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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん


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6話 啄鎧矢 2

 私は山林の斜面を駆け回り、次々とフェラルドッグを射抜いていく。

 得意な場所で弱い相手なら苦労することもない。


 戦闘には参加せず、私の後を追ってきていたノクサラさんは、なんとも微妙な表情をしており、なんとなく嫌な予感がする。


「コハクはライバー冒険者を目指してるんだろ?」

「はい、そうです」

「地味だな」

「…うっ!」

「実力は悪くねえんだけど、走り回って矢をピュンピュン射ってるだけじゃ面白みもなんにもねえの。…いや、一回だけなら受けるかもしれないが、ただそれだけ」

「クラン面接とかで言われました…」

「…クラン面接?昨日の今日で?」

「いえ、パラデイソポリスに来てから十五日間くらい。…二〇カ所くらい、ライバーパーティを運営しているクランに面接を受けました」

「プハッ!実績もなしで、弓一本のアピールで挑んだのか?!」

「笑わないでくださいよ。大きなクランに受かるのが、スターになる近道じゃないですか」

「そりゃそうだけど、くくくっ。…どれくらいかな、二〇年くらい?映像の配信の敷居が徐々に下がってきて、クラン自体も形を変えつつある。それこそ昔ってなら、実績なしでも受け入れてくれる場所はあったかもしれないが、今は難しい」

「そういう、ものなんですね」

「そうだ」

「ノクサラさんは、ライバー冒険者とかに詳しいんですか?」

「…別にそんなんじゃねえよ。常識だよ常識」


 ノクサラさんは、何かを隠したそうな雰囲気を醸し出している。

 余計な詮索はしたくないけど、知る機会は多くない。

 スフル・デュ・クラージュの方々は忙しそうだから、あんまり迷惑をかけられない。…ノクサラさんに聞けるなら聞きたい。


「どれくらいの常識だったら、教えてもらえますか?」

「そんなになりたいのかよ」

「気を悪くしちゃったら申し訳ないんですが。…小さい頃に見せてもらった『銀眼』のシュタールの映像に心を打たれて、…私も誰かの心に、色褪せずに残り続けられる大スターになることが、夢になったんです」


 ノクサラさんは舌打ちをして顔をそらす。

 やっぱり言うべきじゃなかったのかもしれない。


「魔法は?」

「え?」

「魔法は使えないのか?走りながら魔法を使えるんなら、ある程度の距離制限を無視した戦闘ができるし、四足獣人テロフォロスの圧倒的な強みだろ」

「恥ずかしながら生活魔法くらいしか」

「もったいねぇー…。ヒッポフォロスと違ってちっこいから、こういった森林も動けるし、よくわかんねえが斜面にも強いのに。…つーか、スフル・デュ・クラージュはどうなんだよ、ヒッポフォロスのクランだろ?」

「落ちちゃいました、得意不得意の都合で。…仲良くはしてもらっているんですけどね」

「…そうか。……故郷から仲間を連れてこれないのか?」


 私が肩をすくめると、ノクサラさんは納得してくれた。


 魔導力船で三〇日間。郷守様とお祖父ちゃんが船賃としばらくの生活費を工面してくれたけど、複数人の船賃となれば難しい。

 私一人でここにいるのも、大変なことなんだ。


「アタシがさ、向いてないって切り捨てたら諦めるか?」

「諦めませんよ?」

「即答かよ。…くっそ、変な奴を拾っちまったなぁ」

「もしかして私と一緒にライバー冒険者を目指してくれるんですか?」

「…しばらくパーティを組んでやるだけだ」

「ありがとうございます、ノクサラさん!」

「はいはい。とりあえず、こんな雑魚相手じゃ酒代にもなりゃしない、エリアを移動するぞ」

「どっちに向かいますか?私は斜面を登っていきたいなって思っているんですけど」


 ノクサラさんは周囲をぐるりと見渡しながら、冒険者を見つける度に凝視していた。


「上に行くか。…多分だが、このまま下っていくとバカほど冒険者がいて、稼ぎにならねえ」

「池で餌を待っている鯉になってしまうんですね」

「よくわからんが、多分そうだ。見晴らしのいいエリアに行けることを祈って進むとしよう」

「はいっ」


 斜面を歩いていくノクサラさんの後を追う私は、一つの疑問を覚える。

 ノクサラさんは武器を携帯していないのだ。


 肘から先と、膝から下にかけて、金属製の鎧を限定的に装着しているものの、ただそれだけ。

 剣もなければな、魔法を使う杖もない。…鎧も限定的で不思議な姿である。


「なんだよ、ジロジロ見てきて」

「ノクサラさんは武器を持っていないのかなって思いまして」

「あんだろう、ほれ」


 そう言って、拳を握り、足を振るってみせる。


「徒手空拳ですか」

「そう。身体が武器なら、どんな時でも戦えるだろ」

「おー、理にかなっていますね」

「……アホなのか、皮肉っているのか」

「え?」

「アホだったよ…。コハクの弓以上に地味で、傍から見たら武器も知らねえ野蛮人だ。碌でもねえ戦い方だっての」

「それは拝見しないとわかりませんよ」

「そうですかい」


 そう呟いたノクサラさんは、一足飛びでフェラルドッグとの間合いを詰め、振り下ろした拳の一撃で相手を仕留めて見せた。

 短距離ではあるけど、その瞬発力は私の跳躍に近いか、場合によっては追い越されるほどだと思わされ、胸の鼓動が高鳴る。


 ノクサラさんはすごい冒険者なのかもしれない。

 彼女自身は地味だと言っていたけど、そんなことはない、私の目にはそう映った。

 一緒にライバー冒険者を目指して、大きなクランに入ったら輝ける未来があるのかもしれない。


「殴る蹴るなんて、ただの暴力だ。見応えもないし…野蛮なだけなんだよ」

「私はカッコいいと思いましたよ。…相手に一瞬で近づく爆発的な加速力は素晴らしいものでした。あれは武技なんですか?」

「ただの技術だよ」

「私にも――」

「悪いが、四足獣人に教えられるほど経験を積んでねえんだわ」

「残念です」


 ノクサラさんはボサボサの黒髪を掻きながら、斜面を登っていった。

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