6話 啄鎧矢 1
翌日のお昼ごろ、私は大変なことに気がついた。
冒険者証明書がどこにもないのだ。
昨日は受け取った後に服のポケットに入れて、最後に取り出したのはスコアをお金に変換してもらうときだ。
就寝前に気がつくべきだったのだけど、気にしていなかった。
再発行はできると、アザレアさんが言っていたけど、こんな短期間で再発行をお願いするのは恥ずかしすぎる。
それに信用が失われてしまうという言葉も、ちょっと怖い。
今後のことを考えるのなら、見つけ出したほうがいいだろう。
「すみません女将さん、私の冒険者証明書って落ちてませんでした?」
「冒険者証明書?見かけてないし、預かってもいないわね。お手伝いの最中に落としてしまったの?」
「わかりません。食糧庫や厨房を見てもいいですか?」
「ええ、どうぞ。私の方でも探してみますね」
「ありがとうございますっ」
結局、私の冒険者証明書は見つからずじまいだった。
―――
昨日の帰り道にも落ちてなかったし、冒険者証明書は紛失。再発行をお願いすることになりそうだ。
気分の沈んだ私が重い足のまま第六ゲートのロビーに入ると、昨日の酔っ払いさんが歩いてくる。
「よ、よう。昨日は悪かったな」
「あっ、昨日の酔っ払いさん。冒険者なんですね」
「まあそこそこ。…いや、そうじゃなくて昨日さ、お前…じゃねえやホタビノの冒険者証明書を拾ったんだよ」
酔っ払いさんが私の冒険者証明書を取り出し、私に手渡してくれた。酔っ払いさんと倒れた衝撃で落としてしまったらしい。
「ありがとうございます。さっきまでずっと探していたんです」
「どうも。…まあ、証明書くらいいくらでも再発行できるんだが」
「一昨日に作ったばっかりで紛失なんて恥ずかしいじゃないですか」
「新しい証明書だとは思っていたが、めっちゃ新人なのな。…渡したしアタシは行く、じゃあな」
酔っ払いさんは踵を返して、乳白色の泉に向かおうとする。
「酔っ払いさん、ちょっといいですか?」
「酔っ払いさんって…。アタシはノクサラ……ただのノクサラだよ」
「じゃあノクサラさん。もしよかったらパーティを組みませんか?」
「アタシが、新米のお前と?」
「はい。こうして出会ったのも何かの縁かなって思いますし、ノクサラさんはとっても強そうなので」
『銀色の瞳が「銀眼」のシュタールみたいで』なんて言ったら、ノクサラさんの怒りを買ってしまうんだろうけど。
「……。」
ノクサラさんは胡乱な瞳で、矢筒や弓袋に視線を向けている。
やっぱり弓使いの私じゃ魅力はないのかな?
「アタシは…お前が憧れているようなカッコいい冒険者じゃねえよ」
銀色の瞳は、少し寂しそうな雰囲気で私を見下ろしている。ノクサラさんにもノクサラさんの悩みがあるのかもしれない。
「これから、カッコよくなりませんか?私はライバー冒険者のスターになることが目的なんです」
「ライバーねぇ…」
「ダメですか?」
「……ダメじゃねえけど、足手まといはお断りだ。今日一日様子を見て、使えなさそうならお終い。それでいいか?」
「はい、それでいいです!私のことはコハクって呼んでください、お前って呼ばれるのには慣れていなくって」
「はぁ…育ちがいいのな」
「遠くの国の山村育ちです」
「世間知らず、か。あんまし甘く見るなよ、アタシはそこそこに冒険者やってるんだ」
「期待してくださいね」
「…めんど」
脱力した雰囲気のノクサラさんは、自身の冒険者証明書を取り出して、裏側を私に見せる。
私も冒険者証明書を裏側にしたのだが、ノクサラさんは眉をひそめるだけ。どうやら不正解らしい。
「証明書を重ね合わせるとパーティが組めるんだ。ほんっとド素人なのな」
「冒険者歴は三日ですから」
「はいはい。…あと裏っ返しにする必要はない。アタシは…情報を見られたくないだけだ」
「じゃあ私は表にしますね、もう見られていますし」
冒険者証明書を表に返し、ノクサラさんのものと重ね合わせると、わずかな発光を見せただけ終わってしまった。
「これでいいんですか?」
「ああ」
「今日一日だけかもしれませんが、よろしくお願いしますね」
「じゃあ行くか。お前、いやコハクはどこからスタートできる?」
「いちばん最初です、エリア一でしょうか」
「とことん素人なこって…。まあ、ちょうどいいか、今期はアタシもルーシッド・エデンには潜ってない、アタシもエリア一のスタートだよ」
ノクサラさんは乳白色の泉に向かおうとするのだが、私は弓の準備ができていない。
待ってもらうと、ノクサラさんは面倒くさそうな視線を向けてきた。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




