまさら!? それに、ちょうどいい歳の頃の令嬢がいないって!」
「ファビアン様は今年で十八ですもの。十くらい上の方でも子を持つには間に合います。……なんなら、既にお子を一人くらい持たれている方でもいいわけですし」
「よくないです、絶対!ローラは五歳の時から婚約してるんですよね!?」
「まあこればっかりはね……」
「ヒルデまで!」
「風領には領主の属性を継ぐ統承が必要ですもの。……仕方ありません。巡り合わせによっては、私が成人後に改めて第二夫人として迎えられる可能性はありますが」
「統承って、そんなに大事なんですか!?」
アウローラとヒルデガルドが一斉にフィルを見た。
「大事よ?」
「必要なことです」
二人の様子に、フィルは気圧される。
まるで、朝になれば日が昇るのは当然とでもいうような、その様子に。
「……それでアウローラ殿は、ウィルの健康とご自身の婚約解消を天秤にかけて、ウィルの健康をとってくれると?」
「当たり前でしょう。私だって、ウィルフォード様とは将来の義姉弟として仲良くさせて頂いてました。そもそも、ファビアン様の弟を蔑ろにして、どんな顔であの方の隣に立てというのです」
「ふうん」
ヒルデガルドが意味ありげに笑う。
「なんですか」
「人を野蛮扱いするいけ好かないお義姉様と思っていたけど。思ったより根性が据わっていたのね。見直したわ」
「あなたはやっぱり上から目線のいけ好かない方だわ」
ふん、とアウローラがそっぽを向く。
「まあ、ウィルの人徳よね。さすが私の婚約者」
「そこで惚気なんですか……」
どうにか立て直したフィルがぼやけば、ヒルデガルドが首を傾げた。
「最悪、私がウィルを火領に連れて行けばいいのではないかと思ったのだけど」
即座にアウローラが噛み付いた。
「なんでそうなるんです!?」
「火領と風領の婚約は果たされるし、風の属性がなくても火領なら目立たないし」
「風領の統承はどうにもなっていないでしょう!」
「……あの、それなんですが」
おずおずとフィルは挙手をする。
「とりあえず、天氏族の意見を聞くのはどうでしょうか。ウィル様の状態が本当に天属性なのか、その場合トゥーレに連れて行かれちゃうのか、健康に影響が出る可能性があるのか」
「レイネシア様の反対で、それが難しいということでしょう?」
ヒルデガルドが首を傾げ、アウローラがハッと気付いた顔になる。
フィルは軽く微笑んだ。
「わからないことをいろいろ教えてくれる天氏族の教師に、あてがありまして」
さて、次にエルンが来るのはいつだったろうか。
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