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泥ガニ取りの反省会

「という感じで、泥ガニ退治に誘って泥だらけにしてみたんですが」

「……」

「とても楽しそうでした」

「……そう」


 館に帰った後の反省会である。アウローラは沈痛な顔で額を押さえている。


「まあ予想の範囲内ですよね」

「ダメじゃない」

「そうなんですよ、まさか泥ガニを勧めても怒らないとは」

「は?」

「火領にもいるそうです、似たようなカニ」

「勧めたって、あなた……」

「火領のよりあっさりしてるけど美味しいわねって」

「食べたの!?」

「食べました。一応私も食べたし、他の子たちも食べてるところで勧めたんですが」


 毒味ということで、と続ければアウローラは顔を覆ったままうずくまってしまった。


「あの、ローラ?」


 大丈夫ですか、と尋ねれば、アウローラがガバリと顔を上げる。


「なんなのあの女!」

「ちょっとローラ」


 さすがに言葉が……とたしなめようとするが、アウローラは止まらない。


「到着予定前に馬で婚約者の館に乗り付けて? 歓迎の宴では図々しく隣に居座ろうとして? 視察で護衛を振り切って、買い食いをして?」

「そこからです?」

「あげく泥まみれになって泥ガニを追いかけて、焼いて食べる?」

「焼いたのはヒルデじゃないですけど」

「どこが領主の姫なのよ!」

「とは言いましても……文化の違いというか……」


 お母さまもお姉さまも魔害駆除に行かれるそうですし、とフィルはつぶやく。アウローラが深々とため息をつく。


「そんな乱暴者はちょっと、って断ったらだめなの?」

「それで許されるなら、多分私はここに呼ばれてないですよね」


 そもそも風領から断ることが無理だから、と苦肉の策の影武者だったはずだ。それでなくても火領の文化を乱暴などと言ったら間違いなく怒らせる。

 わかってるわよ、とアウローラが天井を仰いだ。


「勝手に火の魔術を使って暴れたとかいうならともかく……泥ガニの駆除範囲で、適切な威力の魔術を使って、子どもたちに混ざって……これで文句をつけたら難癖よね。しかもウィル様が連れていってるのに」

「……まあ、無難には過ごせたんじゃないでしょうか」

「……無難?」


 地を這うような声がした。

 フィルと合流してからずっと、ヒルデガルドの謝罪を受ける時もヴァレリスに帰還の報告をする時も、ずっと言葉少なにしていたセリウスである。


「領都視察で火領の姫がうちの若様連れてって、お二人とも見失った状態で半日過ごしたのが無難?」

「……すみません」


 思わず謝った。


「まあただ、火領の侍女の方は途中で合流しましたし、セリウスにも知らせてくれるようにお願いはしたんですが」


 というか、風領からは護衛はつけてなかったのだろうか。いくらヒルデガルドが計画的かつ混乱を見計らったとはいえ、あんまりあっさり撒かれすぎではないだろうか。

 

「うちの護衛計画についてはもちろん反省点ですし、油断があったのは間違いないんですが。……そもそも火領の武力に、他の領では対抗できません」

「そんな、あっさりと」

「火領っていうのはそういう領なんです。四領の中で唯一、公に対人武術の指導を認められているんですから」

「……?」


 フィルは首を傾げた。対人ってどういうことだ。火領の武術は魔害駆除のためではないのか。

 セリウス、と静かにたしなめるシュナの声がした。


「……むこうの護衛の方も、ヒルデガルド様と共謀してらしたの?」


 アウローラが確認するように尋ね、セリウスがうなずいた。


「追いかけようとしたところを、不自然の一歩手前くらいの強引さで邪魔されたり、別方向に誘導されたりの連続で。……騒ぎが起きたのは偶然でしょうが、何かきっかけがあれば動けるように打ち合わせ済みだったでしょうね」

「……乗合馬車のところで待ってた侍女は、『本当に撒いてくるとは』って言ってました」

「ヒルデガルド様主導の計画ということに間違いはなさそうですが」


 セリウスがため息をつく。


「結局、『どうしてもウィルと二人きりの時間が持ちたかった』と言い訳をされてしまうと、こちらも苦情以上のことはできないんですよね」


――三十年前の二の舞にならないように、婚約者とちゃんと親交を深めたい。


 火領の持ち出す言い訳として、これ以上こちらに反論しようのないものもないだろう。


「……それで、親交は深まったんですの?」


 アウローラが諦め混じりに問うてくる。


「……」


 一瞬迷った。ヒルデガルドの話を、ここで伝えてもいいものだろうか。その様子を見たアウローラの目が細くなる。


「ウィル様。何かありましたわね?」

「……」


 アウローラが首を傾げた。


「何がありましたの?」


 そっと視線を外す。外したのだが、アウローラがにっこりと笑みを浮かべたのが見なくてもわかった。


「フィル?」


 とても優しい声だった。子どもがいたずらをごまかそうとしているのをすべてお見通しの上で、今白状すれば許してやるぞと圧力をかける母の声音のようであった。


「……ヒルデから聞いたんですが」

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