30話 決断 2
アタシ、ノクサラは、アーケイン・パネルを確認しながら森を歩くコハクを見つめる。
稼げる時に稼いで、撮影できる時に撮影してれば、今のまま、どこのクランに所属しなくても、ある程度の地位には登れる気がする。
ただやっぱり、ヒートヘイズの映像がトップテン入りを果たせなかったことを考えると、後押ししてくれる看板や、本業の編集者は欲しい。…もっというなら、撮影をできる人材はもう一人くらいいてもいいと思う。
そうするには、どこかに所属するか、アローズで人員を雇う必要が出てくるが、後者は厳しいだろう。
クランを設立というのも、今の状態じゃ現実的とは言えない。
コハクは遠回りでもいいと言ってくれたが、スフル・デュ・クラージュが声をかけてくれた今が絶好の機会だ。
一度蹴ってしまえば、二度目は難しい。
そういう意味じゃ、コハクのスタンスはちょっと変わってるな。
自分を落としたクランに関わりが深い宿屋に泊まって、値段が安いからって毎日手伝いをしている。
『ヴァン・フェールに加わるのは無理だが、アローズというパーティは拾いたい』なんて言われて、嫌味の一つもなくちゃんと検討しているんだから、変な奴だ。
…まぁ、だからこそコハクを含めて、コハクの作ったパーティを欲しがっているし、ヒッポフォロスコミュニティの一員として認められているんだろうが。
スフル・デュ・クラージュに思うところがあるわけじゃない。
ただ、後援資本がブレオンヌ帝国一本だから、いざという時には契約を切られる可能性がある。
ブレオンヌ帝国自体は安定しているが、周辺との摩擦なんていつ起こるかわからない。
そうなった際に放り出されたアローズを、それ以前の水準に戻すのが大変になっちまう。
ヒッポフォロスの連中は嫌いじゃない。あいつらはいいやつだ。
アタシの戦い方やら、シュタール家の娘なのに、とかは言ってこないだろう。
シュトラーレンゾンネから出ていたことも。
上を目指すための切符を、アローズのために掴むべきなんだろうか。
まあ、アタシ一人で悩んでたって、考えは頭の中を回るだけだ。
…ここ数日、ずっとそうだった。
「なあ」
「なんですか?」
「なんでしょう?」
「アタシは…今のコハクみたいにスターに憧れてる時期があったし、祖父さんや親父みたいになりたいってなら、今でも思ってる。ただ、あの二人と同じことはできないし、それをとやかく言う外野の言葉も気になる」
双剣の冒険者。その道はもう、アタシにはない。
「クラージュのことで悩んでるのは、帝国と周辺国の関係とか、帝国資本一本のこととか、そういう理由もあるけど、やっぱ根底にあるのは…アタシがノクサラ・シュタールであることだ」
シュタール家なんて恵まれた環境に産まれたのに、と言うやつもいるだろうが、今のアタシにとっちゃ重石に他ならない。
この気持ちを、コハクに理解してほしいなんて言わないが、無理やりにでも舵をきってほしいと、アタシは思った。
「別にどれくらい時間がかかっても構いませんし、必要ならいくらでもお話を聞きますし、一緒に考えて決めましょう。せっかく遠回りをするって決めたんですから」
「…。」
知っていた。
コハクは誰かを引っ張っていく力のあるやつだ。けど、誰かの舵を操ろうとは、決してしないだろう。
だからこそ、これを決めるのはアタシじゃなくっちゃいけないんだ。
「それに、このお話をしてから数日しか経っていませんよ?ゆっくり決めたらいいじゃないですか。クラン所属に関しては、長く悩んでもいいと許可もらっておきましたので」
「だがエキシビションマッチは期限があるだろ」
「期限までに決めきれなかったら、お断りってことで」
折角の機会をそんな風に棒に振れるのかよ。
もっと悔しそうにしてくれりゃ、アタシも我慢して頷けるんだけどな。
「挑む…挑むよ、シュトラーレンゾンネに。…心置きなくアローズを名乗れるようにな」
コハクは目を丸くしてから、満面の笑みを浮かべる。
それは今まで見た何よりも綺麗で、アタシの心に焼き付いてしまうようだった。
―――
私、恋白は、ノクサラさんの言葉を聞いて、胸の奥底から嬉しく思った。
いつもお世話になってるスフル・デュ・クラージュの皆さんを、直接お手伝いできる機会を得られたことに。
そして、アローズとしてエキシビションマッチに参加できることに。
正直なところ、ノクサラさんには悪いと思っていた。
彼女とシュトラーレンゾンネに確執があることは知っていて、そのうえで提案したのだから。
フロランさんから提案された時に、断ってしまうこともできた。
けれどアローズにされた提案だ。私の一存で断ってしまうのは、ノクサラさんとアザレアさんに不義理だと思ったのだ。
「でも、いいんですか?私としては嬉しいんですけど」
「どこかで決着をつけないといけないことだ。なら予定が決まってる方が、逃げちまう隙がなくっていい」
ノクサラさんの銀の瞳をジッと見つめると、自分を偽っているような雰囲気や、嘘をついているような感じはしない。
本心だというのなら、止める理由はないだろう。
あっ、目を逸らされてしまった。
「アザレアさんは問題ないんですよね?」
「はい。人と戦ったことはありませんが、最低限は役に立てると思います」
「それじゃあ決まりですねっ!私たちアローズは、スフル・デュ・クラージュの助っ人として、エキシビションマッチに参加しますっ!」
「はーい」
「お、おう」
ノクサラさんとアザレアさんに手を差し伸べると、優しい手つきで手を取ってくれた。
今期はとっても忙しくなるかもしれないけど、とっても楽しそうだ。
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