31話 福兎鈴商会 2
妹の玲梛さんを交えたことで、私たちは再度自己紹介を行なった。
「アコアさんと晴家の皆さんって、どういうご関係なのか聞いても大丈夫ですか?ちょっと気になってまして」
「大丈夫ッスよ」
「ボクとアコアでパーティを組んでて、その縁からアコアが店に居着くようになったんよ。飯が美味いだとかで」
「焦がしジョーユっていう、香ばしい匂いにつられちゃったんスよ」
「なるほど、アコアさんのパーティメンバーでしたか」
「アコアって強そうじゃん?実際強いんだけど。ちゃんとパーティを組んだら、でら稼げると思って誘ったんよ」
「ウチとしても、安定して稼げるならパーティ自体も歓迎ッスからね。あと食費を渡せば料理してくれるっていうし」
「それを作るのはワタシなんですけどね…」
「いやぁ、ボクは料理作れないし」
「お姉ちゃんは無責任なんです…」
玲梛さんは肩を落としているが、本気で嫌がっているといった雰囲気はない。
「玲梛さんは冒険者じゃないんですか?」
「はい。お父ちゃんやお母ちゃんがお店にいない時もありますし、ワタシはお店に専念しているのです。まぁ冒険者とか性に合いませんし」
「お店を頑張ってるんですね」
「他にやりたいこともありませんし、成り行きですよ。恋白様のような立派なものではありません」
「私も最初は成り行きでしたよ?ただ、少女巫が階の一段になるって気付いたから、本気で挑み続けただけです」
「そうですか…」
玲梛さんは少し考え込んでしまう。
「まあとりあえず御幣餅を作って来ますから、お姉ちゃんは煙管ばっかり吹かしてないで、しっかりと店番をしてください」
「はーい」
「ウチは店の前でゆっくりしてるッス」
「それじゃあ私は御幣餅のお手伝いをしますね」
「恋白様はお客さんじゃないですか、待っててくれていいですよ?」
「料理の手間をかけてしまうんですから、手伝えることだけでも手伝いたいんです」
「では…厨房までどうぞ」
―――
私と玲梛さんで御幣餅を焼き終わる頃には、時刻はお昼時になっており、昼食として四人で食べることにした。
「とっても美味しいですっ!…そういえば、前の御揚寿司も玲梛さんが?」
「はい、そうです。お口に合いましたか?」
「じゅわっと煮汁の染みた御揚と、胡麻の混ぜ込まれたお米が最高でした」
「なら良かったです」
微笑みを浮かべた玲梛さんは、ついばむように御幣餅を食べている。
「コハクっち、これ美味しいッス。ショーユもいいッスけど、ミソを焼いても美味しいって気付いたッス」
「アコアさんにも良さが分かりますか!ここに胡桃を砕いて混ぜたりしても美味しいんですよ」
「バリエーションがあるんスね」
「はい」
アコアさんは健啖家のようで、ものすごい勢いで御幣餅を食べている。
ヒッポフォロスに迫るほどの体格だ、食事量も同じくらいなのだろう。
「恋白様って食材を買いに来たんだっけ?」
「はい、そうです。あっ、この御幣餅の代金もお支払いしますね」
「ここはお近づきの印ってことでボクが出しとくんで、お金は気にしなくていいよ。でら美味い御幣餅も食べれたことだし」
「お言葉に甘えさせてもらいますね、ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
そうだ、もう一つ目的があったんだ。
「実はお世話になっている宿屋の女将さんのために、出産祝いを用意したいと思っているんです。出産はおめでたいお祝いですが、すごく体力を使うと聞きますし、元気になれる料理をと考えている感じで」
「出産祝いかぁ」
「肉とかいいんじゃないッスか?」
「産後にお肉はどうなんでしょうか?その女将さんっていうのは…ヒッポフォロスの方ですか?」
「はい、そうです。おめでたいですし御赤飯なんかがいいかなって思っているんですけど」
「小豆と餅米ね。ちょっと在庫見とくる」
「お願い、お姉ちゃん」
星蘭さんはパタパタと奥へ走っていく。
「オセキハンってなんなんスか?」
「お豆とお米を一緒に炊いた、甘いご飯です。お塩をかけて食べると美味しいんですよ」
「デザートみたいな感じッスか?」
「いえ、主食の一つです」
「甘いのに?」
「はい。変ですかね?」
「よく考えたらあんま不思議じゃないッスね。甘酸っぱいソースとかも美味しいし」
ルーシッド・エデンで協力した時や、私たちの映像を見てもらった時と比べると、今のアコアさんは柔らかい印象を強く受ける。
どちらかといえば、このゆったりとしたアコアさんが本来の彼女なのだろう。
「あったよ、餅米と小豆。取り置き予約もないし、恋白様に売っても問題なさそう」
「そうですか。では恋白様、何人前ご用意いたしましょうか?レシピはサービスとしてお付けしますよ」
ジェルブ・ドールの全員分を作るのは無理そうだし、とりあえずは女将さんの分だけ用意しよう。
でもヒッポフォロスは一食の量が多いから、ちょっと多めに用意してもらおうかな。
「二人前を炊けるくらいで」
「かしこまりました。お姉ちゃん、準備をよろしく」
「はいよー」
御幣餅をお手伝いだけでいただいたから、懐に少し余裕がある。どうせなら福兎鈴商会で使って、利益にしてもらおうかな。
でも何を買おうか。
…あっ、そうだ。
「見繕ってほしいものがあるんですけど、いいですか?」
「はい、福兎鈴商会にあるものであれば、ワタシたちで用意いたしますよ」
要望を伝えると、星蘭さんと玲梛さんは顔を見合わせてから、あれこれと話し合いを始めるのであった。
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