3話 山林エリア 5
“ヒッポフォロスの少女”が武技を放ち、ペトロボアと相打ちになった直後、ペトロボアの身体がぐらりと揺れて、そのまま崩れ落ちて消滅した。
僕たちは失敗し、少女の期待に添えなかったというのに、彼女は矢の一撃でペトロボアを葬ってしまった。
今の武技と、囮になって時間を稼ごうという覚悟を鑑みると、手練れの冒険者だったのかもしれない。
いや、思い返してみるとペトロボアを知らなかった。新人か、雑魚専門の冒険者だろう。
彼女は一体…。
「あのお嬢ちゃん…一撃でペトロボアを倒しちまったな」
「ですね。聞き覚えのない武技でしたが、何かご存じですか?」
「いんや、わかんね。そもそも武技の名前って、使い手次第で変わったりすんだろ?異邦の出身かもしれねえな」
「なるほど。それにしても小柄な割に随分な威力でしたね」
「…高威力ってのはどうだろうな」
僕は魔法使いだ、武技については詳しくない。
小さな疑問を覚えるほどの、何かがあったのだろうか。
「チッ、ペトロボアのスコアが俺とお前の二等分になっちまってる。あのお嬢ちゃんを探して、今回の対価を渡してやんねえとな」
「ですね。ヒッポフォロスが第三類種族ですしキュクロリムニ区にいるはず、近くのゲートは…」
「……第六ゲートかぁ、街の反対側だ」
僕たちは出口の小屋を目指して歩いていった。
「冒険者歴がそこそこある。なんて見栄を張ってしまいましたけど、僕たちはまだまだですね」
「んだなぁ…」
―――
私恋白の意識が戻った時、そこは第六ゲートのロビーだった。
後ろを振り返ると、乳白色の泉が波打っており、改めてルーシッド・エデンでの死んだのだと自覚させられる。
不思議と恐怖はないが、ペトロボアを倒しきれなかったことは悔やまれる。
そういえば、先に倒されてしまった冒険者はどこだろう?
…見当たらない。アザレアさんに聞いてみようかな。
窓口の方へと視線を向けてみると、アザレアさんはお客さんの対応をしていてお仕事中だ。
けれど、私の姿を見つけると、小さく笑みを浮かべてくれた。時間を置こう。
私は会釈をしてから、ロビーで人のいないところを探して、休憩を取ることにした。
―――
ペトロボアと戦う時、矢を結構消費しちゃったし、作り直さないと…って、あれ?
私が首を回して箙と矢筒を確認すると、そこにはルーシッド・エデン内で消費した矢が戻っている。
身体が魔導体に置き換わっているって話だけど、装備や消耗品も置き換わるようだ。
それなら質の良い消耗品を用意する選択肢が出てくるね。鏃の素材とか色々考えてみようかな。
今後のことを考えていると、アザレアさんは窓口から私の方へと歩いてくる。
「お仕事中にすみません」
「いえいえ、かまいませんよ。第六の登録窓口って暇なことが多いので」
「そうなんですか」
他のゲートをみたことはないけど、ここは他より空いているってことなのかな?
「ルーシッド・エデン内で倒されてしまったんですが、その直前に協力していた冒険者を探していまして」
「あー…ゲートという入り口自体は複数あるのですが、ルーシッド・エデン自体は一つしかありませんので、違うゲートから排出された可能性がありますね」
「そういう仕組みなんですね。人間種系の冒険者だった場合は…」
この第六ゲートを見回してみれば、二足獣人系の冒険者が多い。
パラデイソポリスは種族によって、大まかにではあるが生活地域が分けられているので、この辺りの冒険者ではないのだろう。
「第一から第四ゲートあたりでしょうし、見つけるのには苦労すると思います。名前が分かればこちらから連絡先を伺うことは可能ですが」
「いえ、大丈夫です。共闘のお礼といいますか、挨拶をしておきたかったなってだけなので」
「そうですか」
アザレアさんは私の顔を見ながら、コテンと首を傾げる。
鳥の二足獣人であるアザレアさんの赤い髪には羽毛が混じっており、首を傾げた拍子に一枚が抜け落ちて舞っていく。
窓口を介してお話をしていたときと異なり、アザレアさんからは身長が高い印象を受ける。
一七五バシコンくらいだろうか。
「遠くまで移動しましたか?」
「いえ、山林でフェラルドッグを狩っていました。…ただ、何かしらの事故だったでしょうけど、ペトロボアに追われている冒険者が現れまして、倒そうと共闘した感じです」
「ペトロボアが初期エリアまで…。碌でもない冒険者もいたものですね、規則違反なので特徴を伺ってもよろしいでしょうか?」
「その、彼らも被害者っぽくて、一つ先のエリアで襲われて、必死に逃げてきたのだと言ってました」
「そうですか。それでも一応教えてもらえると助かります」
私は冒険者三人の容姿や装備を伝えつつ、戦闘の顛末をアザレアさんに話す。
「ご協力ありがとうございます」
「どういたしまして。彼らは悪い人じゃなさそうでしたし、責めないでもらえると助かります」
「上にはそのように報告しておきますね」
「ありがとうございます」
「ところで、コハクさん」
「はい?」
「武技を習得なさったのですね。メジャーな武器種であれば、入った瞬間にということもありますが、状況を鑑みるにコハクさんご自身の武技を『萌芽』、いえ『発芽』させたように思えます。結構すごいことなので、是非とも胸を張って冒険者活動をなさってください」
「おお、すごいことなんですね!やった!」
私は胸に込み上げる嬉しさから、その場で小さくジャンプをしてしまう。
「あっでも、ただ岩鎧を貫通しただけで、見た目は地味だったんです。…その割には身体が動かなくなったり、すっごい疲労感があったりと、なんか使い勝手が悪そうなんですよね」
「…ふむ、わたしは魔法系なので武技はそこまでではないのですが、武技というのは強さに比例する代償が伴います。もしかしたらですが、何かしら隠された効果があるのかもしれません」
「なるほどっ!じゃあ体力に余裕のある時に、色々と試してみたいと思います!」
「それがよろしいかと」
その後、私はフェラルドッグのスコア八〇を換金し、八〇〇カルタを受け取った。
パンを三個買えるかどうかという報酬だ。
蓄えを切り崩さないように生活するには、ペトロボアみたいなモンスターを狩れるようにならないといけない。
…やはり、パーティを組む必要がありそうだ。
「もっと稼げるようになって、実績も作らないと」
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