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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん


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5話 ジェルブ・ドール

 私やヒッポフォロスのような第三類種族が暮らすキュクロリムニ区。そこで営業をしている宿屋『Gerbe d’Or(ジェルブ・ドール)』に到着した。


 もう最近は慣れてきたけど、この宿屋やヒッポフォロスの建物は、私からすると規格外に大きい。

 それもそのはずだ。

 ヒッポフォロスは半人半馬で、頭の天辺までの高さは二〇〇バシコン(200センチ)から二二〇バシコン(220センチ)ほど。

 最初はヒッポフォロスの子供、それもかなり幼い子だと思われており、入国証明書を見せるまでは迷子扱いされていたくらいだ。


「おかえり、ミセス・ピルグリム。果てのないフロンティアを彷徨った気分はいかがだったかな?」

「ただいま、アルセルさん。…そろそろミセス・ピルグリムはやめませんか?ちょっと恐れ多いといいますか」

「…素晴らしい愛称だと思うのだけどね。ではコハクさんと呼ばせてもらおうかな」


 宿の庭先で弦楽器の手入れを行っているヒッポフォロスの男性はアルセルさん。

 ヒッポフォロスのクラン『スフル・デュ・クラージュ』に属する先輩冒険者だ。


 もちろん私はスフル・デュ・クラージュの面接も受けた。

 だけれど、体格差から生まれる速度の違いや、体格が小さく子供っぽく見えてしまうことから、配信上での印象を理由に断られてしまった。


 それでも、拠点にしている宿屋を格安で紹介してくれたり、ヒッポフォロスのコミュニティに加えてもらったりと感謝することしきりだ。


「こんな時間に戻ってきてしまったということは、何か強敵とでも相対したのかい?」

「ペトロボアに負けちゃいました」

「…なるほど。の大猪は大山のような迫力を持つ剛の獣。コハクさんの短弓とはいささか相性が悪かろう。…一矢報いることはできたのかい?」

「はい、武技が使えるようになりまして、鎧を貫通することができました。ゲートの受付をしている方に話したら、代償のわりに効果が軽すぎるとかで、明日から調べてみようかなって思ってます」

「熱心な探求心には心打たれる。流石、ピルグリムといったところ。コハクさんの新たな一歩を祝して一曲奏でよう」

「ありがとうございます」


 アルセルさんは手入れを終えた弦楽器で、ヒッポフォロスの国であるブレオンヌ帝国の民謡を奏で始めた。

 明るげで楽しく、心の底から勇気と元気が湧き上がってくるような音楽だ。


―――


「ご清聴ありがとう」

「楽しげな音楽をありがとうございました」

「私は午睡でも楽しもうかな。コハクさんは、面接を受けたりルーシッド・エデンに潜ったりと忙しくしていたから、どこかでゆっくりとできる日を探したほうがいい」

「わかりました。それでは」

「じゃあね」


 アルセルさんは楽器をケースに収めてから、庭の芝生に横たわり気持ちよさそうにお昼寝を始めたので、私は宿に入る。


「おかえりなさい、コハクちゃん」

「ただいま、女将さん。明日まで時間ができちゃったんで、宿のお手伝いをしたいんですけど、何かありますか?」

「あら、別に気を使ってくれなくていいのに」

「安く泊めさせてもらっていますし」

「ここはスフル・デュ・クラージュの拠点だから、同胞の冒険者は安く泊めるしきたりがあるのよ?」


 ヒッポフォロスの方々は私を同胞として扱ってくれる。

 故郷の明蝉国めいぜんのくににはヒッポフォロスはいなかったし、ヒッポフォロスの故郷であるブレオンヌ帝国にもエラフォロスはいない。

 それでも似たような姿をした種族ということで、親切にしてくれるんだからしっかり役に立ちたい。


「女将さんのお腹も大きくなってきましたし、大変そうじゃないですか。お手伝いしますよ」


 女将さんは身重だ。大変なことも多いと思う。


「ありがとうね、コハクちゃん。それじゃあ、ちょっとずつでいいから、倉庫から食材を持ってきてくれる?」

「わかりました」


 その後、私は夕方まで宿の手伝いをしていた。


―――


 夕食時になると、宿の食堂にはスフル・デュ・クラージュのパーティ『ヴァン・フェール』の第一から第三まで、合計十五人が集まって会議をしていた。


 ヴァン・フェール第一がライバー冒険者パーティで、第二第三が支援的な立ち位置なのだとか。


「エリア六〇付近で発見されたボス級『ワールドノーアー』の攻略を、明後日から数日がかりで執り行う。それに伴って、撮影を行うのだが、今回の相手は一筋縄ではいかない。観測した情報の共有を行うから、しっかりと頭に叩き込むように」

「了解」


 ヴァン・フェールの方々は真剣な眼差しで、壁に貼られていく情報を読み込んでおり、喧騒がない。

 いいなぁ、すごく…カッコいい。


 私がお皿の片付けがてら情報を眺めてみると、全長五〇バシス(50メートル)もある巨大なヘビが相手のようだ。

 一線級の冒険者になったら、そういうすごい相手とも渡り合うことになるんだろう。

 …私の弓矢は通用するのだろうか。


「コハクさんは宿のお手伝いかな?」

「はい、女将さんが大変そうなので」

「感心だ。身重の女性を手助けすることは、誉れ高い行動だ。私はミセス・ピルグリムを評価するよ」


 アルセルさんは私の持っていたお皿のいくつかを手に取り、一緒に運んでくれるみたいだ。


「コハクさんは、あのワールドノーアーというボスモンスターを見てどう感じた?」

「私にはほど遠い相手で、通用するかもわからない相手です。けれど…ああいった相手に挑めるようになりたいとも感じました」

「ふふっ、夢を追う旅人(ピルグリム)だね。コハクさんは今日、冒険者としての一歩を踏み出した。強き相手に出鼻をくじかれたかもしれないけれど、まだ心の柱は折れてない。追いつくのを待っているよ」

「はい、頑張ります!」


「……そういえば、昼間に武技の話をしたね」

「あっはい、しました」


 何かしら効果があるなら早めに知りたい。

 ルーシッド・エデンじゃないと使えないのがもどかしいね。


「近いうちに弓の武技を撮影してくるから、それを見せてあげよう。弓の種類は違うけれど、射掛けの同志としてのはなむけだ」

「いいんですか!?ありがとうございます!」

「私は第一じゃないから、映りはよくないかもしれないけどね」


 弓使いは少ないから、どういった武技があるのかを知れるのは、とても貴重な機会だ。


 アルセルさんはお皿を置くと、優雅に食堂へと戻っていった。

 食器洗いを終えた私は、少しばかりの疲労を感じながら、ヒッポフォロス用の大きなベッドで一日を終えた。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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