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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
交錯する足々

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31話 福兎鈴商会 1

 湿気しめりけの森の出入り口小屋を見つけたので、私たちアローズは休日を挟むことになった。


 羽休めの休日。

 私は福兎鈴ふうりん商会に向かって、車道を走っている。

 パラデイソポリスでは手に入りにくい食材を購入して、故郷の味を楽しみたいという気持ちがある。

 それに加えて、ジェルブ・ドールの女将さんが最近、出産の予兆があるらしく、出産祝いを用意したいからだ。

 早ければ数日中に産まれるらしい。


 パラデイソポリスの道というのは、車道と歩道で分かれている。

 車道は、魔動力車や人力車、四足獣人テロフォロスが走る場所で、しっかりと分かれて快適に走れるのは素晴らしい取り組みだと思う。


 ただ意外だと思ったこともある。

 それは騎獣や駄獣、輓獣という生き物が、街に入ることを禁止されていた点だ。

 ジェルブ・ドールで聞いた話では、そういった生き物の糞害を防ぐためなのだとか。

 思い返せば、明蝉国で動物の糞を踏むことが少なからずあったので、糞が転がってないというのは快適なのかもしれない。


 そんなことを考えながら道を進んでいれば、福兎鈴商会に到着できた。


「あれ?」

「おー?コハクっちじゃないッスか、ここで会うなんて奇遇ッスね」


 福兎鈴商会の前の、四足獣人用の椅子でくつろいでいたのはアコアさんであった。


「こんにちは。アコアさんも福兎鈴商会にご用なんですか?」

「用事は特にないんスけど、休日の暇つぶしみたいなもんスね。メーゼンの食事は美味しいし」

「おぉ!アコアさんは明蝉国の食事が好きなんですねっ?」

「もしかしてコハクっちも?パラデイソポリスに来たばっかりだってのにグルメッスね」

「いえ、私の故郷は明蝉国なんですよ。だから故郷の品を扱ってる福兎鈴商会に足を運んだ感じです」

「おおっ!コハクっちもメーゼンの出身だったんスか、世の中は狭いッスね。…でも、この店に来るの二足種族ばかりッスけど、メーゼンには四足獣人もいるんスか?」

「はい。人鹿じんろっていう種族なんですよ」

「おぉ、知らなんだ。…おっと、買い物を邪魔しちゃいけないッスよね。セーラっちー、レーナっちー、いい感じのお客さんッスよー」


 椅子から起き上がったアコアさんは、普段とは違って脱力した感じで店内に入っていったので、私は後に続くことにした。


「おぉ、懐かしい感じがする」


 店内に並ぶ商品は、パラデイソポリスでは見られない明蝉国の調度品や飾り用の模造武器、あっちの衣服や装飾品なんかが多い。

 値段は運賃が高く乗っているようで、かなり高額な印象だ。

 そして、少し離れたところに食糧品が並んでいる。

 干し柿が美味しそうだ。


「いい感じのお客さん?」

「そう、知り合いのコハクっち。セーラっちたちと同郷みたいッス」

「同郷のコハクっていうと…少女巫おとめみこ恋白こはく様!?」


 店の奥から飛び出してきたのは、頭頂部のあたりから丸みがありながらも尖った大きな耳が特徴の狐人。

 髪は明るめの茶色で、瞳の色は…両目とも私と同じ濃い茶色なのだが、右の瞳に違和感を覚える。

 色が少しズレているような、そんな違和感だ。


 そういえば狐人は容姿の一部を変化させられる能力があるはず、なにか事情があるのだろう。


「はじめまして、榾火村の恋白です」

「はじめまして恋白様!ボクは福兎鈴のパラデイソポリス店を任されとるはる千里せんりの娘、晴星蘭(せいら)、よろしくね」

「晴千里さんの娘さんでしたか、よろしくお願いします」

「すっご。ルーシッドキャストで観るのと全然違う。でら可愛いわ。というかアコア、恋白様と知り合いだって、どって教えてくれなかったん?」

「セーラっちがコハクっちを推してるとか知らなかったッスよ。それに四足獣人は数がそこまで多くないから、だいたいの人は顔見知りッス」


 目の前までやってきた星蘭さんは、どこか甘い煙の匂いを漂わせている。


「セーラっち、裏で煙吸ってたんスか?ちょっと臭いッス」

「いつものと違って甘いのにしとるんだけど、まだ臭いん?」

「前のよりは…マシかもしれないッスね」

「あっ、すみません恋白様!本日はどんなご用で?」


 星蘭さんはアコアさんとの話を切り、居住まいを正してから私に向き直った。


「まとまったお金が入ったので、明蝉国の食べ物を食べたいなって思ったんです」

「恋白様は、なにか好きなものあるん?今食べたいものとか」

「そうですねぇ。御幣餅ごへいもちが食べたいです。粳米を半挽きくらいにしてから味噌や醤油を塗って焼いた食べ物なんですけど」

「あー、お祭りとか神事の際に食べるやつ!玲梛ー!玲梛ー!御幣餅作ってー!」

「お姉ちゃん煩ーい!なんで急に御幣餅なんて作らないといけないのよ」

「恋白様が食べたいんだって!玲梛なら作れるだら?」

「えー?誰だって?」

「恋白様よ、明蝉国で少女巫してた恋白様!」


 どたどたと店の奥から狐人の女性が姿を現し、私を見るなり耳をピンと立てて奥に引っ込んでしまった。


「ちょっと待っててください!ちょっと服を着替えてきますので!」

「えーっと、ごゆっくり…?」

「ウチもゴヘーモチってのを食べてみたいッス」


 なんだか、とっても賑やかなお店のようだ。

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