30話 決断 3
出入り口小屋を出発してから三時間ほど、私たちはエリアの境目まで辿り着いていた。
「見事に苔だらけだ」
「あまり見られない地形ですね。なんていう地形なんでしょうか?」
「お二人が知らないってことは、珍しい地形なんですね。ちょっとワクワクしてきましたっ」
「…アタシ的には、知ってる場所で、知ってるモンスターを相手にするほうがいいんだけどな」
「冒険心ですよ、冒険心っ!珍しいところなら、撮影しながら進みませんか?」
「いいですね。準備するので、少しお待ちを」
「はーい」
私が一足先に苔の森に足を踏み入れてみると、どうやら苔の層が厚いらしく、ふかふかとした踏み心地である。
それと同時に苔は水分を多く含んでいるようで、体重をかけると湿った感覚が足に伝わってきた。
「お二人とも苔の上を歩く時は気をつけてください。地面は一面が苔ですけど」
「なんでだ?」
「苔の層が厚くって水を含んでいるんです。勢いをつけると滑ってしまうかもしれません」
「なるほど」
「わぁ、湿ったクッションでも踏んでいるような感覚でしょうか?…ちょっと違いますね」
お二人が足元を確かめている間に、私は軽く歩き回ってみるのだが、苔の下層には目では判断がしにくく、倒木や岩が転がっているようで、場所ごとに踏み込む感覚が違う。
思った以上に大変そうな場所だ。
「苔の下に何があるかは一目で判別できませんから、常に足元に気を使ってくださいね」
「あいよ」
「承知しました。…よし、ファミリオグラフの準備は完了です。挨拶をして進みましょうか」
「はいっ。皆さんこんにちはっ、アローズです!今日は―――」
私たちは撮影をしながら苔の森を進む。
―――
足元に気をつけながら十五分ほど進むと、私たちの進行方向に大きめな人型の何かが佇んでいる。
それは岩と朽木、苔で構成された、少し不格好な人型の像だ。
「あれがモンスターですかね?」
「だろうな。ゴーレム系のモンスターだとは思うが、見たところ混合材だし、ちと面倒かもしれんな」
そういえば似たようなモンスターを、岩石丘陵エリアで見た気がする。
あのモンスターは、顔に空いた洞を攻撃したら倒せたが、今回の相手は顔を樹皮で覆っているようだ。
「とりあえず苔ゴーレムと呼びましょうか」
「んだな」
「コハクさんは、岩のエリアのゴーレムを倒しましたか?」
「はい、倒しましたよ。なんか顔の洞に矢を射ったら一撃で倒せましたけど」
「ゴーレム系モンスターは、顔の部分に弱点がありまして、そこを狙っていくのが定石なのですが」
「覆われちゃってますね」
「ここらのモンスターは一筋縄じゃいかないわな」
全体的に岩と樹木が組み合わさった形状だが、表面はところどころに苔が生えている。
だが特筆すべき点が一つり、それは腕だ。
丸々一本の朽木が両腕のように備わっており、攻撃に用いるには不便そうな見た目をしている。
「初戦だし、相手の攻撃を見定めながら確実に倒しに行くぞ」
「なら私が先行して囮になりますね、私のほうが動けますので」
「おう。こっちが狙われるようなら、アザレアと何とかするから、コハクは隙を見つけて攻撃にシフトしてくれ」
「わかりました。それでは行ってきますっ」
駆け出した私は、苔ゴーレムの頭に矢を射掛けてみる。
顔を覆う樹皮に弾かれるのは想定通りだ。そのまま相手の注意を引きながら、相手の攻撃を見極め―――。
「えっ?…うわぁあっ!?」
苔ゴーレムは筒状になった朽木の腕を私に向けると、その腕から岩石の球を発射しだしたのだ。
岩石丘陵エリアのゴーレムも岩を発射する魔法を使ってきたが、あの魔法とは弾速が違う。
私を狙った岩弾は近くの木に直撃すると、幹に穴を空けて貫通していった。
…威力も段違いのようだ。
「なんか強そうですっ!お二人も気をつけてください!」
「わかってる!」
「はい!」
今の攻撃は右腕からの射出。左腕も似たような形状ということは、二連続で撃てたり、二箇所を同時に狙える可能性がある。
前者はともかく、後者で私とお二人を同時に狙われたら厄介だ。
まずは同時に狙えないように位置取りをしていこう。
弾速こそ速いものの、本体の動きは機敏ではないようだ。
苔ゴーレムを挟んで、お二人とは反対の位置を陣取った私は、弱点がないかと探ってみるも、洞のような部分は見つけられない。
無機物な印象を受けるモンスターだが、心臓はあるのだろうか。
私は足を一旦止め、啄鎧矢の準備だけをしてみるが、心臓の鼓動は感じ取れず、中断してから走り出す。
苔ゴーレムは私に狙いを定めて、両腕から一発ずつの岩弾を射出した。
一発は上半身を屈めて回避したのだが、もう一発は足元の苔に着弾し、跳ねた苔と朽木が私に襲いかかる。
顔にかかった苔などを振り払い、苔ゴーレムの方へと視線を戻せば、次の攻撃が飛んできた。
まずは加速移動。無理やりに距離を稼いで、余裕を持った状態で岩弾を避け切り、次の一発が放たれた瞬間にウッドピラーで身体を押し上げ、空中に逃げる。
苔ゴーレムの戦い方は大まかに理解できた。…なら次はこっちが攻める番だ。
ぐちゃりと苔を踏み潰して着地した私は、苔ゴーレムの方へと回頭し、真っ直ぐに距離を詰めていく。
途中、岩弾を射出されたものの、間を縫うように避けきれた私は、苔ゴーレムの懐に入り込み、前足を高く上げて後ろ足だけで立ち上がる。
「『ウッドピラー』!!」
上半身を反るようにして発動したウッドピラーは、私に向かって斜めに伸びていくのだが、その過程には苔ゴーレムの脚部がある。
ウッドピラーは苔ゴーレムの膝裏に命中し、その強烈な勢いによって、仰向けに倒れていった。
「今です!」
「はいっ!『ロックフォール』!」
「『ファルベッケンシュトース』!!」
仰向けに倒れた苔ゴーレムの顔には、アザレアさんによって柱状に生成されたロックフォールが落下。
その上からノクサラさんが追撃をして、頭部を破壊しきったのだ。
苔ゴーレムが消滅する中、私は後ろ宙返りをするほどの勢いがなかったため、水を含んだ苔に倒れ込み、ベチャベチャになってしまった。
―――
「モソリトゥス、三分割されて二三四スコアか」
「基本スコアは七〇〇みたいですね。ちょっと苦労しますが、戦うだけの価値のある相手でしょうか」
「私は悪くないと思いますよ」
「だな」
苔ゴーレムは、モソリトゥスという名前だったらしい。
お二人が冒険者証明書を確認している間、私は身体に張り付いた苔を落としていく。
「私たちで倒せない相手ではありませんし、このままモソリトゥスを倒しながら、出入り口小屋を探しちゃいましょうか」
私たちは三時間ほど苔の森を冒険し、出入り口小屋を見つけることができた。
ちなみにここは『湿気の森エリア』というらしい。
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