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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
パラデイソポリスの迷い鹿

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4話 『銀眼』

 私恋白(こはく)が街の車道を走っていると、魔導具店の店先に撮影用の魔導具が飾られているのが見えた。

 徐々に速度を落としていき、その場に立ち止まる。

 クランやパーティに属さなくても、ライバーになることは可能だけど、それはかなりの遠回り。…やっぱりスターを目指すなら、しっかりとしたクランに属したい。


 それでも、撮影用の魔導具の使い方を学ぶには、自分で触れていった方がいいのだろうか。


「あっ!!『銀眼ぎんがん』のシュタール!!」


 少しばかり色褪せたポスターには、五〇歳くらいの男がニヒルな笑みを見せている。

 私が見た映像だと三〇歳後半くらいだったけど、年を重ねても曇らないカッコよさがある。

 記録映像があれば見てみたい…見てみたいけど、蓄えが減っていくだけの状況では、お金を無駄には使えない。


「えへへ、年を重ねた『銀眼』のシュタールは、渋くてかっこいいなぁ…」


 自然と尻尾が揺れる。

 『銀眼』のシュタールは私のスターだけど、全然詳しくないんだよね。

 彼の映像も、郷守さともり様が用意してくれたのを数回鑑賞した程度だし、パラデイソポリスは遠すぎて情報を得ることができなかった。


 今は何歳で、まだ存命なのだろう?

 そして、この街にはまだいるのかな?


 パラデイソポリスに来てからは、ずっとクランの面接に挑んでいて調べる余裕がなかったし、時間があったら調べてみよう。


 古いポスターだけど、譲ってもらえないかな。


「くっだらねえ…なぁにが『銀眼』のシュタールだよ」


 私がポスターを眺めていると、非難めいた声が投げつけられた。

 すこし苛立つ。


 声の方へと身体を向けると、ボサボサな黒髪を揺らして歩く、長身のアントロポスの女性が近寄ってきている。


「何か文句でもあるんですか?」

「別に、文句なんてねえよ?…ただなぁ、二〇年も前に引退したロートルなんかに、価値もねえの」

「引退しているとしても、だからってスターの煌めきは色褪せませんよ。『銀眼』のシュタールは私にとって憧れのスター冒険者で、私の目指す道なんですから」


 女性は苛立たしそうに目を細め、口元を歪めている。

 何が気に食わないんだろう。


「……うざ。枯れ専の馬ガキが」

「言い返せないからって種族差別ですか。よくないですよ、そういうの。別に気に食わないってなら―――」

「うるせえんだよ、馬風情!!街の外で荷車でも引いてろよ!!」

「っ!」


 大声を出した女性は一歩踏み込み、私の胸倉を掴んで身体を持ち上げようとする。


 そう、持ち上げようとするのだが、私はエラフォロスであり下半身が鹿だ。

 普段は四足で支えている身体を持ち上げようとすると、前方に重心が動いてしまう。


「ちょっと、そんな持ち上げ方されたら、わっ!?」

「何が、お前!アタシに体重をかけんじゃ―――」


 倒れてしまわないように前足を動かした私だが、その足が女性の腹部を押すような形になってしまい、胸倉を掴まれたまま女性と倒れてしまった。


「痛ってぇなぁ…」

「…服から手を離してもらえますか?」

「あぁ…」


 真っ昼間からお酒を楽しんでいるのか、女性の身体には強いお酒の臭いが染み付いており、その刺激が私の鼻を突き刺した。


「うわ、酒臭ぁ…」

「うるせぇよ馬、つうかアタシの胸から手を離せ」

「あ、ごめんなさい」


 転んだ拍子に、酔っ払いの胸に手を置いてしまったみたいだ。

 …よく引き締まった身体だ、ちょっと羨ましい。


 蹄で踏みつけないよう気をつけながら立ち上がり、酔っ払いに手を差し伸べてみると、彼女の瞳は綺麗な銀色で『銀眼』のシュタールみたいだ。

 それを言ったら酔っ払いは激怒しそうだから、心の土蔵にしまい込んでおく。


「…悪い、酔いが覚めた」

「そうですか。酔っ払いさん、貴女が『銀眼』のシュタールを嫌う理由があるように、私には彼を好きになる理由があるんです。…お互いに今回のことを忘れて、手打ちにしませんか?」

「………わかった。ごめんな、ヒッポフォロスの嬢ちゃん」

「私はエラフォロスっていう半人半鹿の種族で、もう成人しているんです」

「あー、マジですまん。…今日はもう酒をやめる、本当に悪かった」


 酔っ払いさんはボサボサの黒髪を掻きながら、叱られた犬のような表情を露わにした。

 酒は適量、忘れないようにしよう。


「それじゃあ私は帰ります。お酒はほどほどにしましょうね」

「…おう」


 最後に酔っ払いさんの銀色の瞳を一目見てから、私は車道を走り出す。

 とっても綺麗な、銀色の瞳だった。


―――


 アタシは、自分より頭一つ以上も小さいエラフォロスの女を見送って、街を歩き出そうとする。

 そんな折、地面に冒険者証明書が落ちていた。

 真新しく、ここ数日で作ったような証明書だ。


「コハク・ホタビノ、エラフォロス。…アイツのか」


 アイツ、冒険者だったのか。

 思うところはあるし、このまま投げ捨てたっていいはずだ。

 でもそれをしたら、アタシが負けてしまうような気がして、指を開くことができなかった。

 くそったれ。


 この辺りだと第六ゲートか。

 そろそろ、酒代も心許なくなってきたし、ルーシッド・エデンに潜るとするかな。


 歩き出した女性は、ノクサラ・シュタール。恋白が憧れる『銀眼』のシュタールの孫娘である。

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