6話 啄鎧矢 3
私とノクサラさんが、フェラルドッグを倒しながら山林の斜面を登っていくと、次第に木々が減っていき低木や高山植物が足元に茂る高山エリアにたどり着く。
山林と比べると風が強く吹いており、弓を引く際に矢の軌道調整が必要かもしれない。
「結構登ったし一旦休憩するか。…武技を万全に使うにはスタミナを残しとく必要があるからな」
「そうなんですね。…どこかで私の武技の調査というか、性能の確認をしたいんですけど、いいですか?」
「武技の確認?」
「ゲート職員の方から、代償に対して釣り合ってないって言われているんですよ」
「今日は急ぐつもりもねえし、今やるならやってくれてもいいぞ」
「ありがとうございます」
高山エリアには、少し身体の大きな山羊のようなモンスターがいる。
角は二本あり、全身を覆う長い縮れ体毛は、歩く度に地面を擦るほどで、私たちを見つけた途端、大きな声を上げて走り出した。
武技の確認も必要だけど、まずは普通に矢を射ってどれくらい通用するかを確かめる。
岩と低木の地面を駆けながら、山羊を左側に捉えながら第一射を放つ。
首を狙った矢は縮れた体毛を容易く貫通するが、一撃で倒すことはできない。
喉を潰された山羊は、怒りの形相で私を睨みつけ、必死に足を動かして突進を敢行するらしい。頭部に伸びた前向きの二本角に貫かれれば、痛手を負ってしまう。
身体を限界まで縮め力を蓄えた私は、山羊の一撃を受ける寸前に解放し大きく跳び上がり、空中から相手の脳天目掛けて矢を射ち落としてトドメを刺した。
「おー、んで武技はどっち?」
「どっちも違いますよ?」
「はぁ?」
「まずは普通に倒せるかどうかを、確かめてみようかと思いまして」
「いやまあ、必要かも知んねえけど…」
呆れの籠もった瞳を向けられながら、次のモンスターを探す。
目測で五〇バシスくらいの距離に、一匹の山羊が佇んでおり、私に気がつくと一直線に向かってくる。
山羊のような動物がこっちに向かってくるのは不思議な感覚だ。
でも、今回は感謝しないといけない。
私の武技は足を止めないといけないのだから。
こちらに向かってくる山羊に対して意識を集中させる。
すると、ドクンと山羊の鼓動を感じ取ることができ、心臓を狙わないといけないような、不思議な感覚に身体が支配される。
ゆっくりと流れる時間の中で、相手の心臓を射抜く最適な瞬間を待ち続け、相手との距離、相手の姿勢、そして私の鼓動が重なる瞬間に、弦から指を離す。
「貫き穿て『啄鎧矢』」
空を穿った矢は、山羊の体毛を容易く貫通し、肉に刺さって止まることなく体内を突き進む。
その後、一歩二歩と足を進めた山羊は、泡立った血液を口から吐き出し、地面に倒れて消滅していった。
「今のが武技か」
「はい、武技の『啄鎧矢』です」
「代償っていうのは?」
「身体が痺れて動けないのと、すっごく疲れます」
「なるほどなぁ。………うーん…普通の射撃とは違って、矢が肉に刺さらず、体内を突き進んでいった。これだけ見れば、貫通力のある射撃にも見える。だが、身体に入った後、その矢が外に飛び出すことはなかった」
「初めて使った時もですが、相手の心臓の鼓動が聞こえるんですよね。なにか関係あると思いますか?」
「あー…わかったわ」
「おお!」
「心臓特効、要は心臓を潰すことに特化した武技ってことだ。口から血液を吐き出していたことも考えると…心臓を中心に内臓そのものを破壊する効果、なんだろうな。…エグいわ」
「おぉー…」
心臓は生き物にとって共通の弱点。それを確実に潰せるのなら、とっても強い武技だ。
けど、やってることが…エグいような。
「ちと休憩したら、その武技で心臓以外を狙ってみろ」
「というと?」
「その武技がコハクの実力次第なのかが分かる」
「わかりました!」
その後、ノクサラさんが護衛を務めてくれる中、啄鎧矢を心臓から外して射ってみたところ、その矢は身体を貫通して地面に突き刺さっていた。
そして、途轍もない疲労と強烈な痺れが私の身体に襲いかかり、まともに動けなくなってしまうのであった。
―――
「すみません。こんなことになるなんてわかってなくて」
「いいよ別に、やれって言ったのアタシの方だし」
私はノクサラさんに膝枕をしてもらいながら、彼女の顔を見上げる。
綺麗な銀色の瞳だ。
「コハクの武技…えっと、なんて名前だっけ?」
「啄鎧矢です」
「そのキツツキだがな。アタシの見立てじゃあ、威力や破壊力、そして矢の速度みたいな部分には一切の変化がなく、純粋に貫通力だけが増えている。そして、心臓に命中することで、相手の心臓を確実に潰し、死に追いやる武技だということになる。…というかそれくらいしないと、ここまでの代償は割に合わない」
「矢そのものは変化しないけど、矢に特殊な力が付与されるんですね」
「そう。…残念ながら、やってることは地味だし、一回しかまともに使えない。二回連続で使えば、事実上の退場と変わらねえ。難儀なもんだな」
「ですね〜。それでもないよりはマシですし、この武技は実績作りの役に立つと思います」
「前向きなこって」
「エラフォロスみたいな四足獣人は、後ろ向きに歩くのが苦手なんですよ?」
「そうですかい」
ノクサラさんは私をジッと見た後、照れ臭そうにして空に視線を向けてしまった。
風に煽られた私の白い髪がノクサラさんの指を遊ぶのだが、少し面倒くさそうに払いのけられるだけで、嫌そうにはしていないように思える。
「これからよろしくお願いしますね」
「……あぁ」
小さな返答は風に流されて消えてしまったが、私の胸には確かに残っている。
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